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第八話 「友達、だぜ」

 意味が分からない。俺はいったい何をやったというのだろうか。答えは簡単だ。門番を脅し、場合によっては殺していたかもしれない。


「それにしてもあの門番、いきなり襲い掛かってきたんですけど捕まえたりできないんですか?」


 俺たちはあのあとすぐに街に入った。まぁあの門番の被害も武器だけで済んでよかったと思うべきなんだろうか。でも本当に自分がわかんなくなってきた。


 魔物とはいえ殺しても何も思わない。人間すら殺しそうになる。まるで自分が自分じゃないような感覚だ。普段の俺と戦闘時の俺(・・・・・)の二人。本当に別人なんじゃないだろうか。でも意識はあるし、記憶もあるしなぁ。


「あぁ。今回襲い掛かってきたのはあいつはかつて恋人を魔法使いに殺されてから、魔法使いを憎んでいるからなんだが……」


 おやま。そりゃ恨んでも仕方ないかもしれないけど、無関係な魔法使い相手に攻撃してくんなよなぁ。


「で、実力のない奴を見下す癖はあるが、あいつの実力は本物でオレたちが所属している隊の中でも隊長、副隊長を除けばベスト5に入る実力者だ」


「あの人そんな強かったのかー」


 ちなみに隊の人数は約五百人らしい。多いのか少ないのか。


「そんなわけだから奴をどうこうしようというのは無理だな。あいつが今まで倒してきた敵だったり、功績だったり考えれば、今回のことは些細なことになる」


「まじかー」


 むぅ。結構やばいやつに喧嘩を売ってしまったかもしれない。まぁどうにかなるよねきっと。


「それで? どうしてあんなことをしたんだ?」


「んー?」


「なんでリョエンに喧嘩を売ったんだって聞いたんだよ」


 リョエンってのはさっきの門番のことかな? なんで、かー。ほとんど無意識の行動でもあったわけだけど、やっぱり。


「グランツさんが馬鹿にされてむかついたから。以上」


「はぁ?」


 グランツさんがこいつ正気かよ、っていう表情でこっちを見てきた。


「だってさー。村の人たちはみんながみんな神様扱いじゃん? でもグランツさんだけは普通に対応してくれてた。うんあれだよあれ……と、友達が馬鹿にされてたら嫌でしょ?」


 やばい。わりかし恥ずかしいことを言っている気がする。グランツさんも何言ってんだこいつみたいな表情してるし! と思ったら笑い出した。


「友達か、いいねぇ! だったらあれだ、さんづけなんかで俺を呼ぶんじゃねぇよ」


「お、おぅ? じゃあグランツで」


「あぁそれでいい」


 なにがツボにはまったのかよくわかんないけど、笑い続けるグランツ。そんなに面白いセリフだったかよー!


「くくく。いやぁお前みたいな奴が友か。今後が楽しみでしかたねぇよ。ま、今はとにかく報告に行くぞ。本部はすぐそこだからな」


「了解ー」


 何が楽しみなのかわかんないー。でもま、嫌われてるとかじゃないわけだしいいやいいや。さてさて、他の兵士さんたちはあの門番みたいな人じゃないといいけど。



▼▼▼



 オレはオトヤを連れてある建物に入る。ま、本部だがな。しっかしこいつは本当に意味の分からん奴だぜ。なんであんなのことをしたのかと聞いてみたら友達だから、だとか。くくく。オレも滅茶苦茶な奴の友人になったもんだぜ。ま、嫌な気はしねぇ。それどころが嬉しく思うがよ。


「オレ達の隊長はリーベルという名の、Sランク相当の兵士だ。この国という括りで見てもトップクラスの実力者だからな、粗相のないようにな」


 あの人の実力は紛れもない本物だ。仮に隊長VSその他の兵士、なんてことをやってみても勝ってしまいそうな気すらする。


「粗相なんてしないさー。大丈夫大丈夫」


 ……なんか心配なんだが、本当に大丈夫なんだろうな? そう思わなくもないが、考えてみればこいつは村人にもだいたい丁寧に話していたし問題はないか。


 と、そんなことを考えているところで隊長の部屋に到着した。軽くノックし声をかける。


「グランツです。例の件の報告参りました」


「あぁ待ってたよ。入ってくれ」


「失礼します」


 オレはオトヤを連れて部屋へと入る。中は隊長一人だった。副隊長は留守か、珍しいな。


「久しぶりだなグランツ。そちらの調子はどうだ?」


「えぇ、お久しぶりですリーベル隊長。こちらは今回の件を除けば平和そのものですよ」


 本当に平和だ。四人もあの村に必要なのかと思うくらいだ。


「そうかそうか。んで? グランベアーはどうだった?」


「報告の通り、存在していました」


「ふむ。それでそっちの少年が魔法で撃破した……でよかったかな?」


「はい。この魔法使いが倒しました」


 隊長と話すのは緊張する。訓練時は厳しいが、結構楽しい人だし、みんなからも人気なんだが……こう、強い奴がいると戦いたがる戦闘狂だったりもする。絶対に今、こいつを見ている目は、楽しそうにしている目だ。なんか嫌な予感が……いや、もはや予感じゃないよな。


「そうか。お前、名前は?」


「オトヤです。一応魔法使いらしいですよ?」


 一応って何だ! いやまぁ確かに魔法使いとしては異常なレベルの魔法を使う奴だし、神様扱いされているけどな……


「そうかそうか。グランベアーを魔法で、ってことは強いんだろ? ちょっと遊ぼうか」


 やっぱそうだよな。オトヤは首を傾げて、遊ぶって何ですか? なんて聞いているが、決まってる。もちろん模擬戦だ。


 オトヤにそのことを伝えるとすごい嫌そうな顔をした。


「嫌です。貴方みたいな強い人と戦って無事に済む自信がありません」


「気にするな。死ななきゃ治してやるよ」


「嫌です。その言葉で殺しかねない雰囲気を感じました」


「もちろんやるからには本気だ。だがSランク相当の実力に触れることができるんだぞ? これは今後のことを考えてもいい経験になる」


「嫌です。別にそんな経験を求めていません」


「お前は今後何をやって生きていくつもりなんだ? 冒険者だろ? 絶対に勝てない相手ってのも経験しておくべきだぞ?」


「嫌です。それって今後に絶望しそうな予感がします」


「そんなことはねぇ。お前は折れないし、将来大物になるぜ?」


「嫌です。俺は慎ましく生きていきたいんです。大物になんかなりたくありません」


「わかったわかった。なら手加減してやるよ。目一杯な」


 隊長が若干イライラしてきていた。しっかしどうしてオトヤはここまで嫌がるんだ? そんな疑問は次のオトヤのセリフでわかった。そして空気が一変した。


「嫌です。……誰かを殺したくはありませんので」


「……へぇ? なにか、お前は俺を殺せるとでも?」


「わかりません。可能性の話です」


 ……こいつは正気か? いや、おそらく正気ではあるんだろうな。異世界からの住人。おそらくこっちの世界の強さの基準がわからないんだろう。オレたちが騒いでいたグランベアーは無意識のうちに殺しているくらいだしな。


「万に一つもありえねぇよ。試してみようぜ?」


「ありえないなんてことはありえませんよ? だから嫌です」


「上等だ……」


 今完全にスイッチが入ったな。


「グランツ。こいつを連れてこい。模擬戦をする。観客はなしだ」


「……了解」


 隊長は足早に立ち去ってしまった。こうなったら連れていくしかないだろうな。まったく隊長も大人げない。ムキになりすぎだ。副隊長がここにいればきっと止めてくれただろうに。


「すまんなオトヤ。本当に悪いが隊長と戦ってくれないか?」


「……グランツが言うなら」


「助かる。だが、お前がいくら出鱈目でもほとんど戦闘経験がない現状じゃどう足掻いても隊長を殺すなんて無理だぞ?」


「……ま、そうなんだろうけどね」


 ……? オトヤは目を伏せ、何かを考えるようにしながら歩き出した。こいつなりになにか思うところがあるということだろうか。


 何にせよ隊長の戦いか。観客はなしと言っていたし、オレもこいつを連れて行ったらどこかで待機かねぇ。

おかしいなぁ。ここで隊長と戦う予定はなかったはずなのに、どうしてこうなったんだろう。

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