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「何で僕なんでしょうか…?」
イツクはおずおずと話した。
「お前たちがあの裁縫道具を持っているからだ。」
レッドが初めて口を開いた。
「私たちの国の者が、無実の罪でサント・ベール牢獄に投獄されているんだ。」
モーリは続けた。
「何度もこの国の政府に無実だと訴えた。だが、奴らは全く聞き入れてくれなかった。その上、彼女は死んだと、手紙と一緒に骨まで送りつけてきた。でも、彼女が死んだなんてどうしても信じられなくてね。私たちは、彼女が本当に死んだのか調べる為にやって来たんだ。」
「お前、あの牢獄に行ったことあるんだろう?」
レッドがにらんだ目をして訊いてきたので、イツクはとっさに強く否定した。
「嘘をつくな。あれは彼女の物だ。お前の妹があれを落としたとき、あれに彼女の家の紋章が記されているのを俺ははっきり見た!」
「大声を出すな。」
モーリが注意した。
「本当のことを話して欲しい、イツク君。あれは確かに彼女の物だ。君はサント・ベール牢獄に行ったのか?」
イツクは、言おうか言うまいか迷った。あの後、あの男たちに「このことは誰にも言うな。」と念を押されたのだ。男たちは政府の手先だったのだと、今やっと分かった。
モーリたちに本当のことを話せば、自分は国家反逆罪で逮捕されてしまうのではないだろうか。
「大丈夫だ。もし彼女を殺してしまっていたとしても、私たちは君を責めたりしない。」
「僕は殺してません!彼女は生きてます!」
アッ。しまった。
「やっぱりお前行ったのか!」
レッドが吠えた。
「彼女は生きているのか?」
モーリが穏やかな口調で言った。
どうしよう。うっかり口を滑らせてしまった。どうしよう。もし捕まったら…。すると、モーリに肩を揺さぶられた。
「心配するな。君は私たちが守る。もちろん君の兄弟もね。どういう成り行きでそうなったかは大体察しがつくからな。お願いだ。彼女を救えるのは君しかいないんだ。」
手の重みが、イツクの痩せた華奢な肩に伝わっていく。頼りがいのあるその重みが、幼い頃亡くした父を思い起こさせた。
「…彼女は生きてます。」
とうとう、イツクは、うつむきながら言った。すると、頭をぽんぽんとなでられた。顔を上げると、モーリが笑っていた。
「ありがとう。本当のことを話してくれて。」
金が無く困っていたこと、牢獄へ行けと命令されたこと、別人の骨を持ち帰ったこと…。イツクは、今までのことをモーリに話した。モーリは、イツクの発すひとつひとつの言葉を聞き漏らすまいと、熱心に頷きながら聞いてくれた。
あの女を殺さないで良かったのだと、イツクはやっと肩の荷が下りた気持ちだった。