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第64話 転生者は儚き夢を見る

軍用ベヘルで精霊樹へと向かう夜道。

虫の声と荷台が揺れる音が響く。

とても静かな夜を、俺とフレデリカは過ごしていた。


リノシアから二時間ほど揺られ、ある地点でベヘルは停車。

目的地に着くにはまだ早い。

何かアクシデントでもあったのだろうか。


 外の様子を伺うため二人で外に出ると、ベヘルが通る予定の道に何者かがいるのに気がついた。

見覚えのある人物。

しかし、まさかこんな場所で再び出会うことになるとは思わなかった。


 白銀の髪の毛にルビーのような赤い瞳。

赤を基調とした鎧は、黒い模様がアクセントになっている。

腰に差す剣は赤く彩られていて、金色の装飾が月明かりに眩しい。

ベヘルが停車したことに気づいた彼は、ゆっくりと顔を上げてこちらを見つめた。


「来ると思っていた。

 止めても無駄だと俺はしっていたからな」


 俺をまっすぐ見つめて放つ言葉は稲妻のように全身を駆けめぐる。

いつになく真面目なその表情は、何者をも凍てつかせる吹雪のように冷たい。


「クロム様……!?

 なんで……どうして?」


 混乱した様子のフレデリカを一切気にせず、勇者様ことクロム=レオンハートは続ける。


「アキトは、自分の立場を知ってこの行動に出た。

 俺はウォレスタ王都の騎士として、君を止めなければならない」


 クロムは剣を抜く。

決して冗談ではない。

この先へ行こうとするなら、全力で阻止してみせる。

そう言っている。


「……もちろん、わかっています。

 でも、もう止まりませんよ、俺は。

 相手が勇者様でも、この先へ進むことを邪魔するなら押し通るまでです」


「ちょっと!?

 アキト本気なの!?」


 驚いた様子で尋ねるフレデリカにうなずく。

勇者様は本当ならもう既に戦場にいるはず、いや、いなければならない。

しかし、勇者様はここにいる。

俺を止めるという理由の為だけにいるわけではないだろう。

もしかしたら勇者様は最終防衛線を任されているのかもしれないが。


「どうして勇者様はここに?

 まさか、俺を止めるってだけの理由じゃないですよね」


 しばしの沈黙。

やがて何かを諦めたような表情をして、口を開いた。


「確かめたいことがある。

 一つは俺自身のこと。

 もう一つは……お前のこと」


「俺のこと……?」


「……アキト。

 いや、カゼミヤ=アキトと言った方がいいか」


 久しく聞いた俺の正しいフルネーム。

アキト=カゼミヤでも正しいフルネームだが、現実世界で、そして俺のすんでいる国では名字が先。

でも、なぜ勇者様がそれを知っている……?

思い当たることは……一つしかない。


「アキト、君は……この世界の人間ではないんだろう?」


「そうです……

 アリアさんから聞いたんですか?」


「いや、聞かなくてもわかる。

 同じ境遇だから……かな」


 衝撃が走る。

同じ境遇……意味することはそういうことだ。


「アキト。

 俺もお前と同じ、別世界の人間だ。

 いわゆる、転生者というやつかな」


 異世界転生。

ニックはこの世界に召還や転生が存在すると言った。

俺はそのパターンではなく、異世界転移だが、同じような境遇であることに間違いない。


「俺は前の世界で、死んだも同然な人生を送っていた。

 だが、不慮の事故で死んだ俺は、女神を名乗る者から転生のチャンスを手に入れた」


 俺の知っている転生と同じパターン。

不慮の事故……そして転生。


「そして転生するとき、俺は才能を祈った。

 転生した俺は、この世界でトップの実力を手に入れたんだ。

 そして勇者となり、魔王を倒して一件落着……だと思っていたのに……」


 語る勇者様の感情が強くなっていく。

まるで転生したことを呪っているようにも思える。


「勇者という仮面を被り、本当の自分を隠し続けた。

 愛した人を亡くしてからも、ずっとみんなの望む勇者であり続けた。

 今も、そしてこれからもだ」


 勇者様……いや、クロムは剣を構えてこちらを見た。

俺が装備しているのは、クロムのものと違って一般兵士に支給される安い武器。

もしまともに相手の剣と自分の剣をぶつけたら、結果は見てわかるだろう。


「構えろ、アキト。

 ここを越えることが出来たら、認めてやる」


 クロムは剣を薙ぎ払い、地面を抉り境界線を生み出す。

ここから先を越えたら俺の勝ち。

だが、負ければ俺はこの先へは決して進めない。


 俺はゆっくりと剣を構えた。

瞳を逸らさず、ただひたすらにクロムを見つめる。


「……もしかしたら俺は、お前になりたかったのかもしれない」


 クロムが小さく呟いたことを合図に、俺とクロムの戦いは幕を開ける。


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