第30話 なんでどうしてそうなった?
勇者様の帰還から数時間後。
ようやく人が引いてきたウォレスタ王都で、俺はフュネイトの情報を入手することに成功した。
フュネイトは島国で、鬱蒼とした森の中に国がある。
ガイドがいないと迷ってしまうくらいに広い森で、凶暴な動物も多く生息するそうだ。
海底トンネル的な洞窟があり海中を通って上陸することも可能。
だが、その付近にはクラーコフという怪物が潜んでおり、上陸は難しいとされている。
「まぁこれは、普通に船で上陸するのが無難だな」
支援所に戻り作戦を立てる。
なにせフュネイトに着いたら、乗員と別行動しなければならない。
バレないように着いていくのもアリだが、バレた時のリスクが大きいだろう。
特に何をされるというわけではないだろうが、強制送還とかになれば困る。
ガイドを雇うのが普通だ。
しかし、お金を節約したいのも事実。
「仕方ない。
フュネイトに行ったことがある商人から地図を買おう。
ガイドを雇うより安いだろ」
思い立ったらすぐ行動。
支援所は商業区にあるため、買い物をしやすいのが利点だ。
俺はすぐにフュネイトへ行ったことのある商人と接触。
フュネイトまでの地図を少し割高ではあるものの入手することに成功したのであった。
出発は数日後。
おそらく三日から五日くらいだろう。
臨時便の情報が入ってくるまでわからないが、準備は怠らないようにしなければ。
食料と水、ある程度の資金は必須だ。
火をおこすための道具も勿論必要。
準備している段階では、ちょっとしたキャンプに行くような感覚になる。
だが、これは命がけのキャンプである。
紅魔晶石の扱いを誤れば、普通に俺は死ぬ。
依頼者である男に聞いたが、あの魔晶石は特殊だ。
紅の魔晶石は、普通の魔晶石と同じように使用できるが周りへの影響も大きい。
普通なら魔晶石を割った時点で本人にのみ魔力が逆流する。
しかし紅魔晶石は本人に逆流し、さらにある程度の範囲に魔力を流す。
周りに人間がいる状態で割れれば、俺以外の人間にまで被害が生まれる。
今になってフレデリカの言っていた危険さが身に染みてくる……
支援所に戻り荷物を整理していると、扉を叩く音がした。
客かな……?
いやでも、今日は営業日ではない。
来てもらったお客さんには悪いが後日にしてもらおう。
そう思って扉を開けると、目の前にはアリアがいた。
鍵を掛けていたので開けて入れなかったらしい。
「アリアさん!
どうしたんですか?」
「いや、アキトがフュネイトへ行くと聞いてな。
少し話をしようと思って来たのだ」
「わかりました。
あの机でしましょう」
俺は片づけてあった机と椅子を並べる。
アリアと向かい合うように座ると、本題に入った。
「話……っていうのは?」
「あぁ、実はな。
フレデリカもフュネイトへ行くのだ」
「あ、そうなんですか?
フュネイトで仕事するのってフレデリカさんなんですね」
「いや、もう一人いる。
今日帰還した勇者、クロム・レオンハートも同行する」
あの勇者様が直々に仕事をするのか……
そうすると、フュネイトでの仕事はかなり重要なものなんだろう。
「な、なるほど……
でも、それと俺で何の関係があるんですか?」
「関係とはまた違うな……
これは半ば、頼みのようなものだ」
「頼み……?」
「……アキト。
クロム・レオンハートと接触してほしい」
「……え?」
思わず素の声が出てしまった。
俺とあの『勇者様』が接触する……?
この場合、肌と肌で接することではないだろう。
おそらく、会話するとかそういう感じの接触なんだろうけど……
「え、マジですか……?
それはどうして……」
「クロムは確かに勇者としての実力がある。
しかし、決定的に足りないものがあるんだ」
「は、はい」
「アキトに足りないものは、クロムが持っている。
そして、クロムに足りないものをアキトが持っているはずだ」
俺に足りないものを勇者が持っている。
それはわかる。
実力とか優しさとか、そんなものだろう。
しかし、勇者に足りないものを俺が持っているというのは信じがたい。
「いや、でも、普通に考えて俺と勇者様が接触できる機会なんてありますかね?」
「フュネイトへ行く船の中なら、可能だろう。
これは頼みではあるが、強制ではない。
無理ならそれは仕方のないことだ」
「わ、わかりました……
じゃあ、がんばってみます」
俺が勇者に足りないものを持っているというのは信じられない。
しかし、もし本当に持っているのだとしたらそれが何なのか気になる。
勇者に接触してみなければそれが何であるかわからないのだから、やってみる価値はありそうだ。
アリアも強制ではないと言っているし、チャレンジはしてみよう。
「ありがとう。
感謝するよ」
アリアは俺の手を握り、感謝の意を示した。
突然のことに驚くが、それをアリアにバレないようにする。
これは急に手を握られたから驚いただけで、女性に手を握られたからドキッとしたとかそういうのではない。
決して。
そう。
決してだ。
「話はこれだけだ。
すまないな、邪魔をしてしまって」
「いえいえ、大丈夫です。
アリアさんに会えたのでむしろよかったです」
「そうか、そう言ってくれるとありがたいな。
出発の日は船を見送る予定だから、またそのときに会おう」
そう残してアリアは軽く手を振って帰っていった。
俺もアリアに手を振っていたが、扉が閉まるのと同時にそれを止める。
アリアに握られていた右手を改めて握り直し、気合いを入れ直すと、再び荷物の整理を始める。
勇者と接触できるのか、わからない。
けれど、きっと何か大切なものを掴める気がすると、俺は思うのだ。




