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第66話 これからのこと(クロム過去編②)

 俺が異世界に転生して数年。

現実世界でいうところの中高生くらいの年齢になった俺は、異世界生活を満喫していた。


 この世界……いや、厳密には俺が住んでいる大陸はアースガルドと呼ばれており、魔族や半魔族、人間といった多種族が暮らしている。

俺はアースガルド大陸の南部に位置するウォレスタ王国に生まれたということになっていた。

魔族と人間は対立しており争いが絶えないので、魔界に近いリノシア共民国に生まれていたらまた違った人生だったろう。


 しかし、先代の魔族の王が退位した後、新たに王の玉座についた新魔王は人間に対して好意的であった。

和平の道へ進めるのではないかと考え、人間側との交渉も進んでいる。

魔族の中には反対派も多くいるが、新たな時代の幕開けを信じる魔族もいるのだという。


「……っていうところまでは勉強した」


「それ、ぜんぜん進んでないっていうんだけど?」


 目の前に座って行儀よく勉強しているミストが言う。

異世界にも学校というものが存在し、そこに俺とミストは通っている。

ちなみにミストは幼なじみで、幼少期から一緒にいる仲だ。


「ちゃんと勉強しないと怒られるわよ?

 前回のテストも私が勉強を教えたから何とかなったんでしょ?」


「まぁ……そんな感じかな。

 運動以外の授業はつい眠くなってな」


「授業を真面目に聞いてればいいのに」


 授業中、つい眠って俺は、授業の内容を一切覚えていない。

だから真面目に授業を受けているミストに聞かなければ、俺の成績は運動以外地に落ちる。

だからこうしてミストを家に呼んで、二階の自室で勉強を教えてもらっているというわけだ。


 そろそろテストだから、まずは歴史についてミストに聞いた。

「今はどこまでわかるの?」と聞かれたので、知っているとこまで答えたら呆れられている始末だが。


「頼むよミスト〜。

 今回だけでいいから教えてくれ!!」


「……もう、仕方ないわね。

 今回だけよ?」


「やった!!

 流石ミスト様だぜ!」


「はぁ……

 こんな時だけ調子いいんだから」


 ミストは、運動も勉強もできるいわば天才である。

しかし、ミストは運動よりも勉強を楽しんでいるようで、今はカラクリめいた物を作るのに夢中だ。

この前は、蒸気でタービンを回し、それを動力に動く謎の機械を作っていた。

機械いじりをしているときが一番楽しいらしい。


「……ところでクロム。

 もう進路は決めたの?

 そろそろ私たちも決めなきゃいけないでしょ?」


「あー、そうだったな。

 ミストはどうするんだ?

 やっぱり、機械系なのか?」


「そうしようと思ってる。

 まだ技術を知っている人が少ないから、広めていけばもっといいものを作れると思うのよね」


 ミストは運動も勉強もできるので、いろいろなところから声がかけられているのだ。

王都の技術者はミストの技術を欲しがっているし、王国の騎士団からも誘われている。

さらには、王国書庫の司書にもだ。

引く手数多なミスト様だが、本人はやはり技術職に就くつもりらしい。


「なるほどなー。

 俺はまぁ、今のところ王国の騎士団かな。

 声かかってるから試験もないし、性に合ってると思う」


 俺の言葉を聞き、ミストは少し残念そうな顔をした。

騎士団に入ることの何が問題なのだろうか。


「そっか……

 じゃあなかなか会えなくなるかもね」


「え?

 そうなのか?」


「だって、騎士だと遠征とかも多いじゃない。

 今までみたいな頻度で会うのは難しいと思うの」


「どうかな。

 確かに頻度は減るかもしれないけど、会えなくなるわけじゃないし」


「……そうね」


 ミストは何かを考えたような様子を見せたが、すぐにそれをやめた。

再び勉強に戻り、先までの会話の流れは失われる。


 しばらくの間、お互い何も喋らず無言が続く。

どこか気まずい空気の中、先に折れたのはミストの方だった。


「そういえば、この前の結果出たの?

 ほら、人間なのに魔法が使えちゃったって」


「あー……それか。

 専門の人でもわからないみたいだぜ?

 なんかしらんけど、魔族とは別の原理で魔法が働いてるんだと」


「なにそれ……怖い」


 本来、人間には魔法が使えない。

厳密には、魔力を貯蔵する器官が人間には存在しないので使えない。


しかし、俺はその器官が存在しないのにも関わらず、魔法を使うことができる。


 運動授業の時、俺とクラスのみんなでドッジボールをしていた。

もちろんドッジボールは俺がルールを教えて広めたんだが。


 いつものように試合をしていたら、俺へ向けてボールが飛んできた。

ちょうど避けれない体勢で、俺は向かってくるボールを受け止めるしかなかったのだが、反射的に手をかざした時に魔法が発動したらしい。


 俺は目を閉じていたので見えてなかったのだが、手をかざした瞬間に稲妻が手から放たれたという。

それでボールは黒コゲ。

偶然見ていた先生が、俺を魔族のスパイか何かと勘違いして、俺は王国の専門家に検査された。

結局謎めいてるらしいけど。


「だからこそ騎士ってのはいいと思うんだ。

 魔法が使える騎士なんて、この世界でただ一人だぜ?」


「それはそうだけど……

 でも、みんなが魔法を使えるようになればどうかしら?」


「……できるのか?」


「理論上はね。

 魔力器官がなくても、魔力を蓄積している物体があればそこから魔法は発動できるはず」


「ミストなら本当に作っちゃいそうだな。

 その、外付け魔力器官??」


「かもね」


 ミストは怪しく笑う。

この笑い方は、何かをたくらんでいるときの笑い方だ。

マジでミストならやるかもしれない……


「クロムー!

 晩ご飯できたわよー!」


 一階からの美味しそうな匂いが鼻腔をくすぐる。


「お、そろそろ晩飯か。

 ミストも食ってくだろ?」


「えっ。

 いいのかしら?

 昨日もご馳走になったのに……」


「大丈夫大丈夫。

 たぶん、ミストの分まで作ってるはずだぞ、俺の母さん」


「そっか……

 それじゃ、いただいていこうかな」


「よっしゃ、そうこなくっちゃ!

 その代わり、勉強頼むぜ?」


「もう!

 結局それが目的じゃない!」


 俺とミストはいつもこんな感じで毎日過ごしている。

小さいときからずっとそうだ。

たぶん、これからもずっとそうだ。

進路はお互い違うけど、なんだかんだで仲良くやってる。

そう俺は思うのだ。 

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