第65話 さらば現実、俺は異世界に転生する!(クロム過去編①)
薄暗い部屋の中、いつものように俺はネットの海に潜っていた。
生まれてから早二十数年。
来る日も来る日も両親のスネをかじり、働くこともせず一日のほとんどを実家の自室で過ごしている。
こんなクソみたいな世の中で、俺が働く意味が見出せない。
そもそも、俺が生きてる意味ってなんだ?
死にたくないから生きてる。
たぶん、そんな感じだ。
ある日の深夜。
俺はコンビニに今週発売の月刊誌を買いに向かった。
俺ならもっと面白いものが書けると、作品を叩くことが出来るから毎月買っている。
だからその日も買いに行った。
結果から言えば、もうその本は読めなくなってしまったが。
コンビニ前の横断歩道で、信号が変わるのを待っていた。
スマホでSNSを楽しみながら、ちょくちょく信号を見る。
だから気づかなかったんだ。
視界端の違和感に気づいて顔を上げた時にはもう遅く、俺は突如として突っ込んできたトラックにひかれて死んだ。
痛みと吐き気と寒気がごちゃ混ぜになって、わけがわからないまま。
俺は短い一生を終えたはずだった。
気がついた瞬間、真っ白な空間にいた。
辺りを見回してもなにもない。
ただひたすらに白い空間。
ここは一体どこなのか。
疑問が頭を埋め尽くす中、答えは返ってきた。
「目が覚めましたか?」
後方からの声に驚き振り向いてみると、そこには青と白のドレスに身を包んだ金髪の美少女が立っていた。
碧色の瞳に、豊満な胸。
ネットの中……二次元でしか見たことがない美少女がそこにはいる。
「申し訳ありません。
貴男は私たち『神』の不手際で間違って死なせてしまいました」
あまりの驚きに声が出ないままでいる俺に、少女は続ける。
どうやら俺は本当に死んでいるらしい。
しかも向こう側……神の不手際で。
「あ……本当に死んだんですか、俺」
「はい……
貴男は本当なら、あと六十八年の余生が残されていました。
しかしながら、世界のバランスが崩れた影響で不手際が発生してしまい、このようなことに……」
少女は暗い表情のまま俯く。
こんな時、どうやって励ませばいいんだろう。
現実世界でコミュニケーション能力スキルを取得していなかった俺にはわからない。
素直に言えばいいのだろうか?
「あ、いえ、その……
どうせ死んだも同然みたいな人生だったので、大丈夫です。
このまま死んでも特に困りません」
俺の言葉を聞いて、少女はさらに表情を暗くした。
あれ……俺、何かマズイことを言ったか?
ダメだ……こんなリアルなギャルゲ、エロゲをしたことがないから全くわからない。
どんなルートに突入しているんだ俺は。
「……そう、ですか。
貴男は、もし別の世界で生きることができると言われたら……
どうしますか?」
「別の世界……?
それは、俺が今までいた世界とは違うってことですよね?
パソコンとかもなかったりみたいな」
少女は頷く。
うーん……パソコンがない可能性もあるのか。
いや、でもMMORPGみたいなファンタジーな世界である可能性もあるし、巨大ロボットで宇宙戦争に参加するSF世界の可能性も……
俺の悩んだ様子を見て、少女は慌てて続けた。
「あ、もしも要望があれば、その要望に出来るだけ合わせます!
出来るだけサービスはしますので……」
ほほう……サービスをしてくれる。
でも出来るだけ……か。
何でもではない、非常に残念である。
「なるほど……
だったら別の世界で生きたいですね。
今とは違う、意味のあるものになると思うし」
そう言うと、少女は表情をパァッと明るくした。
微笑む様子はまるで天使……いや、女神。
というかこの子、神なんじゃないのか?
さっきも言ってたし。
いや、でも秘書とかの可能性もあるのか……一応聞いておこう。
「あの、もしかして……
女神様的な立場の人でしょうか?」
「はい!
しがない女神ですが、一生懸命ガンバってます!」
両手をぐっとして、がんばってますアピールをする女神様。
なんだろう……ちょっと、ちょっとだけ心配になってきた。
ドジッ娘的な要素が見える。
「じゃあ細かい要望なんかをここに書いてもらっていいですか?
神の世界も人間世界と同じで何でも書類を書かなきゃいけなくて……」
女神様は空間をタッチすると、羽根ペンと光り輝く紙を生成した。
光る紙の中には要望を書くスペースがあり、そこに細かい要望を書き込む。
そうだな……やっぱり、王道を往く剣と魔法のファンタジー世界だな。
俺はたぐいまれなる才能を身に宿していて、幼少期からその才能は発揮される。
んでもって、王国かなんかに認められた俺は勇者として世界の危機にヒロインや仲間と一緒に立ち向かう。
うん、実に王道だ。
これでいこう、いや、これしかない。
書いた紙を女神様に渡すと、うんうんと頷いてまた微笑んだ。
「わかりました!
では、この内容で転生させます。
貴男様の未来に、栄光のあらんことを!」
どこからともなく魔法の杖を召還した女神様は、空間に巨大なルーンを刻む。
ルーンはどんどん光を強めていき、やがて眩しくて目を開けていられなくなった。
目を閉じて、光の収束を待つ。
光が収束して、しばらく。
俺はおそるおそる目を開けてみた。
だが、なぜか視界はぼやけている。
体も自由に動かない……というか、あまり体が動かない。
声を出そうとすると「あー」とか「うー」としかしゃべれないし。
どういうことだ女神!?
いや、まて。
転生って言ってたな……あの女神様。
つまり俺は今、赤ん坊ということだ。
ほら、なんか俺の両親らしき人が俺を抱き抱えてるし。
服装とかが前の世界と違うから、やっぱり俺はうまいこと転生できたみたいだ。
両親は俺のことを『クロム』と呼んでいるので、俺の名前はクロムらしい。
名字は……隣人のおばちゃんがレオンハート家に赤ん坊が〜とか言ってたからたぶんそれだ。
つまり俺の名前は『クロム=レオンハート』
イケメンすぎる名前だ。
ここから俺の第二の人生が始まるんだ。
クロム=レオンハートとしての人生が。




