第24話 頼むから、そんな顔をしないでくれ
結局、新人騎士交流は予定を大幅に変更し、七日で終了となった。
魔物が現れたり、フレデリカが暴走したりとイレギュラーな出来事が多々あったからだ。
統括者であるフレデリカは昨日の昼に目を覚ましたのだが、まだ本調子ではない。
今回ばかりは仕方ないだろう。
そんなわけで、俺たちは今日でリノシアを去る。
急な決定で少しドタバタしたが、問題はない。
荷物をまとめて宿舎の外に出ようとすると、途中でフレデリカに会った。
どこか気まずいようで、少し目が泳いでる。
「あ、フレデリカさん。
もう動いて大丈夫なんですか?
「え、えぇ。
激しい運動はまだ出来ないけど、日常生活をする分に支障はないかな」
「それはよかったです。
また会えることを楽しみにしてます」
「……ごめんね、私が倒れちゃったからこんなことになって。
本当ならまだまだ時間はあったはずなんだけど……」
「仕方ないですって。
元気なときに、今度はウォレスタに来てください」
話にあまり触れないように会話したはず。
それでもやはり、フレデリカの中で釈然としない何かがあるようだ。
長話をするとドジを踏みそうなので、ここは早々に行くことにしよう。
「じゃあ、これで」
「ちょっと待って。
その腕の傷、どうしたの?」
ヤバイ。
痛いところを突かれた。
どうにか誤魔化さなくては。
「え、あぁ。
これは、あの、魔物にやられまして……」
「……なるほどね。
そういうことか」
フレデリカは何かに気づいたようである。
その目は今まで抱いてた疑問が解決したというような、そんな目だ。
「いいわよ、気を使わなくて。
魔力暴走……ね。
これで納得がいった……」
「……」
「昨日からみんなの態度がおかしかったのはそういうことね。
みんなして気を使って……
逆にそれが辛いわよ」
「あの、なんかすいません。
別にそういうつもりではなかったんですけど……」
フレデリカに気づかれてしまった。
できれば隠し通しておきたかったが、本人に当てられるとどうしようもない。
言い逃れもしにくい状態だし、素直に言うしかないだろう。
「大丈夫、それはわかってるよ。
多分、アリアとガーティスが何とかしてくれたんでしょ?
迷惑かけてごめんね」
「二人に借りができちゃったな……」と呟くフレデリカ。
どうやら、俺がフレデリカを止めたことはバレていないようだ。
まぁそうだろう。
あの状態で新人騎士がどうにかできるわけがない。
フレデリカ本人も暴走時の記憶はないが、なんとなく察しくらいはつくのだろう。
「大丈夫です。
迷惑なんて、何も……」
フレデリカに目を合わせることができない。
相手の表情を見るのが、ちょっとだけ今は怖いのだ。
……去り際に少しくらいなら見ても大丈夫かな。
「今度ウォレスタに行くから、その時はよろしくね」
「はい、了解です。
それじゃ、そろそろ行きます。
お世話になりました」
見送るフレデリカを背に、外へ向かう。
その時一瞬だけ見たフレデリカの表情が、俺の心に棘を刺した。
悲しいというか、なんというか、こう、やるせない……そんな感じ。
色々な感情が混じった、複雑な表情。
俺にはどうすることも出来ない。
励ますことも、話を聞くことも。
どうにかしたいと思っても、俺がやることではないんだよきっと。
相手のことを何もわからないのに、どうしろっていうんだ。
だから、そんな顔をされても……困る。
とりあえずアリアにこのことを知らせよう。
そうすれば、俺の心は少しだけ軽くなるはずだから。
アリアにフレデリカの件を報告したあと、宿舎の外で解散式が行われた。
期間が短かったため、リノシアの兵士たちとはあまり会話することができなかったな。
最後にフレデリカと少しでも会話できたのは良かった。
けれど、あんな顔されてしまうと、なんだか心が辛い。
解散式の後、すぐにベヘル車に乗り込みリノシアを出ることになった。
リノシアに着いたのがつい昨日のことのように思い出せる。
「もう少しリノシアにいたかったなぁ……」
「まぁ今回ばかりは仕方ねえ。
なんせ魔物が出ちまったんだからな」
思わず呟くと、ガーティスが話に乗ってくれた。
誰に向けた言葉でもなかったから一瞬驚いて変な顔になったかもしれない。
でも帰路でずっと無言は嫌だから、これはこれでよかった。
「そう、ですね。
まさか魔物が出るなんて思いもしなかったです」
「……魔物があれだけの数出てくることは滅多にねえ。
あんな風に突然湧いてでることもな。
おかしいぜ、なんか」
やはり滅多にないことなのか、アレは。
だとすれば、原因は俺にある可能性が高い。
これはある程度予想していたことだ。
魔物の発生に、もしかすれば俺が関わっている。
ウォレスタの時も今回のリノシアの時も、魔物出現の時に俺がその場にいた。
異世界からやってきた異物を排除するために、世界が俺を拒絶しているのかもしれない。
魔物が現れなければ、フレデリカが暴走することもなかった。
ウォレスタが襲われることもなかった。
考えすぎかもしれないが、どうしても不安は残ってしまう。
滅多にないことが、こうも自分の目の前で起こると疑心暗鬼にもなる。
「もっとおかしなこと、起きなければいいですね……」
「あぁ」とガーティスは頷き、俺を見た。
俺は、どうしてもガーティスと目を合わせることができない。
本当に俺が騎士の称号を貰ってよかったのだろうか。
エルナと一緒に仕事をしてもいいのだろうか。
答えは何処にあるんだろう。
考えている間にも、時間は過ぎていく。
生きた証を残せぬままに。




