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第70話 勇者、誕生(クロム過去編⑥)

「クロム=レオンハートよ。

 お主に『勇者』の称号を与え、魔王討伐を任ずる!

 人々を守る盾となり、影を照らす剣となれ!」


 ウォレスタ王国国王、ガルドレイド=ウォレスタの声が響く。

ゼノム前王の暗殺から一夜明け、ウォレスタ王都広場で騎士たちの出陣式が開かれた。

同時に、ギリアムから俺への上級騎士長就任式も行われ、俺は晴れて騎士長となる。

そして、国王直々の命により、人々を守る盾、影を照らす剣『勇者』の称号を与えられた。


 勇者となった俺は、ギリアム、ミストを筆頭とした上級騎士を魔王討伐隊として編成。

魔王がすでに動き出しているなら、俺たちはその裏をかかなければならない。

魔討伐隊は、魔界に隣した山を越え、直接魔界へと進行する。


 本来ならば精霊樹を辿るルートでなければ魔界へはたどり着けない。

魔界と人間界を隔てる山は、ドラゴンさえも近づかないと言われるほど険しい山で、越えるのは不可能とされているからだ。

しかし、それを乗り越えることができれば、大幅に時間を短縮して魔界へと進行できる。


 それを可能にするのは上級騎士を含む、実力者のみ。

討伐隊は俺、ミスト、ギリアムを含めても十五人。

ガーティスは、精霊樹へ向けて進行する騎士たちを率いる。

リノシアとウォレスタの兵士が精霊樹で合流し、精霊樹を防衛戦として戦うらしい。


「よし、式も終わったし、早く出発するぞ。

 こうしてる間にも、魔族たちは進行してきている」


「ノリノリだね、クロム。

 『勇者』になったんだもん、そうだよね」


 俺の様子を見て、ミストが笑う。

正直、ノっているのは確かだ。

異世界に転生する時に、剣と魔法のファンタジー世界への転生を願った。

俺はたぐいまれなる才能を身に宿していて、幼少期からその才能は発揮される。

そして、王国かなんかに認められた俺は勇者として世界の危機にヒロインや仲間と一緒に立ち向かう。

このことをしばらく忘れていたが、魔王暗殺の知らせで、物語は動き出した。


 俺が『勇者』として国に認められ、こうして魔王と戦うのも、ある意味運命づけられたもの。

人間には扱えない魔法を、特別に使えるのも俺の特権。

物語の主人公として、俺は成すべきことを成さなければならない。


「勇者……だからな。

 魔王を倒して、平和な世界にする。

 争いなんて起こらない、平和な世界に」


「……ねぇ、クロム。

 なんで魔王を倒さないといけないのかな?」


「……え?」


 素朴な疑問を、ミストは口にした。

あまりにも普通な質問で、俺は少し驚く。


「魔王を倒さなくても、平和にはできると思う。

 だって、前の魔王の時は、平和までもう少しって感じだったし……

 今回のことも、平和を嫌う誰かが仕組んで、争いを起こそうとしているだけなのかもしれない」


 いつになく真剣な眼差しで俺を見つめるミスト。

ゲームでは大体、魔王が悪役と相場が決まっている。

魔王の裏で暗躍している奴が裏ボスだったりするが、それがわかるのは物語終盤。

今回もそのパターンかもしれない。


 確かにこの世界は、ゲームの世界のように、魔王が支配している世界ではない。

しかし、魔王によって支配される可能性のある世界ともいえる。

もしも可能性があるなら、勇者としてそれを食い止めなければならない。


「ミスト、たしかにそうかもしれない。

 でも、そうしている間にも、人々が傷ついていくのも確かだ。

 俺は勇者として、守らなければいけないものがある」


「……うん、だよ、ね」


「もし、今回の件に黒幕がいるならそいつを止めないとな。

 魔王をとっ捕まえて、真相を聞かないと。

 ……殺すのは、最悪の時だけだ」


「……! うん!」


 少し格好つけた風に言うと、ミストは顔を明るくし、笑った。

何も魔王を殺す必要はない。

討伐隊という名称だが、それはあくまでただの名前。

今回の件が裏で操られているなら、亡き兄のために人間に宣戦布告した現魔王も被害者ということになる。

俺は人々を守り、影を照らす剣。

魔王の元に影が降りているなら、その影を照らすのが俺の役目だ。


「二人共、お話はそこまでだ。

 もう行くぞ」


 ギリアムが俺に声をかけた。

俺は頷くと、剣を掲げる。


「討伐隊に選ばれた騎士たちよ!

 今こそ出陣の時!

 その胸の誇りと命を燃やし、共に戦おうぞ!」


 騎士たちが歓声を上げる。

その声を聞き、俺は士気が確かなものだと悟った。

今から討伐隊が向かうのは、人を拒む禁域。

生半可な覚悟では、決して越えることのできない場所。

だがきっと、この騎士たちと一緒ならば越えられる。

確信した。

ただ一つ心配なのは……


「……なぁミスト。

 やっぱり一度、アリアに会うか、手紙を残した方がいいと思うんだが……」


 俺が心配なのは、リノシアにいるミストの妹、アリアのことだ。

今回の戦いは、死者が出てもおかしくない危険なものだ。

ミストのことは俺が命がけで守るとしても、怪我や危険から完全に守ることはできない。

会わずに心配をかけるよりも、会って心配されるほうが、俺はいいと思う。


「手紙はもう送ったよ。

 夢を追う妹に、余計な心配はかけられないって」


 先とは違う、少しつらそうな笑顔だった。

俺は何か声をかけようとしたが、何か適当なことを言うとミストの覚悟を無下にするような気がしたのでやめた。

しかし、やはり会うべきだったと俺は思う。

手紙ではなく、直接、顔と顔で。


 俺は少しの不安を抱えて、ウォレスタ王国を出発した。

やがて訪れる、最悪な事態を知らないままに。

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