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第68話 クリスタルメモリー(クロム過去編④)

お久しぶりです。生きております。

まだまだ忙しい日が続きますが頑張ります。

 王国騎士になってから約一年。

時が経つのは早いものだと俺は思っていた。


ついこの間までは辛かったギリアムのトレーニングも、今では割と余裕をもってこなせている自分がいる。

まぁ、ギリアムの過剰トレーニングについていけているのは俺とミスト、あとはギリアムの息子であるガーティスくらいだが。


 ガーティスは俺よりも年上で、今は21歳。

その若さながら上級騎士に認定されているのだ。

ギリアムの息子であるからなんていう理由ではなく、誰もが認める実力者として上級騎士という立場になったのである。


「あー、やっぱ俺もなりてぇなー

 上級騎士になりてーなー」


「んー。

 クロムなら魔法も使えるし、半年後くらいにはなってるかもよ?」


 目の前で何かをいじっているミストが言う。

わけのわからない機械が、これまた謎の液体を生成している。

液体の中には結晶があり、どうやらこの「何か」は結晶を生み出すものらしい。


「ちゃんと聞いて言ってるのか?

 俺は真面目に上級騎士になりたいんだ」


「真面目の真面目、至って真面目よ。

 戦闘技術だって、ギリアムさんが褒めてるくらいだし……はい、完成!」


「……それ、なんだ?」


 ミストは液体の中から得意げに青い結晶を取り出した。

まるで宝石のように綺麗だが、一体なんだというのか。


「これはね、魔力の結晶よ」


「ま、魔力の結晶!?」


「そ。

 空気中にわずかに存在する魔力の粒子を一週間かけて結晶化させたものがこちらです」


 空気中に存在する魔力の粒子を結晶化させる技術を、まさかこんなところで確立するとは思わなかった。

しかも本職ではなく趣味の範囲でだ。

一部界隈の人から見たらのどから手が出るほど欲しがる技術だと思う


「これさえあれば、人間でも魔法が使えるようになるわ。

 まぁこの結晶は純粋な魔力の塊だからできないけど、特定の魔力粒子を結晶にすれば、それに応じた魔法が使えるってわけ」


「……な、なるほど」


「炎の魔法を使いたいなら、この結晶を作る課程で空気中から集める魔力粒子のパラメーターをある一定のレベルに偏らせればいいの。

 もちろん、他の属性魔法についても同じだけど、どんな魔法がどのパラメーターで生まれるかは調査しないとわからないのが難点ね」


「なるほど、だいたいわかった。

 つまりお前は、ヤバイ発明をしたってわけだな?」


 ミストの言っていることが本当なら、人間でも手軽に魔法を使える時代がいずれ訪れる。

人間と魔族がいつか再び戦争をしたときに、人間はこれを武器として使うことができるので、戦局が大きく変わる可能性があるのだ。


ある一つの兵器開発が、後の時代に影響を与える場合がある。

現実世界では、ある兵器の開発で今もなお絶大な抑止力が働いているのだから、考えれば考えるほどに恐ろしい。


「まぁヤバイね。

 でも安心して、ちゃんと考えてるから」


 そう言うとミストは、機械の影にあった設計図のような紙をびりびりと破く。

さらに破いた紙を先の液体に浸し、何が書いているのかわからなくなってしまった。


「これでこの機械に関する重要な部分が消えました!

 もう一枚の設計図には書いてない重要な部分です」


「重要な部分?」


「魔法の使用にデメリットを付加させたの。

 今ある機械で作れる魔力の結晶だと、普通に魔法が使えちゃうからね。

 ちょっと悪い成分を混ぜて作る方の設計図だけ残しておくの」


「でも、設計図を解析されて、発展していったら意味ないんじゃ?」


「今まで誰も作れなくて、どうすればいいか全くわからないものを作ったのよ?

 そこまで頭が回るようになるのはしばらくあとの世代よ」


 うん。

ミストはやはり騎士になるべき人間ではない。

しかし、科学者や技術者にしたらもっと危ない。

適当に農家でもやっていってくれる方が余計な心配をしなくて済むというものだ。


 これだけの技術を持っていることを国の上層部が知ったら、騎士という立場にはいられないだろう。

他の国に技術が漏れることを嫌うし、もしも他国がそれを知ればミストは狙われる立場の人間になる。

俺はそういうことになってほしくない。


「大丈夫。

 クロムが思ってるより、私は頭の回る人間だから」


 ミストは俺が脳内で思っていることに対して、答えるように言った。

一年前の彼女とは少し違う、大人びた女性の表情で。


 騎士になってから、ミストは少し逞しくなった気がする。

精神的にも肉体的にもそうだが、なんだが直感的にそう思うことが多くなった。

毎日会っていて気づかないときもあるのに、こうしたときにふと感じる。


「……じゃあ、今作った結晶はどうするんだ?」


「あー、これね。

 これを含めて実験で作った結晶の用途は考えてあるの」


 懐から三つの結晶を取り出すミスト。

結晶の中には、赤い宝珠が埋め込まれているものが一つと、淡い黄色の宝珠が埋め込まれているものが一つ。

そして、結晶自体がオレンジ色に輝いているものが一つある。


「今作った結晶は、私のお守り。

 この黄色のは、結晶を武器に利用できないか実験。

 赤いやつは一応保管しておこうと思ってる。

 んで、このオレンジ色のは……」


 ミストはオレンジ色の結晶を俺へと差し出した。

この行動が意味することは一つ。



「え、くれるのか?」


「もちろん。

 この結晶に込められてる魔法は、所持者に何か危険が迫ったときに発動するようになってるの」


「どうやって効果を知ったんだ?」


「まぁ……実験の時に二つ生成されて、一つはなんか私が実験をミスした時に勝手に発動したから……」


「お前……実験中に危険な目にあってんじゃん」


 確かに魔法の効果はわかった。

しかしミストよ、偶然にも魔法が働いたからよかったものの、もしも魔法が発動してなかったら危なかったんじゃないか?


「……ま!

 私の運がよかったってことで!」


 ニコッと笑うミスト。

その表情を見ていたら、なんだかどうでもよくなってきた。

今ここに彼女がいる。

それだけで十分だ。


「……そうだな。

 この結晶の魔法が、明日の訓練で発動しないことを祈るよ」


 俺はそう言って、ミストと一緒に笑った。

子供の時のような、楽しい時間をミストと過ごすことができてなんだかうれしい。

こんな日も、たまにはいい。

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