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宿に、2人組の男の客が来た。オーナーのダンさんが、どこから来たのかと尋ねた。アードンです、とはげ頭の方の男が言った。その間、もう1人の男は、おでこのにきびをずっといじっていた。
他に客はいない。
今日のイツクの仕事は掃除と客の朝飯作り。朝御飯を食べ終えると、2人組はどこかへ出かけて行った。
男たちはいつもそうだった。朝食を食べるとどこかへ出かけて行く。夕食どきになると戻って来る。
今日男たちが頼んだ夕食のメニューは、はげ男が若鶏の酒煮、にきび男はいんげんの塩漬けとパン。
イツクは、ちょうど料理を客に出し終えたところだった。
「兄ちゃん。」
扉の鐘の音と共に妹メグムが入って来た。
「どうした、仕事は?」
「今日は早く終わったけ、ラッキーやった。ほら見て。」
メグムは袋をイツクに差し出した。今仕事中なんやけど…とぶつぶつ言いながらも、イツクは袋を受け取った。
「何これ?」
「ミツさんがりんごくれたけ。うちらの分1個取ったから残りはお店で使って。」
「すまんな。ありがとう。」
イツクはメグムに飲み物をすすめた。
「じゃあお水。」
そう言いながら、メグムは椅子に腰掛けようとした。が、昼間の雨で床が濡れていたせいだ、床を滑って尻もちをついてしまった。鞄も落とし、中身が散乱している。
「何してるんや。」
「ごめん。」
客のはげ男も、拾うのを手伝った。にきび男は黙ってその様子を見ている。はげ男は、「あの」裁縫セットを拾い、メグムに手渡した。
「すんません。」
メグムはばつが悪そうに笑った。