第32話 フードの女性
船に乗って数日。
俺たちを乗せた船は、フュネイトのある大陸へと到着した。
バンデ港へ船を停め、ここからは徒歩で行く。
半魔族は警戒心が強いため、国の近くにある港へ直接船を停めることはできない。
言うなれば、ここからフュネイトへ辿り着く過程こそ大切と言える。
もしかしたら見張られているかもしれないし。
「ここからは約束通り別行動ね。
アキトさん、フュネイトで無事会えることを祈ってるわ」
「アキト、またフュネイトで。
その時は一緒に飯でも食べよう」
「はい、ありがとうございます。
フレデリカさんも勇者様も、お気をつけて」
去り行く二人を見送り、見えなくなるまで待つ。
やがて二人の影はバンデ港の人混みに消えていった。
「……もう大丈夫だぞ」
俺の合図と共にエルナが積荷の影から現れる。
よくバレなかったなという勢いで隠れ続けていた。
忍者のセンスがありそうだ。
「あたしたちもあの二人と一緒に行ったほうがいいわよ。
効率悪いわ」
「んなこと言ったって上が言うんだから仕方ないだろ。
裏切りとか情報漏れが怖いんじゃないのか?」
「情報漏れは既にしてるでしょ。
裏切りって言ってもアキトに何ができるの?」
「……俺に言うなよ」
「まぁいいわ。
地図、持ってるんでしょ?
早く行くわよ」
鞄から地図を取り出し、場所を確認する。
異世界語は仕事で使うのである程度覚えてきた。
しかし、まだ完璧というわけではないのでエルナのガイドに任せて進んで行くことにする。
明らかに森の中を進む道があったりするのだが、気にしたら駄目だな。
きっと道とかまだ整備してないんだろう、うん。
それから四時間ほどが経った。
俺とエルナは森の中を彷徨っている。
「完全に迷った」
「完全に迷ったわね」
地図通りに進んでいるはずだ。
しかし、どうにもおかしい。
いつになっても道らしき道が現れない。
どんどん森の深い方に進んでいる気がするし、どういうこった。
「おいエルナ。
本当にこっちでいいのか」
「合ってるはずよ。
だってバンデ港の向きから考えて、どう考えてもこっちよ」
「……エルナ、地図の向き逆だぞ」
「……」
あぁ……そういうタイプか。
エルナ、地図が読めないタイプだ。
北=上だと思ってる人だ。
てか途中まで地図の向き合ってたじゃん。
どうしてそうなった。
えっと、つまり、俺たちは全く関係ない方向に向かっていたのか?
「エルナ、地図を戻したらどうなる」
「……もう少しで海の沿岸部に出るわ」
「何処へ行くんだ俺らは」
「とにかく、ここから巻き返すわ。
次はこっちよ」
そう言ってエルナは進んでいく。
正直怖いので、次に間違ったら俺が地図を持つしかない。
食料や水を持っていなかったら、もう既に俺が持っているだろうな。
「……ねぇ、あれは何かしら」
前を進んでいたエルナが突然立ち止まった。
指差す先には、赤い布のようなものが落ちている。
森の中にあるものとしては、随分と浮いているぞ。
近づいて見ないとわからないな……
恐る恐る近づいていくと、それはただの布ではなかった。
というより、布だけではなかった。
「……人か」
赤い布はフードで、それを被った女性が倒れていたのだ。
年齢は俺と同じくらいだろうか。
脈はあるし、死んでいるわけではない。
「衰弱か?
なんでこんなところに……」
「あっちに休めそうな洞窟があるわ。
動物の住処ではないみたいだし、そこで休ませたらどう?」
「……そうするか」
俺はフードの女性を抱え、エルナの見つけた洞窟へ急ぐ。
洞窟は深く先が見えないほどであったが、奥に行きすぎるのは危ない。
入口が見える付近で休ませよう。
俺はフードの女性を洞窟の床に寝かしつけた。
しかしこのままでは夜になると寒くて凍えてしまう。
「薪を探すぞ。
エルナ、手伝ってくれ」
「……仕方ないわね。
今回は特別よ」
珍しく俺の意見を聞いてくれたエルナと一緒に薪を探す。
幸い晴れていたので、薪に適した木材は簡単に見つかった。
今日は多分、あの洞窟で野宿するだろうから多めに拾っておこう。
「……そろそろいいでしょ。
あり過ぎでも逆に邪魔よ」
「……そうだな、戻ろう。
もしかしたら目を覚ましているかもしれないし」
そして俺たちは洞窟へ戻った。
フードの女性はまだ目を覚ましていなかったが、仕方あるまい。
目を覚ますかどうかもわからないのだから。
しかし、なぜあの森で倒れていたのだろう。
もしも遭難していたのなら、衰弱の兆候がみられるはずなのだが、彼女にはそれがない。
……単なる疲労なのか?
彼女に対する謎は深まっていくが、今は目を覚ますまで何もできない。
俺たちは火を起こし、彼女が目覚めるのを待つ。
その間の俺とエルナの会話は、何というか、妙に気を使うものだったのを俺は忘れない。




