第29話 勇者の帰還
俺の予想通り魔晶石処分の申請は受理された。
紅い魔晶石と書けば申請が通らない可能性もあるので、謎の魔晶石と称して申請を出したのがよかったのだろう。
……まぁ、バレたらやばいと思うが。
今回はちょうどよく数日後にフュネイトへ向かう船の臨時便が出る。
国が要請したものでどうやら重要な任についているようなのだが、フュネイト到着からは別行動を条件に俺も乗れることになった。
これで移動手段も手に入れたし、後はフュネイトの情報をもう少し入手しておきたいところ。
半魔族が建国したという情報しかないからな。
そう思い宿舎から街へ出ると、妙に街が騒がしい。
普段の活気を倍にしたような……そんなレベルだ。
というか、城もなんだか騒々しいし一体どうしたんだろうか。
お祭りでもあるのか?
街へ降りると騒がしさはさらに増す。
大通りに人が押し寄せており、あるものを一目見ようという感じだ。
見る限り女性が多いように見えるが……
とにかく、近くにいる適当な女性に聞いてみるのが早いな。
「あの…この騒ぎは何なんですかね?」
「え!?
あなた知らないの!?
勇者様が帰ってきたのよ!」
「勇者様……?」
「……あなたどこの人?
勇者様を知らないなんて、この国じゃありえないわよ」
信じられないという顔をして女性は走り去って行った。
勇者様……この世界にはたしか魔王が存在したはず。
もしかするとその勇者様っていうのは、魔王を倒すために王様から命を受けた戦士なのではないだろうか。
城が騒がしかったのも帰ってくる勇者様を迎え入れるため。
うん、納得がいくな。
てか、これでも一応俺も騎士。
誰かが教えてくれてもいいものだが……
まぁ細かいことはいいか。
人々に勇者と呼ばれる存在ならば、俺も一目見ておくのがスジだろう。
……俺もこの世界に来た目的は勇者に近いものがあるしな。
人の波をかき分け、勇者様とやらがいるであろう大通りを目指す。
ギリギリ通りが見えるかどうかという地点まで来れたので、背伸びをしてみる。
すると、国民に手を振る人間を何とか見ることが出来た。
赤を基調とした鎧に、黒い模様がアクセントになっている鎧。
腰に差す剣も同じように赤く彩られており、金色の装飾が施されている。
アリアを彷彿とさせる銀色の髪の毛に、赤い目。
顔立ちは鋭くキリッとしているが、どこか優しさを醸し出してる。
なるほど、これは確かに勇者様だ。
オーラというのだろうか。
それが普通の騎士とはまったく違うのだ。
笑顔で国民に手を振る姿も、様になっている。
慣れているんだろうな、こういうことに。
俺とは無縁な人だろうなぁ。
でも、なんだろうこの感覚。
勇者様というには申し分のないオーラはある。
しかし、それしかないのだ。
本来あるべきはずの、人間的なオーラがないような気がする。
悪く言うなら、人間を模して作られたロボットのような……
エルナも似たような感じがするけど。
「……エルナよりは、人間っぽいか?」
まぁ、絡むこともないし、いいか。
勇者様を拝むことが出来た俺は、本来の目的を果たすためにこの通りを離脱する。
先ほどよりも人の数が増えていたので、戻るのには結構苦労した。
うーん……これは勇者様が城に戻るまで情報入手は難しいだろうな。
城の書庫を借りるのもアリだが、この忙しさだと後回しにされそうだ。
「仕方ない、民間区の見回りでもして時間潰すか」
俺は民間区へ向かい、そこで時間を潰すことにした。
そうだ、一度支援所に戻って鍋を取ってこよう。
届けることができるかもしれないしな。
久しぶりにウォレスタに戻ってきた。
竜鳴峡谷での長期調査を終えてようやく帰ってこれた。
だが、すぐにまた新しい仕事がある。
フュネイトへ同盟交渉をしに行く大臣の護衛だ。
勇者である俺の存在も交渉材料の一つだろう。
全く、都合のいい部分で俺を使うんだな。
「クロム様ー!!」
「クロム様こっち向いてー!」
俺の名を呼ぶ声がする。
ウォレスタの国民が、勇者である俺を一目見ようと大通りに集結しているのだ。
やれやれ、一体どこから情報を仕入れたんだろうか。
あまり目立ちたくないんだけどな。
城の者が酒場で酔った勢いに任せて言ったに違いない。
こうしてみんなに慕われるのも悪くない。
しかし、彼女たちが見ているのは勇者である俺だ。
本当の、俺ではない。
勇者としての任を任された時、俺は嬉しかった。
当たり前だ。
国のために戦う騎士として、最高の仕事だから。
しかし、その仕事は本当の俺を心の奥底に封じ込めるということでもあった。
あの時の俺は、まだそれに気づけていなかった。
自分を偽ってまで勇者になった俺は、何を成すことが出来た?
魔王も倒すことが出来ず、愛する人も救うことが出来なかった。
魔王に挑み、手傷を負わせた程度。
それでも他人は俺を崇める。
勇者様と呼び、誰も本当の俺を見てくれない。
「ミスト……」
俺の愛した女性はもうこの世に存在しない。
俺の力が足りなかったから、魔王に破れた。
そんな俺が、勇者などと呼ばれるのは間違っている。
でも……
俺から勇者という仮面を取ったら、一体何が残るのだろう。
答えを考えるだけ、虚しいだけだ。




