第37話 インポッシブル ワーニング
バンデ港を出発して数時間後。
一行はフュネイトへと到着した。
半日かかるということだったが、予想よりも早い到着になった。
フュネイトの主要街であるミルドは、半魔族の国らしくウォレスタ以上に半魔族や魔族が暮らしていた。
人間もいないわけではないが、数はそこまで多くない。
勇者である俺が移動していても、視線は感じるもののウォレスタやリノシアのように人が群がるということがないので気が楽だ。
フュネイト城へ行くと、案内である半魔族が俺たちを出迎えた。
黒い猫耳と尻尾を生やした半魔族……何の能力を持っているかわからないが、ここからもう交渉は始まっていると考えた方がいいだろう。
「ようこそおいでくださいました。
今日はごゆっくりお休みになって、明日また会えること楽しみにしております」
案内人の半魔族が俺たちを客室へと案内する。
今日はフュネイトのお偉いさん同士が会食する予定だ。
本格的な交渉は明日からになる。
会食にフュネイトの王は参加しないし、俺とフレデリカも参加しない。
護衛という立場が生きたんだろうな、俺は飯のマナーなんて知らないから丁度いい。
とにかく、今日はなんだか疲れたので早めに休むとしよう。
「やっぱ揺れないベッドって快適だな……」
やたらとフカフカなベッドの上でそう思う。
ずっと船やベヘルに乗っていたのでまだ揺れている感覚があるのが不思議だ。
しかしそれも、すぐに訪れた睡魔によって遮断されるのであった。
次の日。
俺とウォレスタとリノシアの使いが謁見の間へ通された。
やはり俺は交渉材料の一つというわけか。
困ったもんだ。
謁見の間には、黒と赤で装飾された禍々しい玉座に座るフュネイトの王がいた。
いや、女王がいた。
灰色の髪の毛に、青灰の肌。
頭部の二本の角と、紅く光る目がその姿を自然と畏怖として捉えそうになる。
「久しいな、人間が来るのは。
話は大体聞いているが、もう一度話を聞かせてもらえるか?」
女王は背を玉座に預けず言葉を放った。
瞳が真っ直ぐとウォレスタの使いを見つめている。
これはやりにくいだろうな……
「お会い出来て光栄であります、ダリア女王。
この度、私めらとこの勇者クロム・レオンハートがフュネイトへ参ったのは他でもありません。
ウォレスタとリノシア双方とフュネイトで同盟を結んで頂きたく思っているのです」
「……なるほどな。
で、その目的とはなんだ?」
「同盟の目的は、勿論平和のためです。
ウォレスタとリノシアはレギルディアと異なり、平和を目指す国づくりを行っております。
そして、可能であるならば魔族とも和平の道を進みたいと思っておりますので、魔族との争いが絶えぬ今、和平の道へたどり着ける可能性が高いのは半魔族との同盟交渉だと考えて参りました」
使いがそう語った時だ。
気のせいだろうか? 女王の目が光ったように見えた。
女王は使いの言葉を聞き一つため息をつくと、玉座に背を深く預けた。
「よくもそのような見え透いた嘘を言えたものだな。
平和という言葉を使えば妾が頷くとでも思ったか?」
女王は高圧的な態度で使いを責める。
しかしそれは鎌をかけるというようなものではなく、本質を見ぬいたというような言葉であった。
「そ、そんな嘘などと……!
私たちは本当に人間と魔族、そして半魔族の平和を心から願っておるのです!」
「どうかな?
其方らが言う平和とは我々の能力を有効に使い、魔族を力でねじ伏せることなのか?
呆れるなぁ、人間よ。
妾は其方の考えていることは、全てわかるぞ」
「……っ!」
これはマズイぞ。
どうやら先程女王の目が光ったように見えたのは、気のせいなんかではなかったらしい。
あれは多分、女王の持っている能力だ。
人の考えていることがわかる能力と考えれば話が早い。
国を治める立場なら、ピッタリの能力だろう。
「そうだ、勇者よ。
其方の考えていることは半分当たりだ。
妾は思考を読み取ることが出来る。
そして、それを元にその先のことまで予想することが出来るのだ。
愚かな人間よ、もっとまともな人間を連れてくるべきだったな。
権力や私欲にまみれた者は、目に余る」
やはりそうか。
俺の考えていることが完全に読み取られた。
となればこの交渉、決裂の方向に向かうのは誰もが予想できるだろう。
だが、いいのか?
本当にここで同盟を諦めていいのか?
「勇者よ、諦めるがいい。
其方がいくら努力しようと、今の状況では妾の気は変わりはせんよ。
だがまぁ、もう少しまともな人間を連れてくれば……!」
その時、女王の様子が変わった。
目つきが鋭くなり、何かを警戒するような……そんな感じだ。
「レイリア!
レイリアはいるか!」
「はい、ここに」
女王が呼ぶとともにレイリアと呼ばれた半魔族が姿を現した。
まるで空間から直接現れたように急に出現したので、俺も使いの二人も驚いている。
「レイリア、今のは?」
「はい、既に特定済みです。
ここから北東の海岸線に魔族四名と、魔物が数千。
人間二人がこれに応戦していようです」
レイリアは探知能力に優れているようで、すぐに何かが起きたであろう場所を突き止める。
しかし、半魔族の能力がこれほどまでだと思わなかった。
「人間が二人……?
其方ら、これはどういうことだ?」
心当たりがある。
この大陸に俺とフレデリカと一緒に乗ってきたアイツ。
彼はここで俺たちとは違う別の仕事があると言っていた。
まさか、そうなのか?
「……心当たりがあるようだな。
レイリア、状況は?」
「はい、どうやら魔族が海底洞窟を通り大陸に侵入。
魔物を生成しフュネイトへ攻め込むところを人間に発見されたようです」
「なぜ魔法陣の魔力を探知出来なかった?
妾はともかく、レイリアならば簡単だろう」
「はい。
予想でしかありませんが、魔族は魔力を必要としない魔法陣を用いてると思われます」
魔法陣を必要としない魔物の生成……?
フレデリカに聞いたウォレスタとリノシアを襲った魔物は、そうやって生み出されていたのか。
だから国上層部でも感知できなかった。
「妙だな……
だとすれば今の魔力反応は異常だ。
魔物程度の魔力では探知することができないはず……」
「お考え中すみません、ダリア様。
魔物がこちらに向けて進軍を開始しました。
指示を」
「……わかった。
兵を出せ、民への被害は絶対に出すな!」
「その戦い、俺にも助けさせてくれ。
勇者として、この国の人々に被害を出させないと約束する……!」
俺の言葉を聞き、女王は少し考えるような仕草をした後、頷いた。
俺の思考が読み取られたかもしれない。
いや、ほぼ確実に読み取られたであろう。
それでも俺の気持ちは変わらない。
俺は勇者として、これを見逃すわけにはいかないのだ。
「頼むぞ勇者。
妾は其方と、北東にいる人間二人を信じてみようと思う」
「……有り難き幸せ。
では、私は失礼します」
謁見の間を離れ、レイリアの指示の元フュネイトの兵士たちと合流する。
アキトがなぜ魔族の情報を持っていて、それを知らせることが出来たのかわからない。
今はただ、襲い来るであろう魔物を倒すことを考えるのが先だ。
それが勇者として、最善の行動だから。




