第36話 リーインカーネーション
バンデ港を出て兵士数人が用意してあったベヘルに乗り込んだ。
俺とフレデリカはウォレスタとリノシア、二人の使いと同じベヘルに乗り込む。
何かあった時に大事な大事な使いを守らなければならないからな。
バンデ港まで一緒に乗っていた若者……たしかアキトという人は既に別の仕事のためにこの場にいない。
目的地は同じなんだから、一緒に来てもよかったと思うのだが、そう簡単にはいかないらしい。
融通が利かないのはどの世界でも同じなんだろう。
「クロム様、どうかしたんですか?」
フレデリカが俺を心配するように話かけてくる。
考え事をしていたのがバレていたようだ。
「いや、なんでもない。
少し気になったことがあっただけだ」
「そう……ですか。
何かありましたら、何でも私にお申し付けください」
「ありがとう、フレデリカ。
一緒に仕事をする仲間なんだから、もっと気安く話をしてくれていいだぞ?」
「いえ、そんな!
クロム様に無礼な口は聞けません……」
勇者という立場になってから、こういうことが増えた。
以前は友のように話しかけてくれた人達も、今は態度が全然違う。
喧嘩をしていた奴も手のひらを返したように俺に頭を下げる始末。
どこの人間も権力の奴隷なのかもしれないな。
「フレデリカ、フュネイトまではどれくらいで到着するんだ?」
「はい、大体半日ほどで着くと思われます。
野営の心配はないかと」
「そうか。
じゃあ、徒歩だとどれくらいだ?」
「恐らく、最短でも三日でしょう。
森を進む必要がありますし、それ以上の可能性が高いと思います」
「なるほどな……ありがとう」
そうなればアキトの到着まで俺たちがフュネイトへ滞在しているか怪しいな。
交渉の進行度合いにもよるが、下手をすればすれ違いなんてこともあるかもしれない。
「……クロム様、もしかしてアキトのことを?」
「あぁ。
不思議かもしれないが、アキトからは俺と同じ匂いがするんだ」
「クロム様と……同じ?」
「そうだ。
フレデリカ、彼の出身はどこだ?」
「いえ、詳しくは……
多分、アリアなら知ってると思います」
「わかった。
じゃあ帰った時にでも聞いてみよう」
アキト=カゼミヤ。
もしかすれば俺と同じ種類の人間かもしれない。
あくまで可能性だが、どうにもあの佇まいが、どうしても過去の俺を彷彿とさせるのだ。
「……クロム様、彼をどういう風に思いますか?
その、同じような匂いがする以外で」
「アキトを?」
フレデリカの質問に俺は少しだけ驚いた。
彼女は俺の知る限り、あまり他人を気にしない人である。
八方美人というのだろうか。
特定の人間と仲良くすることを嫌うというわけでは、勿論ない。
現に、アリアやガーティスとは仲がいいからな。
それでも、親しい人間を作ろうとはしないのは確かだろう。
そんな彼女が、アキトのことを考えている。
「彼は、騎士として未熟です。
騎士としての在り方もクロム様や他の騎士とは違います。
それが、私にはわからなくて……」
「騎士としての在り方か……
確かに、彼は見た感じ騎士らしくはない。
忠義や誇りではない何かが彼を動かしているんだろう」
「私はクロム様と初めてお会いした時、その姿に感動しました。
騎士の誇りと強さを兼ね備えたクロム様に、騎士としての在り方を学んだのです。
でも、彼はそうじゃない……」
「……俺から学んでくれたことは嬉しく思う。
でも、それが全てではない。
彼もまた同じだ」
俺は確かに、強さと誇りを持っているかもしれない。
だが、失ったものも沢山ある。
フレデリカは俺から騎士としての在り方を学んだと言ってくれた。
しかし、それはあくまで騎士としての俺、勇者としての俺でしかない。
本当の俺を見て、彼女は何を学んでくれるだろうか?
学ぶところなんて、あるのだろうか?
不安というものが常に俺の背後にいる。
あの時からずっと。
「……ありがとうございます、クロム様。
おかげで少し楽になりました」
「そう、か。
何かあったらまた言ってくれ。
相談ならいつでも乗るから」
「流石ですね、クロム様。
こうやって私だけでなく、アキトのことも考えてくれるなんて」
「……いや、当然のことだ。
なんせ俺は勇者だからな」
そう言って笑うと、フレデリカもつられるように微笑んだ。
フュネイトに到着するまで、まだ少し時間がある。
その間も俺は勇者であり続けなければならない。
やれやれ、本当に困ったもんだ、勇者っていうのは。




