第35話 絶対確実に100%成功する作戦(自称)
自らを『全て』という露出狂中二病全開少女との出会いから数時間後。
ひたすらに薪係を続けていたら、いつの間にか夜が明けていた。
鳥の鳴き声が森にさえ渡り、朝を知らせる。
「あぁ……もう朝か……」
しばらくしたらエルナとフードの女性を起こして、出発しなければならない。
朝飯は適当に持ってきた保存食でも食べることにして、先を急がなければ。
魔族がいつフュネイトに攻め込むかわからないからな……
とりあえず、飯の準備だけでもしておこう。
しばらくすると、エルナが起床した。
眠そうな顔をしているせいか、普段よりも目つきが悪くない。
というより、なんというか……丸い?
「あ、ああ。
おはよう、エルナ」
「……ん」
あれ、なんでだろう。
ちょっと可愛いぞ。
あの言い方はキツいし態度も冷たいエルナが可愛くみえる。
「えっと、あの。
飯……保存食だけど、落ち着いたら食べてくれ」
「……んん」
まだこいつ寝てるんじゃないかというくらいに返事がふにゃふにゃしているが、まぁ大丈夫だろう。
ぼーっとしながらひたすら保存食であるサモックを食べている。
もしゃもしゃとひたすら。
なんだか動物が飯を食べている様子を観察している気分だ。
そう思いながらもちゃんとフードの女性を起こすことも忘れないのが俺という人間だ。
俺はフレデリカの件があったため、フードの女性に気安く触れないように声をかけて起こすことにする。
「お、おーい。
朝ですよー……」
「…………」
「そろそろ起きてくれー……」
「…………」
あ、だめだ。
ぜんぜん起きないぞこの人。
疲れてたからなのか?
気を失っていた時間は眠っているという領域に入るのかわからないのでなんともいえない。
ただ単にこの人が朝に弱いだけかもしれないが。
「し、仕方ない……」
俺は昨日の夜に使った松明もどきの先端でフードの女性を突っつくことにした。
勿論、火をつけない方でだ。
軽く腕の辺りを二回つつくと、フードの女性は「んー……」と声を出しながら寝返りを打った。
起きるわけではない。
「ちょ、ちょっとー……
起きてくれー!
頼むー!」
今度は五回ほどつついてみたが、やはり寝返りを打つだけで起きる気配は一切ない。
「……こりゃあ出発には少し時間がかかりそうだな」
俺は彼女を起こすのを一度諦めて、朝食を食べることにした。
これを食べてから、エルナと協力して起こそう。
俺がある程度朝に強い人間でよかったと思う。
朝食を食べてから十数分後。
先ほどまではナマケモノレベルで動きが遅かったエルナは、完全に覚醒したようだ。
いつの間にか革の鎧とレイピアを装備し、準備万端という様子。
フードの女性も気合いで起こしたので一応出発できる状態ではある。
「ほら、早くいくわよ」
「お前、さっきまで超眠そうだったじゃん」
「さっきはさっき。
ほら、行くわよ」
地図が読めないエルナを先頭に進むのはダメな気がする。
俺の作戦が成功する条件の一つとして、まずは魔族を見つけなければならない。
フードの女性に聞いた話だと魔族は海底洞窟を通ってきたようなので。そこからルートを予測する。
「よし、とりあえず北西に向かうぞ。
海底洞窟からフュネイトへ向かうから、このルートを通るはず。
森を抜けることはないだろうから、慎重に進もう」
進軍する魔族に出くわす可能性もある以上、慎重に歩みを進めなければならない。
俺の作戦は、進軍する魔族に見つからないのが前提にある。
もし見つかってしまったら作戦の成功は厳しくなるだろう。
魔物を生み出している魔族本人を見つけだすのが第一の目的だ。
「で、アキトの作戦って何なのよ。
説明くらいしてくれてもいいでしょ?」
「……まぁ、簡単だ。
魔族を見つけてドンパチ賑やかにする。
それでフュネイトの半魔族を気づかせるんだよ」
「……ねぇ、馬鹿なの?」
エルナが呆れたような顔をしている。
それもそうだろう。
自分で言ってても馬鹿みたいな作戦だなぁと思う。
しかし、これはあくまでフェイク。
ここで本当の作戦をバラしてしまうと、エルナが作戦を降りる可能性もあるからな。
「本当はエルナの魔法を感知させるのが一番なんだ。
エルナの魔法で半魔族に気づかせることは可能か?」
「無理ね。
あたし程度の魔法だったら、どっかの半魔族が喧嘩してるとしか思われないわ。
もっと強い魔力の増幅じゃないと駄目」
「……ですよね」
知っていたが、少しの希望を持っていた俺にとっては非常に残念な知らせだ。
これで本当にあの作戦をやらなければいけないじゃないか。
足取りも自然と重くなるってもんだよ。
移動を初めてから二時間ほどが経った。
途中までは会話の少しもあった俺たち一行に、今は会話などない。
ただただひたすらに歩くだけ。
ずっと森を歩いているので景色も変わらないし非常に暇である。
だが、その暇な時間ももう少しで終わり。
植物の種類が変わり始めたので、恐らくだが海岸が近い。
海底洞窟の近くまで来ている証拠だろう。
「……ずっと気になってたんだけど。
あなた名前は?」
エルナがフードの女性に向けて言った。
俺も気になっていたが、聞かなかったこと。
普通は会った時にでも聞くべきだったのだが、なんだかんだ有耶無耶になってしまっていた。
「そうだ、俺も気になる。
よかったら名前を教えてくれないか?」
「……」
フードの女性は俯向いて何やら悩んでいる様子だ。
言うべきか、言うまいか。
その辺りだろう。
「……リッシェです。
それが、私の名前です」
言葉を渋っていたフードの女性は、自らを『リッシェ』と名乗った。
偽名か本名かわからないが、今はとりあえずそれでいい。
「リッシェね、覚えておくわ。
名前を教えてくれたのはありがたいんだけど、その話を盛り上げている時間はないみたいよ?」
エルナが指差す先には、人型の何かが見える。
よく見ればそれは魔族のようで、三人が立って話をしているようだ。
一人は大男で、3mはあるのではないかと思うほどだ。
さらにその横に女性の魔族。
黒いローブに青色の肌、杖のような物を握っている。
おそらく奴が魔物を生み出す術者だろう。
それに向かい合うように一人、トカゲ頭の魔族がいた。
パッと見はワニそのもので、ここから見える動きが一番大きい。
話をしている時に身振り手振りがついてしまうタイプだな、アレ。
「術者は一人だけみたいね。
今日の夜に奇襲でもしかけるのかしら。
早めに仕掛けないと、雑魚が増えて面倒よ?」
横目で俺を見るエルナ。
大丈夫大丈夫、作戦はちゃんと成功させる。
「わかった。
エルナ、女とワニを頼む。
俺はあのデカブツを叩く
リッシェさんは隠れててくれ」
「正気?
普通あたしがデカイの担当だと思うんだけど」
「いや、大丈夫。
俺よりもエルナの仕事の方が重要だからな、頼むぞ」
エルナに視線を送ると、一瞬だけ目線を逸らしたがしばらくして戻してくれた。
そして、頷く。
「よし、じゃあ。
作戦開始だ」




