第52話 ひとまずの休息
いよいよ明日は精霊祭というところまで迫った今日。
もはや街はお祭りムードで、精霊祭前夜祭なるものが開かれている。
祭りに祭りを重ねるって凄いな。
昼間だというのに人々は酒を飲みどんちゃんどんちゃんの大騒ぎだ。
俺やエルナ、アリアさんやガーティス……あとニック。
騎士の面々は、職務のために精霊祭を存分に楽しむことができない。
しかし、この前夜祭は市民が前夜祭と位置づけてそれっぽくなっているだけなので、ある程度楽しむことは許されている。
事件が起きたら勿論仕事はするけど。
この祭りには多くの人々が訪れる。
フュネイトやリノシアだけじゃなく、なんとレギルディアの人々まで来たりするのだ。
レギルディアから訪れる人は他に比べて少ないものの、こういう時でなければレギルディアの人々がこちらに来ることはない。
人が増えるということは、勿論事件も起きやすい。
フュネイトの一件があった今、魔族側の動きにも注意が必要だ。
だからこそ精霊祭での仕事には気を抜けない。
そんな話をエルナと二人でしていた。
精霊祭前の仕事が全部終わってお疲れ様的な意味を込めているが、エルナ、お前じゃない。
俺がお疲れ様と言いたいのはお前じゃないぞ。
「だからこそ前夜祭を楽しむんでしょ。
明日は餅団子も食べれないし」
「知ってるよ。
てか、究極の餅団子とやらは完成したのか?」
「当たり前じゃない、あたしを誰だと思ってるのかしら」
誰が言わなくてもエルナだよ。
餅団子の研究に勤しんでこちらの仕事を全く手伝わなかったエルナ様だよ。
一応、支援所に向けて出された依頼だから怒るに怒れなくなった俺のこの想いはどこにぶつければいいんだよ一体。
「そういえば今日はアリアを見てないわね。
アキト、アリアを見なかった?」
「見てないな。
アリアさんのことだから、前夜祭でも仕事をしてるか酒場で飲んでるかだろうな。
最近のアリアさんちょっと変だから気になるんだけどさ」
「変? どこが?」
「何か、よそよそしいっていうか……
そわそわしているというか……」
「は? なによそれ。
個人的主観すぎない?」
「仕方ないだろ、そう見えたんだから。
まぁ……わかんないけど」
「ほら」
ほらじゃなくて。
どこが変って聞いたのエルナじゃん。
最近またちょっと冷たくなってきてる気がするぞ。
「こんにちはー……っと、狼も一緒ね。
お疲れ様、二人共」
支援所の扉を開けてフレデリカが入ってきた。
鎧姿ではなく、結構ラフな格好だ。
そうだよ、俺がお疲れ様って言いたいのはフレデリカだよ。
どこかの赤髪餅団子狼様ではないのだ。
「お疲れー。
まぁ座って座って」
「あらフレデリカ。
あんたも来たのね」
「アキトに誘われたからね。
精霊祭前に少し羽を伸ばそうって」
「ふーん……
ま、いいんじゃない?」
そういえばこの二人、仲がいいのか悪いのか考えたことがなかった。
なんだかんだで精霊祭の準備期間は二人が一緒にいることはなかったし、二人が一緒にいたのってリノシアくらいか?
あ、でも紅魔晶石の話は二人でしてるんだっけ……
「じゃあアキト、あたしは行くわ。
あとはよろしく」
エルナは先程までゆったりと食べていた餅団子をさっさと口に入れて出て行ってしまった。
うーん……やっぱりあんまり仲がいいとはいえないのかも。
「あー……行っちゃった。
何か私、悪いことしたかな?」
「いや、エルナはいつもあんな感じだよ。
最近は特にって感じだけど」
「そう……
狼にも色々あるのかもね」
「そういうことだろうな。
とりあえず、準備お疲れ様ってことで」
「そうだね、ありがとう。
明日は大変だから今日くらいゆっくりしようかな」
エルナが最近またもや冷たくなってる理由に関してはわからない。
まぁエルナなりに何かあるのだろう。
餅団子が上手く作れないとか、きっとそんな感じで。
「あれ……?
そういえば最近、鎧来てないな。
どうかしたのか?」
「あぁ……あの鎧ね。
お気に入りだったんだけど、フュネイトの時に結構やられちゃって。
クロム様が頑張ってくれた分、損傷は少ないんだけどそれでも実戦だと危ないかな」
「ピカピカに磨いてたもんなぁ、あの鎧。
じゃあ明日はどうするんだ?」
「明日はウォレスタの鎧を借りるかな。
余裕が出来たら新しいのを買おうと思ってるんだけど、精霊祭終わるまではね」
「だな……
精霊祭っては初めてだから何か楽しみだな」
俺はこういう祭り行事に参加することが少なかった。
現実世界では夏になると色々と楽しそうなイベントが開催されていたものだが、結局行かないまま。
小さいころは楽しかったイベントも、なんでか色褪せて見えるようになってしまったからだ。
「精霊祭ね、すっごい楽しいよ。
明日になればアキトもわかると思うけど、ホントに凄いんだから」
「そんなに凄いのか……
なら、尚更楽しみだな」
「あ、そうだ!
私がオススメする場所を教えておくね。
休憩時間になったら行って欲しい場所がいくつかあるんだけど――」
そう行って街の地図を開くフレデリカ。
戦いに挑む勇敢な戦士の目ではなく、一人の人間。
一人の女性の目を輝かせて彼女は説明を始める。
なんだか、いいな。
なかなか言葉では言い表せないけど、そのように感じているのだ。
「ねぇアキト、聞いてる?」
「聞いてる聞いてる。
で、そのサモンウィッチ屋台の後は?」
「勿論、甘いもの!
ここの餅団子がすっごく美味しいの!
確か今年は『究極の餅団子』をウリにしてるはず
絶対に行かなくちゃ……」
「も、餅団子……」
なんだか聞き覚えのあるような気がする。
フレデリカ、多分その究極の餅団子はエルナプレゼンツだと思うぞ。
一応、言わないでおくけど。
なんだかんだ楽しみにしている精霊祭まで後数時間。
この日から街は、眠らない三日間を送ることになる。




