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第62話 託されたメッセージ

 ウォレスタから多くの騎士がリノシアへ向けて出発したのも、もう一週間以上前になる。

俺は来る日も来る日も支援所で、ただ過ぎていく時の中を生きるだけだった。

状況を察した民間区の住民たちが、説明を求めて毎日支援所へ訪れる。

混乱を招かないためにも出来る限り落ち着いた言葉で説明するが、それでも不安は拭えない。


 もしかしたらヤバイことが起きているんじゃないかという噂も駆け巡っている。

ウォレスタでこの状況だというなら、リノシアはもっと大変だ。

あっちがどうなっているかの情報は、まだ入ってこない。

国民の不安を落ち着かせるためにも俺や残された騎士は凛と構えていなければならないのだが……


「と言っても……

 こっちもこっちで不安だっての……」


 いつものように民間区の見回りを終え、押し寄せる国民を落ち着かせると、ようやく支援所のある商業区へ戻ってくることが出来た。

時刻は既に深夜。

街は精霊祭ほどではないが、騒いでいる連中の声が絶え間なく聞こえてくるくらいには荒れている。

リッシェの働く飲み屋も今は大変な状況だ。

俺以外の騎士の多くは、夜も眠らないで仕事をしていたりする。

支援所の仕事があるから戻ってもいいと言われた俺は、ありがたくそ迷惑な言葉を受け取ったというわけだ。


 見慣れた道を通り、支援所の前まで来ると、郵便受けに見慣れない封筒があることに気づく。

支援所で発注した物の請求書だろうか?

確かにこの前、商業区の人に頼まれてリスト通りの発注を支援所名義で行ったが、請求が来るのは早すぎではないだろうか。


 封筒を手にしてみると、それが請求書ではないことがわかる。

請求書にしてはあまりにもサイズが小さすぎるし、宛先も書いていない。

これは……手紙か?


 そこまで思った時、俺はかつてエルナに言われた言葉を思い出す。

あの時エルナは、十日後くらいに手紙やらなんやらが届くと言っていた。

もしかしてエルナはこれのことを言ってるのではないか。


 急いで封筒を開け、中身を確認する。

そこには見慣れた、ある一枚の紙が入っていた。


「これは……支援所の依頼書か?

 なんでまたこんなものを……?」


 それは支援所で支援を依頼してくる人に向けて書かせる依頼書であった。

しかも白紙ではなく、中身がきちんと記入されている。

更には騎士団印まで押されている。

騎士団がこの申請を受理している……?

その紙面の内容は、驚くべきものだった。



          

         【依頼書】


依頼者:エルナ=リーズウェル

誕生:精霊歴八十七年 二番月 太陽の四

住:ウォレスタ王都王城区 国騎宿舎ニ


依頼内容:リノシア共民国から西に位置する精霊樹の塔防衛作戦への参加。

     傭兵としてウォレスタ・リノシア合同隊への参加を依頼。

     非常に危険な仕事だけど、報酬は弾む。


報酬:褒める



 俺は依頼書の内容を確認し、思わず笑ってしまった。

依頼者がエルナというのも驚きだが、依頼内容も内容。

しかも。


「おいおい。

 なんだよ、報酬は褒めるって!」


 なんともエルナらしい……というか、エルナ以外は書かないようなことが書かれている。

まさかこんな形になるとは全くもって思っていなかった。

確かに俺は、今回の作戦行動への参加は禁止されている。

でもこれは、国民の一人が支援という形で傭兵として隊へ参加することを依頼するもの。

咎められるかどうか微妙なラインで、しかも騎士団印まで押されている。

多分エルナが勝手に持ちだして押したんだろうけど。


「……依頼だもんなぁ。

 大事な大事な国民の、依頼だ」


 俺は急いで支援所の中に入り、カウンターにある引き出しから支援所印を取り出す。

そして依頼書に勢い良く印を押すと、それをくしゃりと丸めてポケットへ突っ込んだ。

軽く荷造りを済ませ、支援所を後にする。

もう行くべきところはひとつしかないだろう。


 ほんの一分前まで立っていた支援所前で、俺はある違和感を覚えた。

地面に映る影に、俺以外の誰かが映っている。

しかもそれは、支援所の屋根の上に座っているように見えた。

こんなことをする奴は......いや、出来る奴 は一人しかいない。


「……何か用か?

 『全て』さん」


「気づいていたか。

 やけに嬉しそうな顔をしているじゃないか」


 振り向くと、支援所の屋根の上に例の露出狂こと『全て』が座っていた。

月光を浴びてその妖艶な姿をさらに際立たせる。


「まぁな。

 俺は心のなかで、こうなることを望んでいたのかもしれない」


 俺はフュネイトとウォレスタを繋ぐ重要なパイプだ。

だからこそ今回の作戦への参加は、国のことを思えばしてはいけないこと。

でも俺は、俺自身は……この作戦への参加を希望している。

その背は自分自身では押せず、誰かに押してもらうしかない。

今回、背を押す役が……他でもないエルナだったのだ。


「そうかそうか。

 お主は決めたのだな、自分の果たすべきことを果たすと」


「……どうだろうな。

 俺は世界がどうのこうのって今は思ってない。

 ただ、俺はやりたいことをやるだけだ」


「……それは、誰かのためか?」


「……誰のためでもない、自分のためだ。

 でも、前みたいなもんじゃない」


「フレデリカ……だったか。

 そして、エルナ=リーズウェル」


 俺は無言で頷く。

相手は『全て』だ。

きっと多くを口にしなくてもわかってくれるだろう。

しかし、俺は自分自身の決意を改めて確認するように言葉を放った。


「俺は、フレデリカに生きていてもらいたい。

 その自分自身の願いのために戦う。

 そして、フレデリカが俺は俺に死んで欲しくないと思うなら。

 俺は必ず生きて帰る」


「……面倒な男だな。

 あくまで自分自身のためと固執するか。

 それが面白いことではあるんだがな」


「こうでもしないとな。

 俺は多分、やけにデカイものを抱えてしまいそうな気がするんだ。

 身の丈に合わないくらい、デカイものを」


 『全て』はやれやれと言った様子で首を振り、その後怪しく微笑んだ。

何を意味しているか……俺はダリアのように心を読めないのでわからないが、きっとこれも彼女の思惑どおりなんだろう。


 俺は早くリノシアへ行くために、その場を去ろうとする。

この前のように変な力は働かず、なんの邪魔もなく歩くことが出来た。

同時に、後方から声が聞こえた。


「己が欲すものを成せ。

 何処までも突き抜けて、成すがいい。

 お主にならそれができよう」


 振り向くと、そこにもう『全て』の姿はない。

丸い月が、ただ眩しく俺を照らすだけだった。

きっと彼女なりの励ましの言葉なのだろう。

そう思うことにする。


「……己が欲すものを成せ、か」


 俺はその言葉を胸に、夜の街を往く。

目指す場所はひとつ……精霊樹だ。

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