第69話 戦いの夕凪(クロム過去編⑤)
生き返りました
宿舎内に、鐘の音が響く。
これは非常事態の時になる鐘の音だ。
「魔王が……魔王が暗殺されたぞ!!」
その知らせを受けたのは、俺がウォレスタ王国の上級騎士長試験に合格した、次の日のことだった。
魔族の王、ゼノム=ゼクヴァインが何者かによって暗殺。
ゼノムの弟であるルーヴァスが王位を引き継いだとガーティスが教えてくれた。
「ルーヴァスはゼノムの暗殺には人間が関わってるってよ。
魔族もそれに焚き付けられて、和平推進派も反対派も一緒になって騒いでる。
多分……このままだと……」
「戦争……だろうな」
俺は唇を噛み締め、これからのことを考えた。
魔族が前王暗殺でいきり立っている今、ルーヴァスが進軍してくるのも時間の問題。
早くリノシアと連携を取らなければならないだろう。
出来ればレギルディア……いや、あの国は難しいかもしれない。
「騎士長になって最初の仕事がコレか。
親父が、今回ばかりは腹をくくれってさ」
「ギリアムが?
相当ヤバイらしいな……」
腕を組み状況のヤバさを噛み締めていると、後ろからミストが顔を出してきた。
地下の研究室で何かしていたようだが、この騒ぎで何か嗅ぎつけたらしい。
「ねぇクロム。
どうしたの?」
「あぁ、どうやらゼノム王が暗殺されたらしい。
人間の陰謀だってルーヴァスが騒いで、もしかしたら……」
「……戦争、か」
俺とミストは騎士になってから、ちゃんとした実戦を経験したことがない。
野盗退治や、魔物の討伐はちょくちょくあったが、人を殺めたことは一度もなかった。
ましてや、魔族との交戦は和平交渉が進んでいたため、することすら禁じられていた。
「戦いになって、私、ちゃんと戦えるかな……
模擬戦とかならともかく、相手は魔族になるわけだし。
それに、魔法も使ってくる……」
「心配するな、大丈夫だよ。
魔族が相手でも、その殆どは魔物だ。
魔法だって、ミストは性質を理解してるんだし」
ミストの心配を出来るだけ軽くしようと思い、言う。
今は兵士だけが魔王暗殺を知っている。
しかし、この情報が人々に知れ渡るのはそう遅くない。
そうなれば、俺たち王国騎士が、国民を守るためにしっかりしなければならないのだ。
「そういえばミスト、お前地下で何やってたんだ?」
「あ、あぁ。
そういえば言ってなかったね」
そう言うとミストは、地下の研究室に戻っていった。
俺とガーティスは目を合わせて首をかしげる。
少し待つと、ミストが何やら武器のようなものを持って戻ってきた。
「……それは?」
ガーティスが不可解な物を見るような目で言った。
それもそうだ。
ミストが持ってきた武器は、剣というには大きすぎる。
しかし、鈍器というにはいまいちなもの。
「これはね、魔晶石を埋め込んだ武器よ。
試作機一号で、叩き切るようなイメージで使う感じ」
「そんな獲物で誰と闘うんだ?
魔晶石って、前に言ってた魔力の結晶のことだろ?
それを埋め込んでるって……」
俺が言うか言わないかくらいで、ミストは「よくぞ聞いてくれた」という顔をする。
得意げで、ドヤ顔に近い、そんな顔だ。
「この武器……大剣の鍔に光属性の魔法が込められた魔晶石が埋め込まれてる。
それを反応させるのがこの柄部分ね。
柄を握って魔法のイメージを念じると、鍔が展開して魔法が発動するの。
前に言った、デメリットのない魔晶石の用途はこれね」
「はー…… なるほどなぁ。
で、それ、誰が使うんだよ」
「……考えてなかった」
ミストは「いっけね!」みたいな顔をして俺を見る。
ガーティスはランス特化みたいなところあるし、俺も巨大な武器を扱ったことは一度もない。
このレベルの武器を使いこなすには、専門的な技術がいるだろう。
「んー、どうしよっかなー。
あ、そうだ! アリアの誕生日プレゼントにしようかな!」
「やめとけやめとけ。
今年で……たしか十七歳になるんだっけ。
そんな年頃の女の子に物騒なもんプレゼントするなよ」
「それもそうかー。
今は司書目指して頑張ってるし、さすがに武器はマズイか」
そう言ってミストは残念そうにため息を吐いた。
ミストの妹、アリアは成人後リノシアに留学。
リノシア・ウォレスタどちらかで司書になる夢があるそうだ。
しばらく会っていないが、向こうで友達も出来たらしいとミストから聞いた。
武器をどうするか考えていると、宿舎内にまたも鐘の音が響く。
これは召集の合図。
俺たちは顔をあわせて頷くと、宿舎外へ出る。
既に多くの騎士達が整列していた。
俺とミスト、ガーティスは上級騎士なので前に立つ。
本当なら俺は騎士長になったので、こういう非常時には他の騎士に命令したりするのだが、就任式がまだということもあり、今は前騎士長のギリアムがその役を担う。
ギリアムが騎士たちの前に立ち、深く息を吸い込んだ。
「噂の通り、魔王ゼノム=ゼクヴァインが暗殺された。
弟、ルーヴァス=ゼクヴァインが王位を継ぎ、先ほど、人間全体に宣戦布告した。
魔族は、精霊樹を越え、人間界に迫ろうとしている」
ギリアムの言葉で、騎士たちはざわつき始めた。
それもそうだ。
こんなにも早く、宣戦を布告してくるとは誰も思っていなかったから。
「静かに!
……我々ウォレスタ王国騎士団は、迫る脅威に対し、国民と国を守る義務がある。
よって、魔族が動くのならば、我々も動かなければなるまい」
ギリアムはゆっくりとその場から歩き出し、俺の前に立つ。
そして、俺の肩をポンと叩くと、こう言った。
「我々、ウォレスタ王国騎士団は、死力を尽くし闘う。
そのために、騎士長を中心とした特別部隊を編成し、魔王を討つ!」




