5
次の日出勤すると、客のはげ男が呼んでいるとオーナーのダンさんに教えられた。
「やあ、朝からすまないね。」
イツクが2人の部屋に行くと、はげ男が明るく出迎えてくれた。にきび男は新聞を読んでいる。
「何の御用でしょう?」
はげ男に椅子をすすめられ、腰掛けながら言った。
「実は、君の妹さんのことなんだが…。」
「メグムですか?」
「ああ。この前、転んだとき鞄を落としただろ?そのとき気になるものがあって…。」
頭に「あの」裁縫セットが浮かんだ。
「気になるものというのはその…、裁縫道具のことなんだが…、えっと、妹さんがどこであの裁縫道具を手に入れたか知ってる?」
はげ男が言いにくそうに言った。この客人は、なぜ「あの」裁縫セットが気になるのだろう。この客人は何を知っているのだろうか。
「いえ、分かりません。」
イツクは首を振りながら答えた。
「本当に?」
はげ男が顔を近付けた。じっとイツクを見つめる。
「そうか…。」
そう言うと、はげ男は、小さな紙をイツクに渡した。何か文字が書かれているが、イツクは字が読めなかったので、何と書いてあるか分からなかった。
「あの、これ…。」
「それは名刺だ。」
「メイシ?」
「自分の名前と肩書きが書かれているものだ。」
「メイシ」という言葉を口の中でつぶやいてみた。
「私の名前はモーリ・テン、アードンの警察だ。あいつはレッド・ロッコ。彼も警察だ。」
「レッド」と呼ばれたにきび男は、まだ新聞を読み続けている。
「私たちは極秘の任務でこの国にやって来た。よって、私たちのことが世間にばれたらまずい。私たちが警察だということは他の人に絶対言わないでくれるか?」
「何で僕にそんなこと…。」
「君に協力して欲しい、イツク君。私たちの任務を遂行するには君が必要なんだ。」