表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/83

プロローグ

燃え盛る塔の頂上に、俺は立っている。

全速力で塔を登ってきたので息は荒いが、休む暇などない。

この塔はやがて崩れ落ちる。

それまでに目の前にいる敵を、俺は打ち倒さなければならないのだ。


「……やはり貴方でしたか。

 来ると思っていましたよ。

 しかし、私を止めようとしても無駄です。

 貴方では時間稼ぎにもならない」


 目の前に立つ敵、人型の魔族が俺に気づき口を開く。

やけにくぐもった声で男であるのか、女であるのかもわからない

人型……。

しかし、その顔は異形でオレンジ色の七つ目が不気味に光る。


 魔族は自らの背ほどもある太刀を抜き、ゆっくりと構えた。

俺もそれに合わせて剣を抜くが、勝てる見込みはほぼないだろう。

なぜなら俺は一般兵と同じ……いや、それ以下の戦闘スキルしか持ち合わせていないからだ。


 勉強だって運動だって、すべて人並みかそれよりも下だ。

学校で目立つタイプでもなかったし、平凡に日常を営んでいたモブキャラクターの一人。

それでも、そんな俺でも戦わねばならぬ理由がある。


「勝てないかどうか、やってみないとわからない」


「……私なりの忠告だったのですが、ね」


 魔族が駆ける。

それを認識した時にはすでに太刀の切っ先が寸前に迫っていた。

反射的に身体が動き、剣の刃を合わせるようにしてそれを防ぐ。

が、次々と放たれる斬撃を受け止めきることが出来ず、やがて剣は薙ぎ払われ、体勢を崩してしまった。


 ぐらりと身体が揺らぐ。

攻撃のチャンスを、相手が逃すわけがない。


 腹に膝蹴りを叩き込まれ、そのままもう片方の脚が俺を蹴り飛ばした。

床を転がり、塔の壁へと背を叩きつけられる。

背中に強い痛みが走った。

だが、気にしている暇はない。


 顔を上げ、すぐに身体を動かす。

それが功を奏した。


 一瞬だけでも身体を動かしたおかげで、敵の攻撃位置がズレる。

本来ならその切っ先は心臓を捉えたであろうが、今それは俺の左肩へと突き刺さっていた。

身体を動かしていなければ、既に死んでいただろう。


「ぐっ……ぅがッ……!

 あぁああああ!!!」


 痛みに悶えそうになる身体を無理やり動かし、立ち上がる。

敵である魔族はその行動に驚き、太刀を退いた。


「……随分と無茶な戦い方をしますね。

 それではいつか、死にますよ」


「うるせえよ……。

 それが俺を殺そうとしてる奴のセリフか?

 大体、俺のアダ名は……『死にたがり』だ。

 ぴったりだろうが……!」


 なおも退かずに剣を構える。

片方の肩が使えない状況なので、片手だけで。


「……貴方、名前は?」


「……アキト・カゼミヤ。

 そうだ……アキトだ……」


「そうですか。

 ならばアキト。

 貴方はなぜ、戦うのです」


 魔族はいかにも理解できないといった様子だ。

力量差が圧倒的にあるのにも関わらず戦いを挑む理由。

それを魔族は知りたいのだろう。


「……戦う、理由?

 そんなもん、決まってるだろ……」


 仲間のためだとか、世界のためだとか、そんなことじゃない。

自分の器で測りきれないほど大きなものを抱えるつもりは毛頭ないのだ。

答えを見つけたあの日から、それだけは変わらずにここにいるのだから。


「俺はな、自分自身のために戦ってるんだよ……

 愛だとか、正義だとか、そんなもの知らねえ。

 自分の欲求のために戦う……文句あるかよ……!」


 他人が傷つくのが嫌だから戦う。

世界が滅びるの嫌だから戦う。

愛する者を守りたいと思うから戦う。

そんなもの、すべて自分自身のためじゃないか。


 俺は、他人が傷ついている様子を見るのが嫌だ。

破滅に向かう世界が嫌だ。

愛する者が、目の前で死ぬのが嫌だ。

だからこうしてこの場に立っているのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バナー画像
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ