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マジ無能力で異世界転移したけど世界を救うために頑張ります!  作者: 鷲鷹 梟
第2章 遥かなるアイントラハト
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第45話 私もあなたと同じ気持ちだから

 半魔族の女王ことダリア・シュネイクから開放されたのは、あれから約一時間ほど経ったあとのこと。

気づけば夜になっており、城の外には夜の帳が降りていた。


 ある意味女王のおかげで疲れは緩和された。

そう、色々あって緩和された。

方法についてはノーコメント。

簡単にいえば女王の力で身体に残留している魔力をある程度逃がしたといえばわかりやすいだろう。


 しかし、紅魔晶石の魔力を全て逃がしたわけではない。

なのでこれからもしばらくは魔力による後遺症に悩まされるかもしれないとのこと。

女王曰く頭痛や目眩、手足の麻痺や睡眠障害などまぁ色々あるらしい。


「依頼中に倒れるとかは嫌だな……」


 独り言を呟きながら城を歩く。

この城は常に見張りの半魔族による監視の目があるので俺に誰もついていかなくても安心なのだそうだ。

迷子になってもちゃんと正しい道を教えてくれるらしいのだが、既にここがどこだかわからない。

なんだ、えっと、扉を開けたら広間みたいなところに出たな。


「えっと、ここからどうすればいいんだ……」


 扉を背に辺りを見回していると、柱の影から見慣れたポニーテルが現れた。

お城の照明に照らされ美しく輝く金髪と、海を繰り抜いたような青い瞳。

間違いない。


「フレデリカさん!」


「こんばんわ、アキトさん。

 今から戻るの?」


「そうですね。

 と言っても、迷子状態ですが……」


「そう……なんだ。

 やっぱり疲れてる?」


「うーん……今はそうでもないですね。

 でも多分、ベッドに入ったら一発です」


「そっか……」


 なんだか暗い雰囲気のフレデリカ。

というか、よそよそしい?

ちょっと気になるな……


「あの、フレデリカさん?

 どうかしたんですか?」


 フレデリカに問いかけると、彼女は顔を俯かせ何かを悩んだ。

だが、吹っ切るように左右に顔を振るとまた俺を見る。


「アキトさん、少しだけ時間いい?」


「え、あ、はい……」


 フレデリカは覚悟を決めたような顔をしている。

先ほどとはぜんぜん違う表情だ。

思わず俺の気持ちも引き締まる。


「……アキトさん、あの魔晶石。

 使ったって聞いたけど、本当?」


 ……なるほど。

そういうことか……出来ればバレたくないんだが。


「……誰に聞いたんですか?

 あの魔晶石は使ってないですよ。

 戦いの時に海に投げ出されて、その時に何処かへいっちゃったみたいです」


「ふーん……

 そうなんだ……」


 フレデリカは真っ直ぐ俺を見つめる。

一瞬足りともその瞳が逸らされることはない。

曇った俺の瞳に穴でもあいてしまいそうだ。

でも、ここで目を逸らせば嘘がバレる。

俺は負けじとフレデリカの瞳を見つめ、嘘を本当に変えようとした。

しかし。


「……嘘、ね。

 狼に聞いたよ、本当のこと」


「……バレてたんですか、最初から」


 どうやらフレデリカはエルナに本当のことを聞いていたようだ。

フレデリカは魔力が及ぼす影響を誰よりも知っている。

だからこそバレたくはなかったのだが、バレてしまった以上仕方ない。


「……仕方なかったんです。

 フュネイトに危険を知らせるには、あの方法しかなかったんです」


「だからって何も魔晶石を使わなくてもいいでしょ!?

 アキトさんは騎士だけど、そこまでしなくてもいいじゃない……

 たかが……たかが一人の騎士じゃない!」


「違います。

 フレデリカさんが言っていたように、誇り高き騎士の一人であり、俺でもあるんです。

 フュネイトの人達にも、勇者様にも、フレデリカさんにも、誰一人傷ついてほしくなかった。

 俺はもう、フレデリカさんに悲しい顔をしてほしくないんです」


「……じゃあ、その考え方をやめてよ。

 騎士に必要なのは勇気であって無謀じゃない……

 自己犠牲が前提の戦いなんて、それこそ無謀じゃない!」


 一瞬フレデリカの視線が逸れた。

今まで決して逸らされることのなかった瞳が、俺を見ていない。


「……無謀でもいいんです、それで誰かが助かるなら。

 俺一人が無謀なら、俺だけ辛いだけで済みますから」


「……本当に、そうなの?

 本当にそう思って、アキトさんは行動したの?」


 フレデリカは少し涙目になっている。

その姿に心が揺れ、なんだか俺も涙目になってしまいそうだ。

でも、駄目だ。

今ここで、俺は彼女に弱い姿を見せられない。


「……そうです。

 俺一人だけなら、何の問題もないんですから」


 俺が言葉を捻りだした瞬間、フレデリカが俺を見つめた。

今にも涙が零れそうで、我慢していて、でも言いたいことがあって……

全てが詰め込まれた、そんな青だ。


「何も……何も……

 何もわかってないよ!……アキトは!」


 そう言うとフレデリカは、突如として俺の胸に飛び込んできた。

人に触れられるのが嫌だと語っていたあのフレデリカが。


 突然のことに驚き、扉に背をぶつける。

軽い扉なら開いてかもしれないが、重くて助かった。

え、でも、なに、なぜ、どうして、なんだこれ。


「アキトの馬鹿!

 自分しか見えてない……他人を……私を見てないじゃない!」


「フレデリカ、さん……?」


 ガツガツと素手で俺の壊れた鎧を叩くフレデリカ。

何度も、何度も、何度も叩く。

やがてその力は弱くなり、最終的に彼女は俺にすがりつくようになった。

彼女の手がほんのり赤くなっている。


 ついにその我慢は解かれ……いや、解かせてしまったのだ。

フレデリカは、その瞳から青を溶け出させた。

一粒一粒、大粒の涙を流して止まらない。

なんだかこのまま彼女泣いていたら、その瞳から色が失われしまうのではないか。

そんな気がして仕方がない。

俺は、それが怖い。


「私はね……私はアキトと同じ気持ちなの……

 アキトが私に傷ついてほしくないと思うのと同じくらい、私もアキトに傷ついてほしくない。

 自分一人だけが辛いならいい?……私も辛い、辛かった……

 それが伝わらないのは……私が悪いの……?」


「い……や……それは……」


「矛盾してるよ、アキトは。

 本当は戦いで傷つくよりも、人に嫌われる方がずっと傷つくからそうしてるだけ……

 でも結局、自分で自分を傷つけてるじゃない……」


 何も、言えない。

図星を突かれたといえば、確かにそうだ。

他人とは違う、ある程度の繋がりを持った人に嫌われるのが怖い。

その人に嫌われてしまったら、俺は深く傷ついてしまう。

自分でわかっている。

だったら、自分で自分を傷つけるほうがはるかにいい。


「だって……だって仕方ないじゃないですか!

 ここの人はみんな優しくて、みんないい人ばかりで……

 だから嫌われたくない、傷つきたくないって思うのは当たり前じゃないですか!」


 なぜだか涙が出そうになる。

情けない。

情けないけど感情が言うことを聞かない。

ニックに負けたあの時と同じように、思考が絡みあってうまく解けない。


 じゃあ俺はどうすればいいんだ。

一体どうすればいいんだよ。

どうするのが正解なんだよ。


「誰も責めないよ……誰も嫌わないよ、アキトのことは。

 たとえ今回、アキトが魔族の企みを阻止できなくても。

 たとえアキトが私の暴走を止めてなかったとしても、私ひとりが辛いだけで済む」


 少し意地悪するようにフレデリカは言った。

違う、そうじゃないんだ。

フレデリカが言った「私ひとりが辛いだけ」という言葉が胸に刺さる。

そうか……フレデリカも今の俺と同じような気持ちになっていたのか。


「違うんです……そんなつもりじゃなくて……

 俺は本当に、ただ、フレデリカさんに傷ついてほしくなくて……

 あの時みたいに、悲しい顔をしてほしくなくて……!」


「……我儘をいうかもしれないけど、聞いて。

 もしも私が傷ついてほしくないと思うなら、私が傷つかないために、アキトも傷つかないで。

 もしも私に笑ってほしいと思うなら、私の笑顔のために、アキトも笑って。

 もしも私に幸せでいて欲しいなら、私の幸せのために、アキトも幸せになって。

 それだけで、それだけで私はいいの……」


 フレデリカの言葉を聞いた瞬間、我慢していたはずの涙が零れた。

身体の力が抜け、その場に座り込む。


 涙が一粒落ちると、もう止めることはできない。

一つ、また一つと涙は瞳から零れていく。

自分でも不思議に思うくらい、涙が零れる。

わからない、わからない、わからない。


 もしかしたら、俺はずっとその言葉を聞きたかったのかもしれない。

誰かにその言葉を言ってほしいと思っていたかもしれない。

でも、想いを悟られまいとしていたから自分でもわからなくなり、忘れてしまったのかもしれない。


 しかし、フレデリカは言ってくれた。

俺の忘れていた言葉を。

俺の本心を。


「フレデリカさん……俺……俺は……」


「フレデリカで……いいよ。

 大丈夫、大丈夫だから……」


 フレデリカは俺泣きじゃくる俺を優しく抱きしめてくれた。

彼女も泣いているし、俺も泣いている。

二人でずっと泣きながら抱きしめ合い、互いの熱を感じていた。

それだけで、俺は生きているのだと実感することができた。


 今はただ、その幸せだけでいい。

俺はもう一人じゃなくていいから。

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