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第60話 たった一つ、それだけでいい

「なるほど……

 大体の話はわかった。

 だが、魔族が本当に動き出したのかがわからない以上、国は動かないだろう」


 国騎士支援所に戻ってきた俺は、待機していてくれたアリアとフレデリカに事情を話した。

勿論、服はちゃんと着て。


 俺が拷問部屋から戻った日……

すなわち今日が精霊祭の最終日。

明日の朝にはリノシアの兵が国へ戻るので、フレデリカに会えるのは今日が最後。

出来ればこんなことなしに普通に会いたかったが、精霊樹の危機を伝えることができてよかった。


 リッシェは一人で帰すのが危険だということでエルナが送りに行き、今はいない。

これ以上リッシェを危険な目に合わせるわけにはいかないしな。

彼女はもう、ありったけの不幸を背負ったはずだから。


 それにしても、国が動かないのであればどうしようもないではないか。

おそらく国が動くとなれば、リノシアが魔族の動きを観測した時だろう。

一刻を争うというのに……!


「でも、精霊樹は見張りが常時付いてるよ?

 一番精霊樹に近いのはリノシアだから、私達の責任が重大なんだもの」


「警戒は強化するべきだろう。

 リノシア兵士の一部はまだウォレスタにいる。

 国の動きに支障が出るほど兵は割いていないと思うが、一応だ」


「まぁ……わかってるけど」


 フレデリカとアリアが会話するなか、俺は頭のなかでシミュレーションを行っていた。

俺が拷問部屋にいた段階で、シュトーラスは兵士を動かすことを決めた。

明日には準備が始まるだろうし、もしかしたら準備を終えての行動だったかもしれない。

フレデリカを含むリノシアの兵士たちが国へ戻るにはベヘルで移動して大体一週間かかる。

その間にはもう魔族が精霊樹へ向けて動き出している可能性もあるかもしれない。


「アキトの負うことが本当なら、もう魔族は動き出してるんでしょ?

 だったら結構危ないんじゃないかな、時間的に」


「焦っても仕方ないだろう。

 私からもガーティスやニックに声はかけておくし、騎士全員に通達もする。

 国が動いた時、すぐに動けるようにな」


「助かります、アリアさん。

 俺も、もしもが来た時のために準備しておきます」


「その件についてたのだが……」


 アリアが神妙な面持ちで俺を見つめる。

あれは騎士の顔だ。

皆に指示を出し、率いる時のアリア。

酒場で飲んだくれている時には決して見せない表情。

その表情を見るだけで、俺の気持ちはキュッと固くなる。


「今回、アキトは作戦への参加を禁止させてもらう。

 お前は、もしもの時が来ても作戦行動へは参加するな」


「な、なんで……!

 なんで今回に限ってそんな!?」


「当たり前だ。

 なぜ今回、魔族がアキトを狙ったと思う?」


「そ、それは……

 情報を引き出すため……?」


「違うな。

 アキトは、ウォレスタ・リノシアと、フュネイトを繋ぐ人間だからだ。

 ダリア女王が言ったことを忘れてはないだろうな?」


 勿論覚えている。

ダリア女王は、人間全体ではなく俺個人に協力すると言ったし、その旨を綴った文書まで書いた。

ウォレスタ王国とリノシア共民国を繋ぐことが出来るのは、今のところ俺だけ。

だから俺を狙ったのか……魔族は。


 フュネイト侵攻作戦を阻止したことに重点を置きすぎていた。

寝不足じゃなかったらもう少し頭も回ったのに……!


「……ってことは、俺はウォレスタで待機になるってことですか?」


「そうなるだろう。

 前線へは私たちが行く。

 精霊樹が絡むということは、我々も死力を尽くす戦いになる。

 アキトはもしもの時、フュネイトへ協力を求めることが出来る人材として必要なのだ」


「そんな……」


 わかっている。

俺が作戦へ参加することによって、大事なものを手放さなければならない可能性があることを。

でも、心の中で暴れている感情があることも確かだ。

俺のしたいこと、普通に考えてしてはならないこと。

この二つが俺の中で矛盾を起こし争っている。


「……まだ決まったわけではない。

 実際に魔族が動きだしてから決まる。

 だが、高い確率でそうなることを覚えておいてくれ。

 私は今から城に戻って全騎士に通達する」


 アリアはそう言って支援所の扉へと向かう。

静かな部屋の中、鎧の金属が擦れる音だけが響く。

扉の前でアリアは一度立ち止まり、そして扉を開いた。


「……アキト、わかってくれ」


 一言そう残し、アリアは出て行った。

扉に付けられた小さなベルの残響が、鼓膜を刺激する。

その後しばらく静寂が続き、次に口を開いたのはフレデリカだった。


「……アキトはきっと、無理をしてでも作戦に参加しようとするんだよね。

 最後に決めるのはアキトだから、あんまり言えないけど……」


「……どう、かな。

 もやもやしてる気持ちだと、出ないほうがいいのかなって思う

 でも、それが嫌だっていうのも同じくらいある」


「フュネイトで言ったことを、アキトは忘れてないと思う。

 だから、もう一つだけ言いたいことがあるの」


「……もう一つ?」


「……アキト。

 自分の器で測りきれないほど大きなものを抱えようとはしないで。

 人の器って、自分で思ってるよりも小さいから……

 きっとアキトだと、溢れてしまうと思う」


 俺は、フレデリカの言葉に頷くことで答えた。

声に出さなかった……いや、出せなかったのはなぜか。

きっとまだ俺の中で気持ちが固まっていないからだろう。


「大丈夫、きっと何とかなる。

 だからアキト、アキトを信じる私を信じて」


「……わかった。

 そうだよな!

 俺が笑わなきゃフレデリカも笑えないんだったな!」


「ちょ、ちょっと!

 改めて言うのはやめてよ!」


「ごめんごめん。

 でも、おかげで元気がでたよ」


 フレデリカのおかげで、少し元気になれた。

傷だらけの身体の痛みも和らぐほどに。


 俺の言葉を聞き、「そっか」と、ちょっとうれしそうに笑うフレデリカ。

フレデリカの笑顔に、俺も笑い返す。


 心の奥底が熱くなるよな、心臓が持ち上がってくるような不思議な感覚。

その正体を多分、きっと、おそらく俺は知っている。

答え合わせは、そう遠くない未来にあずけておこうと思う。

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