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イツクたちを乗せた馬車は、隣国アードンを目指し、山道を走っていた。
「すまないね、イツク君。せっかく見つけた仕事だったのに…。」
「いえ、もうそのことは気にしないで下さい。モーリさんたちのお役に立てて、僕たち嬉しいですから。」
イツクは、モーリににっこりほほえんだ。
手綱をとっているレッド。
モーリ。
イツクと弟イトシ、妹メグム。
そして、彼らが奪還に成功した、サント・ベール牢獄の囚われの身となっていた少女。
まだこのときイツクは、自分が大きな陰謀に巻き込まれていることなど、知るよしも無かった。
遡ること1週間前。イツクはモーリとレッドの秘密を知り、協力することを誓った。あれ以来、彼らの話の中心は、「少女をどうやってサント・ベール牢獄から連れ出すか」。
サント・ベール牢獄には、毎月1回政府の役人がやって来る。囚人たちに食事をあげ、監視するためだ。つまり、ほぼ警備は手薄だった。
「夜になると潮が引いて、歩いて渡れるようになります。」
イツクが説明した。
「じゃあ、夜決行した方がいいな。」
「町の人の話によると、先週政府の奴が来たらしい。それを信じれば、今月はもう見張りが来ないということになる。」
「でも、門に鍵が掛かっていて入れないんです。」
「そのことなら心配いらない。もう手はうってある。」
モーリはそう言って、イツクに片目を瞑ってみせた。