第50話 無能力者、異世界のふるさとに帰る。
フュネイトから帰ってきて、数ヶ月が経った。
ウォレスタの街は精霊感謝の祭りに向けて大忙し。
国騎支援所を営む俺も、普段よりも沢山の仕事が舞い込んできてかなり忙しい。
かといって上層部も人を派遣できるくらい人手の余裕があるわけじゃないので、人手は結局足りないまま。
俺はフュネイトから帰ってきたとき、上層部から色々言われた。
そりゃまぁ、フュネイトの女王が協力するのは俺だけなんて言えばそうなる。
なので上層部は俺を利用してフュネイトとどうにか同盟を組めないか模索しているらしい。
アリアやガーティスが取り入ってくれなければ、俺は今頃フュネイトとウォレスタの間に立つ人間として生き続けていただろう。
上層部に全部バレずに依頼者から報酬を貰うのも大変だったし。
エルナはどうしたって?
エルナはいつも通りふらふらしてる。
前と違ってたまーーーーーーーーーに手伝ってくれるようになったけど、基本は手伝わない。
今日だって餅団子を食べながら支援所に顔を出して「あたしはこの団子の研究で忙しいからしばらく手伝えないわ」と言い放ち、何処かへ消えた。
説得力とかいうものを何処かに置いてきたような奴なので、もう慣れた。
勇者様は疲れを癒やすためにしばらくは何の仕事もないらしい。
精霊祭をうんと楽しむことが仕事だということで今から張り切っている。
なんだかそんな様子を見ていると、勇者様も人間なんだなぁと思う。
でもそれくらいの休暇くらいあってもいいよな、全然。
んでもってフレデリカは……というと。
「ねぇ、アキト!
この飾りは何処に置けばいいの?」
「そのリースは……あれ、あの木箱の中!
全部民間区行きだからまとめちゃって大丈夫!」
「わかった、じゃあまとめちゃうね。
個人名だけわかるようにしておけば後が楽?」
「そうしてくれると助かる!
ありがと!」
フレデリカは、何故か国騎支援所の手伝いをしているのだ。
ご自慢の鎧すら着ずに作業着を着て淡々と仕事をこなしている。
リノシアから精霊祭警備のために兵士が駆り出されたらしいが、精霊祭までは暇らしい。
なのでこうしてフレデリカは俺の手伝いをしてくれているというわけ。
ウォレスタの人たちにもフレデリカの名前が覚えられてきて、なんだか彼女も嬉しそうだ。
俺も人手が増えて助かってはいるが、あともう一人くらい欲しいところ。
「……よし、これで昼の仕事は全部終わり!
フレデリカ、少し休憩だ」
「ようやくって感じね。
はい、お弁当。
これ一人でアキトが全部やってたら終わらないんじゃない?」
「終わらない終わらない全然終わらない。
上層部の嫌がらせなのか知らないけど、仕事の量を増やせとか言われたし。
では、いただきます!」
フレデリカが作ってくれたサンドウィッチを食べながら愚痴る。
この世界ではサモンウィッチとか言うらしいけど、何というか魔法使いが喜びそうな名前だと思った。
カルガラ肉とパディシナというレタスの親戚と、トニトというトマトみたいな野菜が挟まれていてとても美味だ。
一度齧ればパディシナとトニトの爽やかな風味とカルガラ肉の油が絶妙に合わさり、舌が大喜びする。
いやホント、いくらでも食えるなこれ。
「どう? 美味しい?
人に作るのは初めてだから感覚わからなくて……」
「めっちゃくちゃ美味しい!
とくにこのカルガラ肉の味付けが最高!
今まで食ったのと全然違う」
「多分アキトが今まで食べてたのは青カルガラね。
今回は赤カルガラのお肉だから少し味が違うのよ」
「そうなんだ。
俺は赤カルガラ肉が合うなぁ、舌に」
「それはよかった。
まだまだあるからどんどん食べてね。
仕事もまだまだ沢山あるから」
「それを言うなって……!」
「冗談よ、冗談」
笑いながらフレデリカが言う。
誰が上手いことを言えと。
いや、この上手いは決してサモンウィッチの美味いとかけてるわけではないぞ。
でもなんだか、こうしてフレデリカと一緒に仕事をしてご飯を食べて笑っている今を、俺はどうしようもなく幸せだと感じている。
一人で仕事をするのとは違う心強さがあるし、仕事も早く進む。
大きな仕事があれば二人で成功に喜び、失敗があれば二人で凹む。
共有しているからこそというのもあるけど、この世界に来てから初めて俺は一緒に一喜一憂できる人を見つけられたのかもしれない。
「ごちそうさまでした!
いやー美味しかった!」
「ゴチソウサマ?
そういえばさっきもイタダキマスとか言ってたよね。
何? それ?」
「あぁ、俺の住んでたところでは、ご飯を食べ終わった時に『ごちそうさま』って言うんだ。
んで、食べる時は『いただきます』
作ってくれた人や、生み出してくれた大地とか自然に感謝するって意味かな、多分」
「そうなんだ。
すごく素敵な考え方ね。
それじゃあ私も……ゴチソウサマでした」
手を合わせて俺の真似をするフレデリカ。
金髪の娘がこれをすると、外国から来た人に日本文化を教えてるみたいな気分になるな。
いや……日本文化を教えてるのはあながち間違いじゃないか。
「よし、アキト!
さっさと仕事片付けちゃおう。
精霊祭まで予定はビッシリなんだから!」
「勿論だ。
えーっと、次は何からやろうか……」
その時、扉のベルを鳴らして誰かが入ってくる。
少し戸惑った様子を見せる客は、俺を見てちょっとだけ安心したような表情になった。
「あの……国騎支援所はここですか?」
「……そう、ここで合ってますよ。
今日はどんなご用件で?」
「そう……ですね」
客は特徴的な赤いフードを脱ぎ、明るい表情を見せた。
栗色の髪の毛に眩しいほどの笑顔が俺の疲れた身体すら癒す。
「私の生きる理由を探しに来ました」
「運が良かったな、お客さん。
色々と紹介できることがあるんだ」
彼女の笑顔に釣られて笑うと、横にいたフレデリカも同じく笑った。
彼女がここに来てくれただけで、俺は十分。
だから俺は彼女のために、国騎支援所の人間として出来る限りの支援をする。
それが俺の仕事で、これからもしていくことだ。
そう、思っていた。




