第48話 だいたいみんな知ってるけど言わないでくれるやつ
目を覚ましたら、やけに豪華なベッドの上だった。
昨日の夜はいろいろなことがあった。
女王に魔力を吸われ、フレデリカのおかげで新しい自分になれて、リッシェを説得。
一晩が濃すぎると思う。
まぁ本当に昨日なのか定かではないが……
窓から差し込む陽光が暖かく、心地よい。
このままではまた眠ってしまいそうだ。
そもそも今は何時なのだろうか。
身体を起こし活動を開始しようとするが、身体中に鋭い痛みが走った。
懐かしくも思うが、この痛みには覚えがある。
「まさか、またお前にお世話になるとはな……」
筋肉痛。
動けないというほどではないが、それなりに辛いレベルの筋肉痛が俺を襲う。
もうそろそろ慣れたと思っていたのだが、やはり紅魔晶石の力で無理矢理身体を動かしたのがダメだったのだろう。
俺はぎこちなくも身体を動かし、昨日フレデリカに会った広間を目指す。
もしかしたら誰かいるかもしれないし。
広間に着くと、そこにはエルナがいた。
柱に背を預けながら、だるそうに天井を見上げている。
何をしてるんだ、アイツは。
「おーい、エルナー。
昨日は助かった、ありがとう」
エルナに声をかけると、俺に気づいたエルナがこちらを見る。
エルナほどの実力者なら俺が声をかける前に俺に気づけたと思うのだが……
まぁ彼女も疲れているのだろう。
「あぁ、アキト。
ようやく目を覚ましたのね。
あなたが起きないせいで、帰国の時間がズレたじゃない」
「マジか……それはすまねえ。
ていうか、俺待たなくてもよかったんじゃないか?」
「女王が協力するのはアキトよ?
あなたがいないと船は出せないって言うんだから置いてもいけないわよ」
「そ、そうか……」
もしも俺がいなくても船が出るなら、たぶんエルナは俺を待たずにさっさと帰国していただろうな。
こういうところ、正直でいいんだけどたまに俺を傷つけるぞ。
そこは「一応パートナーなんだから、一緒じゃないと帰れないわよ」くらい言ってくれてもいいのに。
「……その顔なら、心配する必要はなさそうね」
突然エルナがよくわからないことを言い出した。
俺の顔が何か変なのか……?
そう思った瞬間、俺は昨日のことを思い出した。
「そういえばフレデリカに紅魔晶石の話をしたのはお前だったな」
「まぁね。
で、どうだったの?
少しは気楽になれたかしら?」
「おかげさまでな。
本当のことを言えたし、自分で自分が成長したって思った」
「ふーん……
じゃ、いいんじゃない?」
エルナはやはりそっけない態度であるが、それでもどこか嬉しそうだ。
なんだろうか、少しエルナが優しくなっているような気がする。
最近ではそこまでザクッと心に刺すような言葉もないし。
エルナも丸くなっているんだな……
「ほら、目が覚めたなら早く女王のところに行くわよ。
勇者様もフレデリカも待ってるんだし」
「お、おう!
そうだな!」
俺はエルナの後ろを付いて行き、謁見の間へ辿り着く。
扉の先には既に勇者様とフレデリカ、そしてリッシェが居て、ついでに知らない人も二人ほどいた。
あれがいわゆる交渉しに来たお偉いさんなのだろう。
女王は遅れてやってきた俺に何も言わず、ただ少し微笑むだけだった。
「昨日はよく眠れたか、アキト」
「はい、おかげ様で」
「ならばよし。
其方には感謝してもし足りぬからなぁ。
またフュネイトに来る時は、ぜひ妾の元へ一度姿を見せてくれ」
「はい、勿論。
俺も色々お世話になりましたから」
女王はゆっくりと頷き、そのあと指を鳴らした。
すると、何処からともなく白い毛に覆われた半魔族が姿を現す。
「レイリア、この者達を港まで送っていってくれ。
必要なら兵士を数人連れて行ってもいい、腕利きのな」
「はい、了解しました。
ではみなさま、私の後に続いてください」
レイリアと呼ばれた半魔族が俺たちを先導する。
前髪……? いや、前毛? によりこちらから目が見えないだが、レイリアには前が見えているのだろうか。
とりあえず、レイリアの後を着いていこう。
「そうだ、一つ言い忘れたことがあった。
そのまま聞けアキト、そしてフレデリカ」
歩みを一度止め、振り返る。
何を言い忘れているのかというのも勿論気になるが、フレデリカも一緒というのが謎だ。
フレデリカ本人も、戸惑ったような表情をしているし。
「まぁ、そうだな、何と言おうか……
前も言ったが、この城は常に監視の目があるから城内のことは全て、妾にはわかる。
さらに言えば、城を守る者全員に共有されているのだ」
……?
一体何が言いたいんだ?
それは勿論知っていたが……
チラリと横を見ると、何故かフレデリカは顔を真っ赤にしている。
なんだなんだ、俺にだけわからないってことか?
「……わからぬか。
わかった、ならもう少しわかりやすいように言わせてもらおう」
女王は玉座から立ち上がり、腕を組む。
そして、ちょっと視線を天井やその辺りにずらし、俺やフレデリカに合わせないまま言った。
「き、昨日の其方らのことは、見なかったことにしておく」
そこまで言われて、俺はようやく思い出す
昨日、俺はフレデリカとそれはまぁ他人から見れば恥ずかしいことをぶちまけていた。
とても素直でいいことだと思ってはいる。
しかし、事実恥ずかしいのはきっとわかってもらえるはずだ、多方面に。
そうか、見張りの目があるってことはあれ全部見られてるのか。
んでもって、フュネイトを守ってる人たちには大体知られていると……
俺は何も言わずに女王に背を向けて、歩きだす。
俺の心の内は全部女王に読まれているから別に言葉に出さなくてもいい。
出すほうが恥ずかしい。
でもこれだけは言わせてくれ。
「し、死にてぇ……」
ダリアや半魔族の記憶の中から、俺とフレデリカの昨日の出来事全てが消えてくれることを切に願いながら、俺はフュネイト城を後にした。




