はじまりのものがたり
初めて書きます
至らないことしかないかもしれませんが暖かい目で
みていただけるとうれしいです
感想、ご意見などもいただけるとうれしいです
俺は、世界70億人の中でも自分のおなかの上に幼なじみが飛び乗ってきて起こされる人間はそう多くないと思う。
しかし、俺は実際そうやって起こされている。
とてつもない鈍痛がおなかから押し寄せてきて12時間ほど前に食べた夕食があがってくる感覚があったが、それをなんとか飲み込み苦しいうめき声をあげ、おなかの上の幼なじみに必死に退いてくれるように抗議するがそんなものがこいつに通用する訳もなく、この憎き幼なじみは人のおなかの上だということを忘れたかのように漫画本など読み始めていた。
俺は、なんとかこの拷問から抜け出すと俺は必死の形相で幼なじみを睨みつけた。しかし俺の睨みを遥かに超える鋭い目つきで睨み返され俺は首を縮めるしかなかった。
「起きるの遅い、ノロマ。」
睨み返した上に出てきた言葉はかわいらしい女の子の口から出るとは思えない暴言だった。
「早く着替えてよね。毎日迎えにくる私の身にもなってくれる?」
「いや、俺のおなかの上で漫画本読んでたから身動きとれなかったし・・・」
「は?それは何?私の体重が思いってことでしょうか?」
「・・・いや、そんなことはありません。私が悪かったです。」
俺が、精一杯勇気を振り絞った反撃も鋭い眼光と答えの決まった質問で無に帰してしまった。
こんな悪態をつきまくりそれを当たり前のように思っている幼なじみ、夢谷 カノは見た目だけならとてもかわいい。しかし、神様は二物を与えないとはこういうことだ。性格はあり得ないほど最悪。しかもそれを自分で自覚しないからなおさらたちが悪い。そしてもう一つ、カノには他の人と違うことがある。
それは妖精の孫であるということ。
しかし、いつもは普通の人間のようだがあることがあると妖精の姿になってしまう。
俺は、このおなかの復讐とばかりに、カノが好きな韓流アイドルのポスターを見せる。それと目が合った瞬間、カノの姿が消えてしまった。
俺の足下にカノはいる。まるで豚の小さなガラス細工のような姿で抗議のつもりなのか足を蹴っているが、俺にとっては蹴られているのかわからないぐらいかすかな感覚でしかない。
そう、この妖精の孫であるカノは心臓の鼓動が高まると妖精の姿(小さなピンクのガラス細工のような)になってしまうらしい。
俺は、足下で抗議を続けているカノを踏まないように移動して学校に行く準備をしていたら、
「いっつ!」
言葉にならない叫びをあげつつ後頭部を押さえて着かけていた制服のままその場に倒れ込んだ。
カノは満面の笑みで広辞苑を抱えていた。
そう。カノがこれまた復讐をしてきたのだ。
そんなことをしていたせいで完全に学校は遅刻ぎりぎりの時間になってしまい、俺は鈍痛が続く頭で学校まで走ることを余儀なくされてしまった。
ちなみに俺は徒歩での通学だが、カノは自転車だ。
うちの学校は学校からの距離が2キロの生徒は徒歩での通学となっているが、俺の家はちょうどその2キロの所にありカノの家はすぐ近くなのに自転車での通学ができるということになってしまっている。
学校の門についたときには朝自習の始まる5分前の予鈴がなったところだった。
急いで教室に入ると担任の中年太りのハゲがホームルームを始めていた。
俺は後ろの入り口から教室に入り、自分の席に座る。隣には高校になって知り合った学年一の美少女、マリがとても感じのいい笑顔を向けてくる。
「おはよう。」
まず声が爽やかだ。この前入学してきたばかりだというのにこの壁を作らない感じが彼女のいいところだ。
「おはよう。」
俺には、あがっている息を押し殺しながら答えるのがやっとだった。
「下川祐也、遅れてきて挨拶なしか?」
彼女の顔に見とれていた俺に担任からの低い声が届いた。
「すいません、おはようございます。」
首を縮め、俺は頭の中身まで筋肉でできていそうだがなぜか数学教師である担任に挨拶をした。
教室中からの生暖かい笑いを受け俺はさらに首を縮めた。
ちなみにカノは隣のクラスなのでここにはいないが、カノなら大丈夫だろう。自転車で俺を遥か後方に置き去りにし、一人学校に向かったのだろうから余裕で時間に間に合い今頃澄ました顔でホームルームを受けていることだろう。
ホームルームを終え、担任が教室を去っていくとさっきまでの静けさが嘘のようにざわめきだした。
まだ、入学して日が浅いので先生がいる前ではおとなしい生徒をみんな演じているが、それは偽りだ。本当はみんな新しく高校生になって入学してできた友達と話したいのだろう。それが如実に現れた瞬間だった。
「祐也、今日もまた嫁に起こしてもらったのに遅刻か?」
にやにやしながら俺の前の席に座っていた高本一樹は振り返ってきた。すれ違ったら思わず振り返ってしまうくらいかっこいいのに性格だけは難点だ。しゃべらなければいいという典型のタイプだ。
「違う。まず前提として嫁じゃない。」
「またまた恥ずかしがって。この学校の生徒の常識だよ。学年でも五本の指に入る美女が学年でも下から五本の指に入るくらい冴えない男子と付き合っているという男子に取っては奇跡に近いことなんだよ。」
「そうなんだ。下川君って夢谷カノさんと付き合ってたんだ。」
隣から聞こえた天然すぎる言葉に俺は一樹を叩こうとしていた手を止めた。
浦田マリのあまりにも高校進学したばかりの青少年には直視できないほどの美形の顔に見とれてしまいそうになっていた俺は、ここで否定しないとずっと勘違いされたまま三年間過ごすことになると思い自分の心を立て直した。
「違うから、カノはあくまでも幼なじみで、勝手にコイツらがいってるだけの根も葉もない嘘だから。」
もちろんコイツというのは一樹のことなのだが、その一樹は一生懸命笑いをこらえている。目の前のマリは少し驚いているように見えた。
そう。俺は全力で否定しすぎたのだ。あまりにもいたすぎる人になってしまったのを隠すように俺は話題を変えることにした。
「そういえば、一時間目の数学の宿題してないんだ。ノート見せてくれよ。」
一樹は性格は問題を抱えすぎているやつだが至って学業においては真面目なやつで、学年でもトップのほうで争っているいわゆる秀才なんだが、
「してないのか?主席入学とも噂されるくらいの天才が?」
そう。何を隠そう俺は噂だけではなく本当に主席入学をしている。しかも入試の点数が全部満点というから噂になるのもしょうがない。
しかし、俺は真面目に勉強している訳ではなく、問題を見るだけで回答が頭に浮かんでくる本当の天才というものらしく、国の関係者という人が来て知能テストを受けてくださいといわれたが、すべて母親が断ったという過去がある。
だから、一樹が本当に信じられないという顔で見てくるのも仕方がないかもしれないが。
「忘れて寝てしまったんだ。見せてくれよ。」
これは本当のことだ。他の宿題はしていたが数学の宿題は忘れていた。そして担任が数学の担当教諭となると、大変俺に取ってはまずいことになる。
「別にいいけど、今日の放課後カノちゃんと一緒に三人で帰ろうぜ。」
「なんで、カノが入るんだ?」
「いいじゃん。お前ら付き合ってる訳じゃないんだろ?俺、実はタイプなんだ。」
一樹の告白は俺に取っては予想外のことすぎた。まずカノのことをカノちゃんと呼ぶこと自体にも驚きを隠せなかったがそれよりも相手がカノということにもっと驚いた。
見た目だけなら確かにお似合いの二人だが、性格的にはどうかな。と思った瞬間、意外に性格に疑問を隠しきれない二人ならお似合いな二人になるかもと考えがたどり着いた。
そして、もう一つカノが一樹と付き合いだしたら、少なくとも俺は朝から今日の朝のような苦行の中起きることはなくなる。
「わかった。カノには聞いておくよ。」
俺は二人をくっつけることにした。その方が俺のためにもなる。
とりあえず一樹から宿題のノートを借りて、丸写しをして宿題を終わらせたとき、ちょうど授業の始まるチャイムがなった。
宿題を反則的にではあるがすませていたので担任に怒られることもなく無事に一時間目は終わった。
授業が終わってすぐに一樹はにやにやとまた振り返って話しかけてきた。
「早くカノちゃんのところにいって今日の放課後のことを話してこいよ。」