第51話 無能力者、異世界に来てから結構経つことに気づく
最近、国騎支援所は大忙しだ。
近々行われる『精霊祭』とやらの準備で街は大盛り上がり。
なんでも一年を締めくくる大事な祭りで、その時には国をあげて盛大に祭りをするのだとか。
で、なんでまた精霊祭なんて名前なのかというと、その名の通り。
ウォレスタ王都から北西に巨大な木が聳えている。
精霊樹と呼ばれ、かつて精霊が我々人間の繁栄を願い育てたという。
今ではこの大陸で一番大きな木となり、我々の繁栄を見守っている。
詳しい大きさはわからない。
顔を上げて見てもてっぺんが見えないくらいだからな。
精霊樹の内部には人間が造った神殿がある。
神殿に行くためには精霊の塔と呼ばれる塔を登る以外に方法はないのだが、神殿内には巨大な魔晶石が収められているとか。
一年に一度、新しい年が始まる時に一般人にも神殿が開放されるのだ。
なんでまたそんなところにと思うのだが、何にせよ我々人間の象徴とも言えるらしい。
俺は今まで知らなかったけど。
「魔族からは嫌われてるシンボルだけどね。
昔はあの精霊樹を堕としたら魔族の勝ちとまで言われてたわ。
ま、今はわからないけど」
目の前で餅団子を頬張りながらエルナが言う。
俺が支援所でせっせと依頼をこなしている時、こいつは餅団子の試食で手も貸してくれない。
「これも依頼の一環」とか言うけど食ってばかりだし、なにより一週間以上続いてるのが気に食わないぞ。
「そろそろあたしは行くわ。
職人たちが新しい餅団子を作り終わる頃だから、焼きたてが食べれるのよ。
じゃ、またねアキト」
手を振り去っていくエルナ。
まぁ最初から期待はしていないし、今日の仕事は終わったのでもうどうでもいい。
臨時で手伝ってくれているフレデリカの方がよっぽど仕事をしているぞ、どういうことだ。
支援所で一段落していると、扉をノックする音が聞こえた。
目をやると、扉を押して以外な人物が姿を現す。
「やぁアキト、久しぶり」
白銀の髪に赤い目。
いつもは来ている鎧も今日は来ておらず、武器も持っていない。
サングラスのような物を装着していて日常を楽しんでいるような雰囲気を醸し出すのは……
「ゆ、勇者様!?」
「アリアに聞いたらここだというから来てみたんだ。
評判もいいらしいな」
「な、なるほど、アリアさんから……
評判はあんまり聞かないんですけど、そうなんですか?」
「あぁ、アリアも言っていたし、街の人々もそう言ってた。
騎士らしくない騎士だってね」
「ああ……それはよく言われますね……」
実際、俺は騎士の仕事をほとんどしていない。
騎士の仕事は国を守ることで、後は大体訓練したり街で事件が起きた時に対応したりする。
裏を返せばそれ以外やることがなく、一般兵士は基本的に暇なのだ。
その代わり上級騎士ともなれば忙しくてたまらないのだという。
俺は騎士という立場で支援所を営み、月に一度報告書を書いて提出するだけ。
国からの支援はほとんどなく、もはや自営業と言ってもいい。
騎士という立場だから色々と融通も聞くし、情報も手に入る美味しい仕事だ。
元は体よく俺を追い出すための仕組みだったのだろうが上手く成り立ってしまっている以上文句も言えないのかもな。
「この前もアキトが街の飾り付けを手伝ってるのを見てたんだ。
随分楽しそうだったし、街の人とも仲がよさそうだった。
なんだか見ている俺が和やかな気分になるくらいにね」
「そうですか?
俺もこの国に住む一人ですから、やっぱり仲良くしていきたいですし。
城にいたらわからないようなことも、みんなが教えてくれますしね」
「……そうか、やっぱりアキトはそういうタイプなんだな。
なんだかホッとしたよ。
でも……」
勇者様は何かを言いかけてそれを止めた。
少しだけ表情が暗いようにも見えたが、影のせいだろうか。
勇者という立場にはなったことがないので、勇者様の悩みを俺は理解することはできないだろう。
日常を平和に過ごす余裕なんてないと思うし、今日だって変装して外を出歩いているくらいだからな。
「とにかく順調そうでよかった。
俺はもう行くとするよ、またいつか会おう」
「あ、わかりました。
その時はぜひ、よろしくお願いします」
「……あぁ、よろしくな」
勇者様をそう言い残し支援所を後にした。
なんだか勇者様の様子が変に見えたけど、考えても仕方ないだろう。
明日はまた精霊祭準備の仕事があるし、今日のうちに出来ることはちゃっちゃと終わらせてしまおう。
夜になったら酒場に行って、リッシェの働く様子も見てみたい。
あの娘のことだ、きっと上手くやってると思う。
「……そうか、なんだかんだで結構経つのか」
この年での一年は何日なのかわからない。
けれど、俺がこの異世界にやってきて結構な月日が経つのは事実。
そうなると俺の年齢はどう数えればいいんだ……?
てか誕生日的なものは一体どうなるんだ……?
異世界に来た日……でいいのか?
「ま、細かいことはいいや」
何にせよ、これから祭りが始まるんだ。
それを目一杯楽しもうじゃないか。
世界を救うとかいう使命も、その後で大丈夫だろう。
多分、な。




