第44話 真実の蕾
半魔族の女王の謁見を終えて、ようやく開放される。
正直、あたしがあの場にいる必要は微塵も感じなかったけど。
謁見の間から少し離れた広間まで、あたしと勇者様の間に会話はなかった。
広間に着くと勇者様が突然立ち止まる。
これはいいタイミングかしら。
「どう、勇者様?
アキトっていう人、変でしょ」
「確かに……そうだな。
女王は人の心を読める。
そう考えれば、確かに変だ」
そうよね。
普通は人が何かする時、対価を得ようとする。
それも自らの保身を優先してだ。
しかしアキトは、それをほとんど考えていない。
他人からの評価を考えないし、自分がやりたいことをする。
でもそれが結果的に他人のためになっているのだ。
「あたしも最初は調子が狂ったわよ。
でも最近は少し慣れてきたかも」
「俺は……まだ慣れないな。
すまないが、女王に言われたことを伝えに行かねばならない。
また、後で」
そう言って勇者様はさっさと歩いていった。
でしょうね、都合が悪いもの。
彼からすれば、アキトは理想。
後は知恵と力さえあれば完璧って感じ。
あの態度も当然。
……そして、もう一人。
ちゃんと説明しないと納得しなさそうなのがいるわよね。
「隠れてないで出てきたら?
そこにいるんでしょ、あなた」
そう言うと、柱の影から一人の女性が現れる。
フレデリカ・シュタイン……
勇者様に憧れるリノシアの女性兵士。
そんな彼女が曇った表情で立っている。
「……どうしてわかったの?」
「そりゃバレるわよ。
あたし、狼だから鼻には自身があるのよ」
「そ、そう……」
言ったきりフレデリカは俯き、言葉を発しない。
冗談を言ったつもりなのに反応なしはつまらないわ。
重症ね、こりゃ。
「聞きたいんでしょ?
アキトがしたこと」
「……教えて、貰えるの?」
「勿論よ。
あなたには話さないといけないって思うから」
あたしは正直に全てを話した。
アキトがしたこと、なぜそうしたか。
そして、それを隠そうとしたことも全て。
話していくうちにフレデリカの表情はどんどん変わっていった。
最初は暗い表情だったけど、今は悲しさと怒りみたいのがごちゃまぜみたいな。
彼女も混乱しているのよね、多分。
「……とまぁ、そんな感じかしら。
予想してたと思うけど、紅い魔晶石を使ったのは事実。
依頼と警告をどっちもこなすにはこれしかないって、変よね」
「……やっぱり。
どうしてそんなことを……」
「さぁ、なぜかしら。
私じゃなくて本人に聞いてみたら?」
「無理よ……
聞かないほうがよかったって、思うかもしれない」
「そう。
あたしは他人の背中を押さない人だから、これ以上は言わないわ。
けどね……」
一瞬だけ、言うのを躊躇った。
もしかしたら、いい方向に転ばないかもしれない。
悪い方向に転んでしまうかもしれない。
でも、今更。
きっとアキトなら大丈夫。
あの変人なら、あたしの予想なんて当てにならない。
それに、フレデリカがアキトを心配しているなら、尚更。
「けどね、聞かなきゃ変わらないわ。
あなたも、アキトも両方。
……アキトが変わるかどうかは、微妙なものだけど」
フレデリカは再び俯き、顔を上げない。
色々と考えることがあるのだろう。
本当は勇者様にも似たようなことを言っておきたかったけど、仕方ないわ。
……てか、なんであたしがこんなことしなきゃならないのよ。
でもアキトが頼んだわけじゃないから余計なお世話よね。
……やっぱり駄目、アキトは一応、あたしのパートナー。
あたしに相談なしであんなことされたら困るのよ。
後で文句の一つや二つ言わなきゃ。
とにかく、今日はもう休みたい。
一晩中アキトを運んでいたし、戦闘の疲れもある。
シャワーでも浴びてゆっくりやすみたい。
「じゃあそろそろあたしは行くわ。
今日はお疲れ様」
挨拶をしてその場を立ち去ろうとした時、肝心なことを言い忘れていたことに気づく。
これもちゃんと伝えなきゃね。
一度振り返し、フレデリカの方を見る。
「言い忘れてた。
あなたが暴走した時、その暴走を止めたのはアリアでもガーティスでもないわ」
「嘘!?
じゃあ誰が……!」
言いかけて気づいたようだ。
大体察しはついたようね。
「ということだから、よく考えて行動して。
そうしてくれるとあたしも助かるから」
フレデリカに言い残し、今度こそ広間を離れる。
もし今のタイミングでアキトが現れたら面倒だしね。
まぁでも、これでいいんじゃないかしら。
フレデリカが何を想い何をするかわからないけど、話したことによって変わることもあるだろうし。
とりあえず今はフレデリカの様子を見守るしか無い。
「……慣れないことはするものじゃないわね」
独り呟き歩く。
なんだか寂しい姿だと自分でも思うのは仕方のないことよ。




