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第九話 「俺はこれっぽちも楽しくない」

 イライラする。グランツに連れられてきたのは広い平原。建物の中にいたと思ったけど、いつの間にか外だった。グランツはどこかに行ってしまった。観客はなしって、本当に誰もいないのか。それってこの戦いを止める存在もないってことだと思うんだけど、そこんとこどうなっているやら。


「おっしゃ。始めようぜ?」


「……」


 あぁ本当にイライラするよこの人は。門番もそうだったけど、グランツの所属するとこって変な奴が結構いたりするのかな。グランツとアイリスさんはふつーだからまだ半々ってとこだけどさ。


「おいおい構えろよ。あ、先手は譲ってやるぜ?」


 真っ白い槍を持っている相手がそう言う。たいそうな自信だよね。この世界のランク付けとかはよくわかんないし、隊長っていうくらいだから強いっていうのは理解できるけど。あぁ、イラつく。


「……なら、遠慮なく」


 もうどうなっても知らない。俺はここに来るまでに一度戦ったウサギさんの時と同様に火の玉を作成する。


「ほぉ」


 その数は百。作れるだけ作ってやった。死んでも知らないからな!


「面白れぇ!」


 作った火の玉をすべて相手へと飛ばす。一つでも当たれば相当な威力の物が百。舐めてかかったことを後悔すればいいんだ。


「がふっ……!?」


 そう思っていた。だが、気づいたら腹に衝撃を受けていた。目の前にはリーベルがいた。何が起こった……?


「おいおい。んな驚いた顔をすんなよ。数はすげぇがあんなもん、避けるのなんて容易だぜ? 真っ直ぐにしか飛んでこねぇんじゃぁよ」


「ぐ……なら、これなら!」


 今度は風。自分を中心に全方向に風の刃を飛ばす。これなら見えないし、避けられないだろう!


「甘いぜ」


 一閃。リーベルは持っていた白い剣で俺の魔法を切り裂いた。


 剣? 待て、さっき持っていたのは槍だったろうが。


「おらおら、どうしたどうした」


「うぐっ」


 だが考えている暇がない。俺の魔法を避ける、斬る。そして俺は蹴られる。


「丈夫な奴だな。身体強化の魔法も使えるのか、楽しいねぇ」


 そんな魔法なんか知るか。だけどそんな魔法があるのなら、前の世界で身体が弱い割に体力があったのも納得できるかもしれないな。んで、魔法の使い過ぎで運動した後は倒れると。あぁ、だから、そんなもん、今考えていたって意味ないってのに。


「これなら武器で攻撃してもなかなか死ななさそうだな。さぁもっと俺を楽しませてくれよ」


「うる……っさい!」


「おぉっと! いいね、やる気は十分じゃないか」


 魔力を無理やり放出してリーベルを少し吹き飛ばす。今度は斬られなかったけど、ダメージはなさそうだからあんまり意味はないな。んでもって今度手に持っているのは……弓! 遠距離攻撃ってか!?


「驚く暇があったらちゃんと避けるなりしろよ?」


 コロコロ武器を替えやがって。どんな手品だよ。手品……? あぁ、それがあんたの魔法ってことか。自分以外が使う魔法なんて初めて見たからわかんなかった。そんな魔法もあるんだ。


 矢が飛んでくる。魔法で防ごうにも貫かれる気がしてならない。だったら。


「これは避けられるか!?」


 跳ぶ。跳ねるとかの意味ではなく、転移魔法だ。ぶっつけ本番だったけど成功したから良しとする。そしてリーベルの真上から、魔法の岩をぶつける。避けられるか、なんて言ったけどおそらく簡単に避けられるだろうなぁ。


「ひゅぅっ! 余裕だが、ホント面白れぇな!」


 リーベルは横に跳んで避けた。俺は風の魔法を使って少し離れた場所に着地する。といってもこいつの速さだとあっという間に埋められる距離なんだろうけど。


 それにしても……やっぱり俺が俺じゃないみたいだ。いつの間に俺はこんなに狂暴になったんだろう。人間を攻撃することに躊躇がなくなっているんだろう。


 だけど、こいつに一泡吹かせなくちゃ気が収まらん! 武器を取り出すか、作り出す魔法か知らないけど、そんな魔法があるのならばきっと俺にもできるのだろう。だけど、武器なんて使えないから意味はない。だったらこうする。さっさと終わらせてしまいたい!



▼▼▼



 想像以上だった。魔法の使い方はかなり荒いが規模は出鱈目で、そんな魔法を使っているくせに魔力の尽きる様子がない。まともにくらえば俺も危険だろうな。


 初級の魔法だがその数が異常のファイアーボール。ほぼ不可視で全方位をカバーして見せたウインドカッター。普通ならこぶしくらいの大きさのハズが人間の三倍くらいありそうなロックショット。どれをとっても異常だ。さらに言えば短い距離とはいえ転移魔法。さぁ次は何を使って俺を楽しませてくれる?


 そう思ったが飛んできたのはファイアーボールが三つだけだった。


「なんだ拍子抜け……!?」


 避けるまでもないと、手にした剣で触れた瞬間、爆発した。規模は大したことなかったがこれは……


「エクスプロージョン? だがあれは範囲を指定して爆発させる魔法だったはず」


 次々飛んでくる触れると爆発するファイアーボールを避ける。後ろでは爆発し続けているからやはり触れれば爆発するのだろう。範囲をファイアーボールに設定しているのか? よくわからんが、大したもんだ。


「だがその程度じゃ俺は倒せねぇぜ!」


 次はハンマーを右手に出現させて攻撃する。剣や槍より致命傷にはならなそうだからな。


 わかっているとは思うが、俺はかなり手加減をしている。いくら身体強化をしていようが首を刎ねれば殺せるし、武器も一つずつしか使ってない。


 ちなみにこの武器は俺が魔法で作り出した武器だ。所謂創造系の魔法だが、俺は武器しか作り出せない。ま、これが俺の強さの一端だがな。


「おいおい舐めんなよ!」


 あろうことかこいつは俺のハンマーに対して右手を出して防御しようとしていた。そんな程度でどうにかなる威力じゃねぇぞ!


「んな、馬鹿な……」


 だが攻撃が命中した瞬間に起こったそれは信じられないことだった。


「せいこーう」


 奴は笑っていた。右手を閉じたり開いたりしながらこっちを見て笑っていた。それはそれは楽しそうに。


「おいおい、どんな魔法を使いやがった?」


 思わずそう聞いてしまう。こいつの右手に触れた瞬間、俺のハンマーは消滅した。


「あんたの魔法の逆のことをしただけど? さて、ここからは俺のターン」


 逆のこと。こいつは創造と逆のことをしたってのか!? 次から次へと魔法が飛んでくる。火が、風が、岩が、氷が、次々と。こいつは複数の魔法を同時に使うこともできるのかよ。


 俺は避ける。というか避けるしかない。さすがに魔法を斬るってのは剣がなければできねぇが、出した瞬間に消されるから使い物にならん。魔力の無駄遣いになっちまう。ってか離れてても消されるとか始末に負えねぇよ!


 このまま戦っていて相手の魔力が切れるのを待つ。現実的じゃねぇな。未だに疲れを見せない相手だ。魔力が尽きる様が想像できない。仕方ねぇ、今回は終わらせるか。


 次々に飛んでくる魔法を避け続けながら隙を伺う。あいつの近くに行けば行くほど、魔法の密度が濃い。普通に近づいてもやられるか? はっ、んなわけがねぇ。このくらい余裕にこなせなきゃSクラス級の化け物隊長なんて呼ばれねぇんだよ!


 あいつが消すのは俺の武器だけだ。他の魔法を使う。身体強化魔法は俺だって使えるんだぜ? 速力強化。感覚強化。で、あいつの後ろに一瞬で移動する。


 転移する暇は与えない。今日は終わりだ。またこいつが強くなったらやり合ってみたいもんだが、これ以上だと殺し合いになりそうなんだよな。ま、それはそれで楽しそうなんだが。


 意識を絶つ。頭へ強力な蹴りを食らわす。さらに魔力も込めた。ま、死にゃせんだろ。


「ふー……」


 よし、気絶した。死んでもいない。いやー楽しかったぜ。


「ホントなら隊に入れたいくらいだが、ここまでやって入ってくれるわけねぇよなぁ」


 まぁいいか。冒険者をやるってならそれでも今後、楽しくなりそうだしな。とりあえずグランツを呼んで、こいつを宿にでも放り込んでもらうか。


「俺はとりあえず、作業に戻るか」


 あー楽しかった。

隊長強ぇ!? 予定より隊長が強くなってしまった。ちなみに本気になれば主人公なんて簡単に殺せます。多分。

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