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第57話 闇に誘う者

翌日。

精霊祭二日目の今日を、俺は寝不足で始めることになった。

理由は簡単。

どこかの誰かさんが添い寝してくれていたおかげで寝れなかったのだ。


 太陽が昇り、朝日がウォレスタの街を飲み込んでいく。

あぁ……今日も一日が始まるんだな……


「……起きるか」


 俺はぐらぐらと揺れる視界を無視し、布団から起き上がる。

横で腹立つくらい幸せに寝ている奴は起こさないでおく。

起こしたら起こしたで面倒なことになりそうだからな。


 階段を降りて一階へ。

いつもの癖で調理場へ向かうのだが、食欲が湧かない。 

うん、寝不足の今だと胃が受けつけないと思う。

腹が減ってきたら何か胃に優しいものでも食べればいい。


 適当に置いておいた鎧と護身用の剣を装備。

そのまま支援所を出ようとするが……


「ちょっと、待ちなさいよ」


 後方で知った声が聞こえたような。

恐る恐る振り向けば、予想通りの人物が階段側に立っていた。


「エルナ……か……

 えーっと、あ、おはよう」


「……おはようじゃなわいよ。

 せめて起こしてから出なさい」


 あ、寝てたことに関しては何もないのか。

てっきりマジギレされて命の危機がここで訪れるのかと思っていたのだが。

相変わらず寝起きはいいんだな……こいつ。


「昨日教えようと思ってたけど、もう寝てたでしょ?

 だから仕方なく今日教えようって」


「教えるって何を?」


「昨日のうちにアキトが取り逃がした不審者から話を聞いたの。

 詳しくは下っ端程度の奴には知らされていないけど、同じような仲間は街にうじゃうじゃいるそうよ。

 で、やっぱり音の魔法で魔族とやり取りしてたみたい。

 どんな奴と話をしたかは今聞いてるとこ。

 とりあえず、気をつけなさい」


 驚いた。

エルナが俺の心配をしている。

いや、そうじゃない。

不審者の仲間は既に街中にいるのか……

でも詳しくは知らないということは、それ以上の情報を入手するにはもっと上の奴を捕まえないといけないということだ。


 音の魔法でやり取りはしていたらしいので、少なからず何かはあるはず。

この情報がどこまで伝達されているかわからないが、知らない騎士もいるだろう。

出来る限り情報を共有しなければ。


「わかった。

 他の騎士にはどれくらい?」


「アリアやガーティスは知ってるけど、普通の騎士はまだ全員知らないわ。

 リノシアの兵士にはフレデリカから伝わってると思うけど」


「そうか……わかった。

 ありがとな」


 そう言うと俺は支援所を後にした。

太陽の光がいつも以上に目に刺さる。

寝不足は本当によくないと実感しながら、俺は今後どうするかを考えていた。





 そしてその日の昼。

精霊祭の客は昨日よりも増えているように思え、大通りを沢山の人が行き交っている。

中央広場では何かの催しでも行われているのか、動く隙間さえないのではないかと思うほど人で溢れている有様だ。


 日差しもかなり強い。

この調子だと熱中症になる人もいるだろう。

そうならないように呼びかけしないといけないな……

この世界でも熱中症はあるだろうしな。


 そういえば、俺は結局朝から何も食べていない。

それどころか何も飲んでいない。

鎧の中は蒸れるし、汗も尋常じゃないので水分補給はこまめにと言われていた。

だが、今の状況だと少し目を離したうちに何かが起こりかねない。


「でもマジでこのままだと死ぬぞ……」


 体に無理をしているせいか、先ほどから少し視界が歪む。

目眩も度々起きるのだが、これはフュネイトでの魔晶石使用による後遺症なのか、疲れなのかわからない。

前者なら放っておいても大丈夫だが、後者ならちょっとマズイ。


「すみません、お仕事の途中に。

 少し聞きたいことがあるのですが大丈夫でしょうか?」


 ぼーっとしていたところ、一人の女性に声をかけられた。

美しい黒髪ロングで、蒼い瞳。

華奢で背は高く大人の雰囲気が感じられる女性。

この辺りでは見かけない顔なので、おそらく観光客だろう。


「あ、すみません……ぼーっとしてて……

 どうかしましたか?」


「はい。

 商業区の路地裏で不審な人影を見たものですから、報告をと」


「不審な人影……?

 どこの路地ですか!?」


「中央通りからではなく、別の道から行く路地です。

 細い路地で人気も少ないので涼みに行こうとした時に見つけまして」


「確かにあそこは変なの多いもんな……

 わかりました、詳しく場所を教えてもらえますか?」


「はい、勿論です

 案内します」


 中央通りから広場方面に向かい、何とか人混みを抜ける。

東門手前の道から入る細い路地は、商業区方面へつながっている。

しかし、人気が少ない路地も多く、前から変な奴らのたまり場になることが多かった。

前はここを避けて商業区方面に行こうとしてたなぁ。

アリアさんから情報をもらっていたので、巡回するときは気をつけるように言われていたし。


「あの、ここなのですけど……」


 案内された路地には、誰もいない。

だが、地面に串のようなものが落ちている。


 これは餅団子を販売しているところの串だ。

精霊祭の期間、誰かがここにいたことは確実。

ある程度時間が経ったから移動してしまったのか……?

そう思った瞬間。


「……悪く思わないでください」


 背後から先の女性の声が聞こえた。

振り向こうとした時には遅い。

何が起きたかわからないうちに、自らの視界は大きく揺れていた。

気づけば地面に倒れこみ、体の自由が効かないという状況に。


「……っ!?

 な……なに……が?」


 歪む視界には、確かにあの女性がいる。

俺の意識が完全に絶えるのを待っているのか、こちらを見たまま動かない。


 迂闊だった。 

これほどいいタイミングで不審者についての報告があることに。少しは違和感をもつべきだった……!

少し考えれば違和感に気づけたかもしれない。

しかし寝不足と熱中症気味で集中力の欠けていた俺の頭では無理……


 やがて張っていた糸が切れるようにして俺の意識は途絶える。

無事に俺は目を覚ますことが出来るのか。

それさえわからぬままに。

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