閑話3 続・女性に半裸を見られるのは慣れていません
前回のお話:アリアに、半裸を見られた。
アリアとエルナが去ってから大体一時間。
俺はもうどうにもならない衝動と戦っていた。
アリアは普段は男勝りというか、凛々しいというか、そんな感じがする人である。
それなのにお酒を飲むとぐでーっとしたり、男性の裸を見ると照れたり……
なるほど……これが……これがギャップなのか。
やはりエルナとは大違いだ。
あんな喋るごとに一回毒を吐くような人間とは違う。
しかしまぁ、助けられたのは事実である。
裏を返せば、エルナもそうとうツンデレということに……?
「いや、ないない」
自分にツッコミを入れたあと、ベッドに横になる。
横になって目を瞑ると、外から流れてるくる環境音が妙に心地いいことに気づいた。
修行尽くしだった時はわからなかったが、昼間ってこんな感じなんだな。
鳥の囀りとか、風の音とか、メイドの話し声とか。
感覚でいうと、小学校の時に学校を休んだ時、昼間寝床で聞く回りの音。
アレによく似ている。
懐かしいな、現実世界。
もう滅びてしまったらしいけど。
「って、こんなこと考えなくていいや。
アリアさんの誤解を解こう」
ベッドから起き上がり、部屋を出る。
近くにメイドがいたのでアリアの居所を聞いてみると、訓練場の方へ向かったそうだ。
なら訓練場にいるだろう。
慣れた足取りで訓練場へ向かうと、訓練場の裏に人影が見えた。
あれは……エルナとアリアだ。
二人で一体何を話しているのだろう。
盗み聞きは褒められたことではないが、好奇心には勝てない。
少しだけ聞いてみよう。
「エルナ、アキトの部屋で何をしていた。
な、なんでアキトは、その、下着姿だったんだ?」
「特になにも。
脱がしたから下着だっただけ」
「ぬがっ……!
な、なんで脱がせる必要があった!?」
「別に。
気になっただけだけど」
「き、気になったって……
いや、それは、気になるかもしれないが騎士として……」
……なんだこれ。
なんだか知らないけどものすごく話がややこしいことになっている。
整理すると、傷の様子が気になったので脱がせて確かめましたってことなんだけど……
流石にエルナの主語が足りなすぎる。
「騎士として?
寧ろ、騎士として当然の行動なんじゃない?」
「と、当然だと!?
これはかなりの問題だぞ!」
「診ただけだし。
触ってないから特に問題はないでしょ」
「み、見たあああああああ!?
お前、それはもう触ったも同然だぞ!」
アカンアカン、ヤバイぞこれ。
このままでは俺とエルナがヤバイ。
当のエルナは頭の上にはてなマークでも浮かべそうな表情をしている。
それに対してアリアの顔は以上に赤い。
湯気でも出ているんじゃないか?
まぁいい、とにかく止めなければ。
「あ、あのー。
アリアさん……?」
「あ、アキト!
お前、エルナと一体何を……!」
「あ、いや、誤解ですって!
アレには理由が……」
「ご、誤解……?」
「そう、誤解です!
実はですね――」
「なんだ、そういうことだったのか」
理由を話すとすんなりとアリアは納得してくれた。
エルナの主語不足がこんなにも恐ろしい状況を作りだすとは思ってもみなかった。
もし誤解を解きに来なければ、もっとヤバイ状態になっていたかもしれない。
「いや、私もまさかとは思った。
エルナに限ってそれはないはずだと」
「すごく取り乱してたけど」
「……あれは、演技だ」
そうなると、役者になれそうなレベルの演技だ。
ハイウッドも余裕だろう。
「でも誤解が解けてよかったです。
一時はどうなるかと思いましたけど……」
「私も誤解したままでなくてよかったよ」
これで一安心。
そう思った時、エルナの口から信じられない言葉が口にされた。
「あ、言うの忘れてた」
「……今度はなんだよ」
「あなた……えーと、アキトだったっけ。
そう、あなたにはちゃんと責任とってもらうから」
「……責任?」
「そ。
私がこうなったの、あなたのせいなんだから」
こいつは一体何を言っているんだ。
俺は責任を負うようなことは一切していないはずなんだが。
「あの日から調子が狂ってるのよ。
原因はあなた意外考えられないの」
「いや、まて、一体、何が何だか」
「……アキト?
まだ……何かあるのか?」
ヤバイ。
何かがヤバイ。
アリアの目が笑っているけど、笑っていない。
エルナが言う責任の話もよくわからないし、一緒にいると話がややこしくなる。
……ここは、勇気の逃走だ。
「あ、後でちゃんと話します!!」
そして全力ダッシュ。
後方から「待て!」とか聞こえたような気がするが気にしてはいけない。
結局その日、なんとか頭を下げるようなかたちでアリアの誤解は解けた。
エルナの言っている意味がわからなかったから信じてもらうのに時間はかかってしまったが。
……でも実際、エルナは俺に何の責任を負ってもらうつもりなんだ?
真相は、エルナだけが知っている。