表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/83

第63話 死亡フラグの向こう側

 ベヘルに揺られて一週間。

俺はリノシアへたどり着いた。

時刻は深夜、街の光も多くはない。

前に来たときは、大勢の人で賑わっていた街アルヴェスも、今は静かな空気が漂っている。

深夜だからというのもあるだろうが、それにしても静かすぎる。


「やっぱり来たわね。

 とりあえず歓迎するわ」


 路地からゆっくりと姿を現したのは、今回の依頼者であるエルナ=リーズウェル。


「ずいぶんと回りくどいことをしたんだな、今回は。

 ……で、状況は?」


「そろそろ本格的に戦いが始まるって感じね。

 どこもまだ交戦はしてないけど、いつ始まってもおかしくない」


「そんな状態なのにお前はここにいていいのか?」


「作戦的にもまだ動けないのよ、あたしは。

 あとフレデリカもね」


 そう言うとエルナは、俺に着いてくるように合図する。

ここにいても仕方がないので、俺はエルナの後を着いてくことにした。

街にはただ俺とエルナが歩く音だけが聞こえ、それ以外の音はほとんどしない。


「……なぁ、街の住民はどうしたんだ?」


「避難してるわ。

 もし精霊樹が堕ちて、魔族が勢いを失わなかったら真っ先にアルヴェスが危険にさらされる。

 そこまで想定しての命令よ」


 俺は思わず生唾を飲み込んだ。

思っていたよりも状況がよくない。

リノシアがそれほどの対応をしなければならないほど、今回の戦いは分が悪いということになる。


 割と長い時間、俺とエルナはアルヴェスを歩いていた。

やがてエルナはある建物の前で足を止め、こちらへと振り返る。


「さ、着いたわ。

 あたしはもう行かなきゃならないけど、アキトはここで話を聞いて。

 扉を開けたら……もう引き返せないわ」


 その建物に、俺は見覚えがあった。

かつてリノシアに訪れた時、お世話になった場所……

リノシアの兵士宿舎である。


「じゃ、後はがんばって。

 アキトなら、そこそこやれるって信じてるわよ」


 俺が言葉を発する前に、エルナはアルヴェスの闇に消えていった。

一人宿舎の前で立ち尽くす俺だったが、覚悟を決め、その扉を開く。

宿舎の中、薄暗い空間に誰かが立っている。


「……フレデリカ」


 思わず口にする。

フレデリカはいつも見る柔らかな表情ではなく、戦士の表情をしていた。

既に戦いは始まっていて、フレデリカはその前線にいる。

そんな覚悟が秘められた表情だ。


「アキト、話はエルナから聞いてる。

 もちろん私が話したことは忘れてないよね?」


 俺は無言でうなずく。

しばしの間、フレデリカは俺を見たまま何も喋らなかった。

だが、俺の心のうちに秘めた何かが通じたのか、ゆっくりと頷いた。


「出来ることなら、アキトには戦ってほしくない。

 でも、アキトならこの戦いを勝利に導いてくれるんじゃないかって想ってる私がいる。

 だから私は、その私を信じる」


 フレデリカはまっすぐに俺を見つめてくる。

目線は逸らさない。

俺もまっすぐに青の瞳を見つめて、フレデリカの言葉に答えようとする。


「ありがとう、フレデリカ」


「本当に感謝してる?

 私がどれだけアキトに戦ってほしくないか……」


 不機嫌そうに頬を膨らますフレデリカ。

一瞬にして先ほどの戦士の表情は消え、俺の知っているいつものフレデリカになった。


「もちろん、ほんとに感謝してるよ。

 感謝してもしきれないくらい」


「本当かな……

 まぁでも、仕方ないわね。

 今回だけは、信じてあげる」


 微笑むフレデリカを見て、俺もつられて笑ってしまう。

戦いが始まる前だというのに、なんだか心は落ち着いているようだ。

これもフレデリカのおかげだろう。


「ねぇ、アキト。

 一つ、お願いがあるんだけど……いい?」


「ん?

 なんだ?」


「今回の戦いが終わったら……

 その、一緒に鎧を見に行かない?

 ほらあの、私の鎧……そろそろダメそうだから」


 そういえば前に言っていた。

精霊祭が落ち着いたら鎧を新調したいと。

すぐに魔族との戦いが始まってしまい、そのチャンスがなかったのだろう。


 だいたいこういう台詞はいわゆる『死亡フラグ』というやつだ。

俺……この戦いが終わったら結婚するんだ。

なんて台詞を言った側には厳しい世界が待っているというのが、現実世界ではよくある。

だが、逆に言えばフラグを認知することでそのフラグをへし折ることだって出来るのだ。

今回の死亡フラグは、決して回収してはいけない。


「もちろん。

 フレデリカに似合う最高の鎧を見つけよう。

 いくらでもつき合うって」


「本当!?

 やった……!

 よーし! なんとしてでも勝つよ、この戦い!」


 気合いを入れて拳を突き上げるフレデリカ。

そしてゆっくりと拳を下ろし、先ほど同じ、戦士の表情で俺を見る。


「……生きるよ。

 私も、アキトも。

 エルナも、アリアもみんな」


「あぁ、生きる。

 絶対に、約束だ」


 ガッチリと握手をして、誓いを交わす。

フュネイトで彼女に言われたことは、決して忘れない。

俺のために、フレデリカとの約束を果たす。

俺のために、俺は生きる。

俺のために、俺は往く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バナー画像
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ