第22話 願いを込めた一撃
フレデリカの暴走を止める。
方法は……わからない。
魔力器官が暴走しているのなら、その魔力器官の機能を停止させればいいのか?
今のフレデリカは、魔法を辺りにばら撒く狂戦士。
まずはその魔法を止めなければ。
「……でも、どうするんだコレ。
この状態だと手も足もでないぞ」
フレデリカの周囲には手投げ斧が飛び回っている。
近づこうものなら、敵と判断されて八つ裂きにされてしまうだろう。
だが、動かなければどうにもならない。
フレデリカが自我を失い敵を求め彷徨い歩いてる今、この場に安全な場所など存在しないのだ。
「……こうなれば、フレデリカを止める方法は一つしかないだろう」
アリアが覚悟を決めたような目で俺を見た。
何をしようとしているか、大体想像はつく。
フレデリカの息の根を、止める。
判断が一秒でも遅れれば、味方が全滅する恐れもある。
歴戦の勇士が揃っているなら状況打破は可能だろうが、今この場にいるのは新人兵士がほとんど。
アリアとガーティスだけで暴走したフレデリカを無力化するには、この方法しかない。
……だが、本当にそうだろうか。
本当にこのままフレデリカを殺してしまってもいいのだろうか。
なぜだ。
俺はそれがどうしても、嫌だ。
「アキト、この場は下がれ。
私とガーティスでフレデリカを……」
「……いえ、アリアさん。
まだそれは早いです」
「……どういうつもりだ?」
俺は兜を脱ぎ、フレデリカの方へそれを投げた。
射程距離に入ると手投げ斧が一斉に兜ヘ向かい、次々と斬撃を与える。
兜が地面に落ちるころには、元の姿がわからないほどに滅茶苦茶にされていた。
「……やっぱり」
「どういうことだ? アキト」
「フレデリカさんを守る手投げ斧。
あれは、射程内に入ったものを迎撃します。
別に人間や魔物が近寄らなくても、今の状態なら勝手に迎撃してくれるでしょう」
「……囮か」
「そういうことです。
アリアさん、出来る限り剣か何かを高く投げてください。
でも、フレデリカさんの射程距離内でお願いします。
それと同時に、俺が行きます」
「わかった、くれぐれも無茶をしないでくれ。
もし失敗すればアキト……お前は……」
「多分死にます。
俺がダメだったら、その時はフレデリカさんを頼みます」
そう言って俺はすぐにでも走れる体勢をとる。
アリアも覚悟を決めたようで、いつも自分が使っている大剣ではなく、普通の剣を投げる体勢に入った。
「……いくぞ、アキト」
「いつでも、大丈夫です!」
瞬間、アリアが剣を投げた。
俺も全力でその場から駆け出す。
フレデリカはまだ走りだした俺に気づいていない、チャンスだ。
大きく弧を描くように剣はフレデリカへ向かっていき、手投げ斧はそれに反応したように見えた。
空中で金属と金属が激しくぶつかるような音がする。
だが、俺は目の前のフレデリカしか見ない、見てはいけない。
一瞬でも恐怖を感じれば、減速して間に合わなくなる。
「アキト!
そろそろヤバイぞ!」
十本の手投げ斧はアリアの投げた剣を完全に破壊した。
俺の後方くらいに壊れた剣の破片がバラバラと落ちてくる。
ってことは……
「今俺に向かってきてるってことだよなぁ!?」
思わず振り返ってしまった。
手投げ斧は空中から急降下し、真っ直ぐ俺に向かって飛んでくる。
その距離はどんどん近づいていき、あの二秒もすれば死ぬだろうというところまで迫る。
どうにでもなれ。
俺は再びフレデリカの方を向き、思い切り前方へ跳ぶ。
体育の授業で習った、飛び込み前転というやつだ。
なんとかそれが功を奏し、手投げ斧はすべて地面へと叩きつけられる。
だが、またすぐに俺を標的に飛んで来るだろう。
フレデリカへは、まだ遠い。
「……もう、駄目か……っ!」
諦めかけたその時、手投げ斧が俺ではなく別の方向へと飛んでいく。
なぜだ、一体どうして?
俺が標的になるはずなのに。
答えは空中にあった。
誰かが、フレデリカの射程距離内に何かを放り投げていた。
よく見ればそれは兜。
俺よりも僅かだがフレデリカに近い兜を、手投げ斧は最も脅威になる敵だと判断したのだ。
「……誰かわかんないけど、ありがてえ!」
体勢を整え、駆ける。
フレデリカがようやく接近する俺に気がついた。
今さら気づいても遅い、ようやく手投げ斧が俺に狙いを定めた頃だ。
今の早さなら、間に合う。
剣を逆手に構え、集中する。
フレデリカはハルバードを構え、近接戦闘の体勢という様子だ。
大丈夫だ、あとはもう身体が勝手に動いてくれる。
「うぉぉぉおおらぁぁぁあっっ!!!!」
「アアァァア"ア"ア"ア"ア"ァ"ア"ア"ア"!!」
フレデリカがハルバードで薙ぎ払う。
俺はそれを何とか腕で受け止めた。
だが、あまりの衝撃に身体が揺らぐ。
この程度、痛くも痒くもねえ。
篭手を装備していなければ、俺の腕が切断されていたけどな!
剣の柄を思い切りフレデリカの鎧の隙間にねじ込む。
感覚から、それが護服を破り素肌に到達したことがわかった。
同時に、背中へ強い衝撃が与えられる。
手投げ斧が三本、背中に突き刺さった。
鎧のおかげで致命傷には至らないが、痣くらいにはなるだろう。
残りの七本は俺へ向かう途中で地面に落ちたみたいだが。
よかった、なんとかうまくいった。
フレデリカの身体から力が抜ける。
どうやら気絶しているようだ。
俺もそれを確認した瞬間、全身の力が抜けて地面へ座り込む。
なんたってフレデリカも俺も、そしてアリアも。
そして、ここにいる全員が助かったのだ。
少しくらい休んでも許してくれるだろう。




