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第26話 無能力者、フレデリカの以外な一面を知る

 俺が国騎支援所で働くことになって、約一ヶ月が経った。

最初は何をしていけばいいかわからなくて戸惑っていたが、最近はそうでもない。

こんな俺でも一応国の騎士なので、支援を欲しがる人は多いのだ。

……まぁ、大体は小さなことばかりだが。


 騎士になることに猛反発していたニックは、上手いこと俺が追いやられて嬉しいようだ。

ちょくちょく顔を出しては嫌味なり何なりを言ってくる。

暇なのか、アイツは。


 仕事の合間を縫ってアリアさんも来てくれるし、結構職場としては良い環境だろう。

一緒に仕事をすることになったエルナの大馬鹿者は、しばらく顔を出していないけどな。

ある程度手伝う宣言は嘘なのか、おい。

まぁいい、とりあえずは今日も仕事だ。


 俺は認識票を首にかけると、騎士の標準装備である鉄の鎧を着る。

これを着ていると、普段の行動すべてが筋トレのようになるので俺は好きだ。

なんとなく引き締まった感じになるし。

スーツを着る感覚に似ているのだろうか。

まぁなんでもいいや。


 今日の仕事は、民間区の見回りと鍋の修理。

あとはお昼に訪問予定の客が一人いるな。

午前中のうちに見回りと鍋の修理を終わらせてしまおう。


 支援所の外に出ようとすると、突然扉が開かれる。

扉に目をやると、そこには見慣れた顔の女性が立っていた。

金色の髪に青の瞳。

青銀の鎧を身に纏い、腰には標準的な剣を差している。

そしてなにより、あの特徴的なポニーテルは……間違いない。


「やぁ、久しぶり」


「フ、フレデリカさん!?

 どうしてウォレスタに!?」


「ちょっと用事がね。

 ついでに、アキトさんの仕事の様子を見ておこうと思って。

 用事は昨日のうちに終わったから、今日は暇なのよね」


 本当に驚いた。

まさかフレデリカが訪ねてくるとは。

話を聞く限り昨日からウォレスタに居たようだ。

空いた時間に俺のところに来てくれるなんて……思いもよらなかった。


「な、なるほど……

 いやぁ、ありがたいです。

 まさか来てくれるなんて……」


「そんな大袈裟なことじゃないよ。

 これから仕事?」


「はい。

 今日は民間区の見回りと鍋の修理、あとはお昼から来客ですね」


「な、鍋の修理って専門の人がやるんじゃないの……?」


 明らかに「え、それお前がやるの?」みたいな目をしている、

まぁわかる。

俺も最初にこの依頼がきた時にそんな風に思ったもん。


「本当は専門の人がやるのがいいんですけどね……

 お金もかかりますし、ある程度直せそうなものなら引き受けます。

 今回はそこまで大掛かりなものではないので」


 「ふーん」と少し不満気なフレデリカ。

まぁ、どんな仕事してるのか見に来たら鍋の修理はちょっとな。

危険な仕事は大体上級騎士に回されるので仕方がない。


「とりあえずわかったわ。

 じゃあ民間区の見回り、私も行くよ。

 アキトさんの仕事ぶりを見させてもらうから」


「りょ、了解です……」


 これは緊張するぞ。

なんか、ヘマできないって感じが増した。

普段の十倍くらいはヘマできないぞこれ。


 緊張で汗をかきながらも、俺は民間区へと向かった。

後ろからフレデリカも付いて来る。

商業区から大通りを通って民間区へ。

近道もあるのだが、中央広場の復興の様子も確かめなければならない。

ウォレスタに魔物が襲来したあの事件で、壊れてしまった部分もあるからな。


「大分直ってますね。

 これならもうしばらくで完全に修復できそうです」


「突然湧いて出たって聞いたよ。

 アリアが不気味だって言ってた」


「ガーティスさんも不思議がってました。

 なんか、変ですよね」


「本当にね」


 魔物出現の原因が俺ではないことを祈りたい。

もし本当に俺が原因なら、どうしようもないぞ。

人里離れた森で隠居生活でもするしか……


 そう考えていたら、いつの間にかフレデリカがいない。

一瞬目を離した隙にどこかへ消えた。


「あれ、フレデリカさんが消えた。

 何処に行ったんだろ……」


 大通りに近いので、金髪を頼りに探すのも難しい。

首を伸ばして辺りを見回すと、それらしい人がある店の前にいることに気づいた。

あれは……鍛冶屋か。

しかも防具専門の鍛冶屋。

ようするに防具屋である。

アリアに聞いた話だと良品を提供してくれるいい店だとか。


 俺は小走りでその店の前へと向かう。

近くに寄ってみれば、やはり店の前に立っていた人間はフレデリカであった。

どうやら展示されている鎧が気になった様子である。


「ちょっと、フレデリカさん。

 急に消えないでくださいよ」


「……」


「あの、フレデリカさん、聞いてます?」


 声をかけても反応がないので、肩を軽く叩いてみる。

するとフレデリカは、物凄い勢いでこちらに振り向いた。

その表情は穏やかなものではなく、怒りに満ちているような……

というか、手が剣に添えられていて殺気MAXという感じですよ?


 後ろに立っていた人間が俺だとわかると、フレデリカは若干表情を緩めた。

そして剣から手を離し、俺に向き直る。


「……ごめんなさい、驚かせちゃったね。

 私あんまり、その、人に触れられるのが得意じゃなくて……」


「あ、いや、俺もすいません……

 今度から、気をつけます……」


 あぁ……なんかやっちまった感じがする。

声をかけても気づいてもらえなかったんだから、仕方ないじゃん。

まぁでも、触れられるの嫌というならしょうがない。

よくわからん男になら尚更だ。

人体実験の件がトラウマになっていてもおかしくないしな……

とりあえず、この空気を何とかしよう。


「あの、何を見てたんですか?」


 俺が尋ねると、先程までの表情とはうって変わり、笑顔がこれでもかというくらいに眩しく光った。

フレデリカは、よくぞ言ってくれたと言わんばかりに展示物へと指をさす。


「これ見てよ!

 あのレギル鋼を鋼板にしてるのよ、この鎧!

 レギル鋼は加工が難しいものなのにそれをここまで仕上げてるのよ!?」


「えっ!?

 あ、はぁ……」


「しかも、それだけじゃない。

 ラメラーアーマーの技術を活かして、関節部分が守られる。

 細かい鋼線の輪が連結してるから、柔軟性にも優れてるのよこれは。

 多分、誰かのために作られた専用のものだけど、これを飾っていれば技術と精度がよく伝わるわ」


「な、なるほど……」


「隣の盾も凄いのよ?

 結構大きめだけど、センターグリップが固定されないから初心者でも扱える。

 質感から見ると、多分普通の鋼じゃないわ。

 魔法で何かしらの加護がついてるのかもしれない」


 まさかこの人、防具大好き人間か。

彼女が身に着けている青銀の鎧の輝き。

きっと毎日これでもかと磨いているのだろう。

太陽光を反射してやたらと眩しいくらいだし。

触れられるのが嫌だと言っていたから、防具に拘るのは当然のことか。


 だが、そのおかげで変な空気はなくなった。

一時はどうなるかと思ったが、フレデリカさんが防具大好き人間で助かったというもの。

最新の玩具を見る子供のように目を輝かせている。


「ねぇ、ちょっと聞いてる?

 騎士にとって鎧はかなり重要なものなのよ?」


「そ、それは勿論。

 聞いています、全部」


「ならいいんだけど……

 で、こっちの溝が入ってる鎧は普通の鎧よりも軽いんだけど、それでいて強度を――」


 ……いつになったら話が終わるんだろう。

俺、見回り行かなきゃいけないのに。


 フレデリカの防具トークが終わるのはもっと先であることを、この時の俺が知る由もない。

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