第43話 それだけで何かすいません
「此度の戦い、ご苦労であった。
礼を言うぞ勇者よ」
「いえ、当然のことをしたまでです。
フュネイトの兵士たちの統率力あっての成果ですから」
俺の前で勇者様がフュネイトの女王に言う。
半魔族のために勇者様は魔物を蹴散らしたのだ。
かなりの数の魔物がフュネイトへ向かったが、やはり勇者様を信用した甲斐がある。
魔族&魔物との戦いが終わり疲弊しまくりの俺は、状況説明のためフュネイト城の謁見の間へ通された。
しばらく休めば動けると思っていたが、紅魔晶石の反動が思ったよりも大きい。
今だに身体はちゃんと動かないし、今も立っているのがやっとなのだが説明はしないといけないだろうなぁ。
今この謁見の間には俺と勇者様、そしてエルナしかいない。
特に隠すこともなく色々と説明はできそうだ。
「さて、そこの黒髪。
名はなんという」
えーと、この場にいるのは赤髪のエルナと銀髪の勇者様……ということはまぁ俺のことだろうな。
いよいよここから状況説明ってところか。
「そう、其方だ。
名を教えてくれるか?」
「アキト=カゼミヤです。
この度は、このような姿ですいません……」
女王の前に姿を現すにはいささか無礼な姿をしている思う。
鎧は半壊してるし、靴に泥もついている。
今すぐ眠りにつきたいくらい眠いし本当に申し訳ない。
「そうか、アキトと申すか。
ではアキトよ、疲れているのはわかるがもう少し我慢してほしい。
話は聞いておるが、状況の説明を頼むぞ」
「はい。
私はウォレスタで国騎支援所を営んでいる者で、今回は支援所の依頼でこちらに参りました。
紅い魔晶石を処理してほしいとのことでしたので、魔晶石のことに詳しい半魔族にそれを尋ねようと思っていたのです」
「紅い……魔晶石か。
なるほど大体わかった」
今の説明で大体わかるってフュネイトの女王様すごいな……
いや、予想がつくって意味ならわからなくもないか。
だとすればフレデリカにもバレてるかもしれない……
「まさか海底洞窟から魔族が侵入するとはな。
今後は十分に警戒を強化する必要がある」
「え、わかってたんですか?」
「いや、其方と話せばわかる。
たしかに其方の思う通りだ。
紅い魔晶石を処理し、さらには我が国へ危険を知らせることが出来る手段は一つ。
そのためにアレを使ったのは正解だ」
心が読まれているようだ。
というより、完全に読まれている。
エルナが言っていた半魔族の持つ特殊能力ってのはこういうことか……
なるほどな、確かに魔族が狙うのもわかる。
そして女王が言うように、依頼達成と危機警告を同時に果たすにはあの方法しかなかった。
失礼な話かもしれないが、俺としてはかなり都合がよかった。
どちらも達成できないなんてことはあってはならなかったから。
「よし、ではここからが本番だ。
アキト……其方はなぜ、そのようなことをした?
魔晶石を処理するだけなら、身の危険を冒す必要はなかろう。
なぜ我が国に知らせようと考えたのだ?」
なぜ……?
なぜって……なんでだろうな……
あの時の俺は、確か色々と考えていたような気がする。
でも結局、結論としては何が残るだろう。
「えっと、なんというか……
一石二鳥というかなんというか……
フュネイトの人達が困るから……みたいな?」
今の言葉の瞬間、勇者様とエルナが固まったように思える。
さっきまではチラチラ俺を見たり、女王を見たりみたいなことをしていたのに、今はピクリともしない。
いや、なんで?
「イッセキニチョウとは初めて聞くが、大体意味はわかった。
しかし、なぜだ……?
なぜそれ以上になにもない?」
「何もないというわけではありません。
もし魔族が攻めていってフュネイトの人達や勇者様、フレデリカさんが戦うことになるのが嫌だったんです。
自分が嫌だったのでそうしました……じゃ駄目ですか?」
女王は目を赤く光らせこちらを見つめている。
その時間は短いのか長いのかわからない。
俺からすればものすごく長く感じるのだが、周りはそうじゃないかもしれない。
思わず目を逸しそうになるが、一瞬だけ逃がして再び女王を見る。
「……ふふふ、なるほどなぁ。
これは参ったなぁ、アキト」
女王が突然笑い出し、俺も勇者様も混乱している。
エルナはまぁいつもどおり冷ややかに気だるそうな表情をしているが。
もう少し興味を持ってくれ、この話題に。
でも、なんで笑ったんだ?
「え……何が、ですか?」
「いや、本当にそれだけとは思わなかったのでな。
ついつい、面白くて笑ってしまったよ
勇者の仕事内容も知らぬようだしな」
心を読まれているとはいえ、これは珍しいことなのだろうか。
正解としては、「深く考えていなかった」になりそうなものだがそうではない。
ますます混乱してくる。
「面白いな、アキトは。
気に入った……其方に協力しよう」
「協力……?
ということは、我々との交渉を?」
突然勇者様が話に割って入る。
交渉……ってことは勇者様はそれを仕事にフュネイトに来たのか。
「待て、そう急ぐな勇者よ。
妾はアキトに協力すると言ったのだ。
人間全体とは言っていない」
「ど、どういうことですか!?
一国が個人に協力だなんて……!」
「今はまだ人間全体と同盟を結ぶ気にはなれん。
信じることができそうな者から信頼を繋いでいくことの何がおかしい?」
「……それは、わかりません」
な、なんだ……
よくわからない話が俺を抜きにどんどん前に進んでいるぞ。
あれか、俺の答え方が駄目だったのか?
いや、でもどうせ心を読まれるし意味ないよな……
「そういうことだ勇者よ。
あの者達に伝えておけ。
妾は其方らと同盟は組めぬとな」
「……わかりました。
しかし、私一人での言葉ではいささか説得力に欠けます。
出来れば、一筆認めて貰えれば助かります」
「それくらいはしてやろう。
終わり次第、城の者に渡すよう命ずる。
此度は助かった、下がってよいぞ」
女王の言葉を聞き、一礼して去っていく勇者様。
そして、それの後を追うようにエルナも出て行く。
これは俺も出て行っていい感じだな。
揺れる身体を無理やり動かし、扉へ向かおうとするが……
「待て、其方はもう少しここにいろ。
妾と少し話をしないか?」
「……わ、私でよければ……!」
正直休みたいという俺の思いは伝わっているはず。
しかし、なぜかそれをさせてくれない女王様。
断れない……国を治める人の言葉を、俺は断れない……!
結局俺は、しばらくの間女王とフリートークをすることになった。
普通に喋るだけで女王は満足そうな表情をするのでなんだか複雑な気分になる。
休みたい、ただその一心だけは揺るがなかった。




