第39話 巧魔のノーラ
アキトが魔族の前に飛び出していった。
このあとアキトがあの大きな魔族をおびき出したら、あたしは残った二人の相手をする。
あのワニ頭はおそらく簡単に倒せるでしょうね。
何ならアキトでも倒せるくらいには弱いんじゃないかしら。
この場にいるのが不思議なくらい。
それより、あの青肌の魔族が問題よ。
あの三人の中で魔法陣を生成できそうな魔族は彼女一人、
国一つを奇襲するとはいえ、魔族の駒である魔物を生成するならそれなりの数を揃えていないとダメ。
でも、実際にその魔族を生成できる魔族は一人しかいない。
彼女一人で国を攻めることができるほどの魔物を生成できるなら、かなり厄介。
大きな魔族もかなりの手練れでしょうね。
アキト一人だと殺されかねないから、早く二人の魔族を片づけてしまわないと…
「って、なんであたしがあいつの心配してるわけ?
今はあたしの命の方が大事でしょ」
自分で疑問に思いながらも、アキトの様子を見守る。
やがてアキトが大きな魔族を誘い出した。
あたしもそろそろ行かないとね。
隠れていた場所から、魔族の元へ駆ける。
できるだけ時間をかけず、一瞬で。
少しでも時間をかけてしまえば、残された魔族が何かしらの行動をしかねない。
「あの男は無視しなさい。
あなた達の相手は、あたしよ」
魔族二人の前に立ちふさがる。
ワニ頭は突然現れたあたしに驚いているけど、青肌の魔族はそうではない。
もしかしたら、隠れていた段階で気づかれていたかも。
「おい、どういうことだノーラ!
邪魔は入らねえって言ってただろうが!」
「うるさいわよ、グニス。
今ここで片づけてしまえば問題はないでしょ?」
「そりゃあ……そうか」
ノーラと呼ばれた青肌の魔族は、馬鹿っぽいワニ頭を丸め込む。
そんな言葉で納得するって知能が足りてないわよ、グニス。
戦うならこういう馬鹿がいいわ。
アキトみたいな変人だと何をするかわからないもの。
「あたしを片づけるって難しいと思うけど?」
「そりゃあどうかな、赤髪ィ。
オレ様は魔族最強の男だぜ?
あんまり舐めて――」
「うるさいわよ」
グニスが喋っている途中、思わず手が出てしまった。
あたし自身が驚くくらいのスピードで拳が放たれる。
拳は異常な威力でグニスの頬を殴りつけ、グニスは半回転しながら吹き飛ぶ。
そして地面に顔を突っ込み、情けない格好で気絶した。
「……あの魔族は今度から雇わない方がいいわよ」
「ワタシも今そう感じたわ。
あなたとは気が合うかもねぇ」
「ごめんなさいね。
あたしはその逆みたい」
腰に差してあるレイピアを引き抜く。
透き通るような金属音が響き、心地よい。
アキトに出会ってから、このレイピアを使う場面が増えたような気がする。
フレデリカが暴走した時は使わなかったけど、使う可能性は十分にあった。
「あらあら、生意気な小娘だこと。
年上はちゃーんと、敬うべきよ?」
ノーラは杖を振るい、構えた。
杖の先端には青い魔晶石が埋め込まれており、いつでも魔法が打てる状態。
でも、今打っても魔法を回避されて逆にカウンターを受けてしまうと知っている。
相手の強さを見極めることができない相手ではないようね。
しばらく互いに睨みあい、攻撃のチャンスを伺う。
あぁもう焦れったい。
先に仕掛けさせてもらうわよ。
腕を振るい、レイピアでノーラを狙う。
ノーラはその動きを見る前に、すでに動き始めていた。
攻撃の予測……?
いえ、もしかしたらすでに魔法が発動していたのかもしれないわ。
どちらにせよこの攻撃は、当たらない。
予想は正しく、あたしの放った攻撃は空を突く。
瞬間、ノーラの杖が怪しく光り、杖から泡が大量に放たれた。
回避を試すけど、全ては避けきれない。
いくつかの泡があたしの鎧やスカートに付着した瞬間、鎧が溶けだす
なるほど……これは強酸の泡。
せっかくの鎧とスカートに穴があいちゃったわよ。
これが肌に当たったらひとたまりもないわね。
ノーラはまたも杖を振るい、酸の泡を放つ。
レイピアで泡を払えば、レイピアが使えなくなる。
「魔法には魔法で対抗するしかないようね」
レイピアの切っ先で大きく円を描く。
やがて円は幾何学的な魔法陣となり、それから幾多の火球が放たれた。
火球は泡を破壊し、ノーラへと向かうが……
「やっぱりねぇ。
ノーマンの使うマギアがワタシ達のマギアに適うわけないのよ」
ノーラは左手をかざし、自らの目の前に半透明の防御壁を生み出す。
防御壁はあたしの魔法を全て吸収してしまった。
それだけではない。
「ほーら!
お返しよ!!」
片手で防御壁を丸め、小さな球形の魔法陣を生み出す。
そしてそれをあたしへ向けて放つと、球形の魔法陣は大きく展開し、火球を放つ。
あたしの放ったものより、何倍も大きく、何倍もの数。
避けなければ、死ぬ。
火球を火球で打ち消しながら、被弾しないように避ける。
辺りを燃やしながら火球はあたしに向かってくるので面倒。
「あたしの火球に追尾性はないのに、相手のはあるのね。
さすがに分が悪いかも……!」
火球を避けきり、ノーラを見る。
するとノーラは杖ではない何かを手にして立っていた。
黒く丸い、禍々しい何か。
まさかアレが……?
「何か察したような顔をしてるじゃない。
多分それはアタリ。
見せてあげる、ワタシの力を……!」
ノーラは手にしていた黒い何かを、地面に埋め込んだ。
すると、辺りに黒い霧のようなものが立ちこめ始める。
これは……リノシアの時と同じ?
黒い霧は、あの時と同じように渦を巻いていく。
瞬く間に渦は数を増やしていき、その数はおそらく数百……いや、それ以上か。
リノシアの時より、渦が増える速度が速い。
あのときはまだ未完成だったってわけね。
「これがワタシの力よ。
この数の魔物とワタシを相手にして勝つことができるかしら?」
「さぁね、わからないわ。
でも多分、そろそろあの変人がやらかす頃じゃない?」
「あの変人……?
一体何の話を……!!」
その時、異常な空気があたしの頬を撫でた。
ノーラもそれを感じ取ったのか、かすかに身体が震えている。
その間にも魔物は数を増やしていくが、それを気にしている暇なんてないくらいに嫌な空気。
「アキト……まさか!」
これならば、確かに作戦は成功する。
そう脳裏に閃いたことは、想像したくないことだった。
でも、きっと現実はそれを拒否して突きつけてくる。
あたしはそれを、どう受け止めることができるんだろう。




