第六話 「もう神様でいいですよ……はぁ」
その後の村は大騒ぎだった。いやもうあれだね。俺はバカだね。考えなしの行動がまさか神扱いに繋がるとか。誰が予想できるよ。
俺が雨を降らせた直後に村長が村人たちに説明に行ったが、神様を一目見たいと村人たちは村長宅に集まってきた。村長はあまりみんなの前に出るべきではないとか言っていたけど、俺は気にしないでみんなの前に姿を出した。
「はぁ……」
だけど村のほとんどすべての人が神様神様を崇めてくるのは結構つらいものがあった。こっちの世界では普通ではないとしても、あっちでは普通に生活していたんだから人間扱いしてもらえないのはかなりきついぜー……
「……やはりこのような貧相な食事ではオトヤ様の口には合いませんでしたか?」
「あぁいや、美味しいですよ? ただ今後のことを考えてどうしようかな、と」
今は村長さんのところで夕飯をいただいている。ちなみに俺の希望でグランツさんとアリエルさんも一緒だ。知っている人がいるとちょっと安心するというかなんというか。
ちなみに夕飯は確かに質素だが、ぶっちゃけ森の中でしばらく暮らしていたからかすげぇ美味い。これに文句を言うとかできるわけないぜ。
「あぁそれなんだがよオトヤ。お前には街まで来てもらいたいんだよ」
と、考えて行こうと思ったらグランツさんからそんなことを言われた。
「グランツ殿、言葉遣いには気を付けなければ!」
「おいおい村長。こいつがいいって言ったんだぜ? だったら言うとおりにしてやったほうがいいだろうよ」
ほとんど。これから除かれる数少ない存在がグランツさんだ。一応集まってきた村人には全員に普通の扱いでいいからとは言ったんだけどなぁ。
ちなみに村長さんもアリエルさんもグランツさんの態度が気に入らないらしい。俺は神様扱いより、こっちがいいのに……
「街って、行って何するんです?」
「報告だよ報告。オレたちはこっちに駐在してはいるが、街の所属だからな。グランベアーが現れた件、お前がそれを倒した件、神のような所業を行った件……は別にいいとして、すげぇ魔法使いが現れたってことだけは報告させてもらうぜ」
「待ってください、グランツ。オトヤ様の凄さが知れれば間違いなく王国がちょっかいを出してきますよ。そうなれば面倒ですよ?」
「だが報告しねぇわけにはいかねぇだろうが。場合によっちゃ別の場所にグランベアーや他のAランクの魔物が現れるかもしれねぇ。さらにグランベアーのことを報告すれば間違いなくその後の対応を問われるだろうが。オレたちだけで倒せる相手じゃねぇんだ、こいつも連れてく。じゃなきゃ信じねぇ連中だろうからな」
「それはそうですが……」
また俺を抜きにして話が進んでいるような……このパターン多いね? ほんとに。
「あー……とりあえず街に行くのは了解です。で、俺のことを報告するのも構いません。それでなんですけど、とりあえず俺は魔法使いとして生活していこうと思います。で、村長さんにお願いなんですけど」
「私にできることであればなんなりと!」
うん、ちょっと引くくらいの反応の良さだよ。
「俺は神としてはすごく未熟者です。だからこそこちらに降りてきたんですけど。まぁ修行のようなものですね。なので人間に扮して旅に出たと、村人に伝えてほしいんです」
すごく嫌だけど、もう神として扱ってもらうことにする。はっきり言っても聞かないし、俺があきらめるしかないよね。
「なるほど、さすがにこの村には残ってはくださいませんよね」
「えぇ。神として存在している以上、もっともっと救わないといけない人はいますから。ですが時々こちらには戻ってきますよ。俺が雨を降らせた結果も知りたいですしね」
「それはありがたい! では明日にでも村人に伝えておきましょう!」
「よろしくおねがいしますね」
とりあえずこの村の対応はこんなもんでいいや。あとは街に行ってから考える。魔法使いとして生きるにしても何にも知らないし。
「んじゃ明日か明後日には街に行くぞ? できれば明日がいいところだが」
「明日でもいいですよ。ところで俺とグランツさんと他には誰か一緒に行くんですか?」
「オレたち二人だけだよ。他の奴だとお前を神だ神だと言って、街の奴らにもお前の異常さを知られちまうからな」
なるほど、それは助かる。グランツさんと一緒だとすごい気楽だし。
そのあとは少しゆっくりした後、桶に汲んだ水で身体を拭いて眠りについた。うん、よく眠れそう。
▼▼▼
「不思議な人ですね。オトヤ様は」
「ふん、確かにな。つか神様じゃなかったのかよ」
村中で騒ぎやがって。五月蠅くて仕方なかったぜ。
「いえ、オトヤ様は人間ですね。これから神になろうとしているのか、ただの人のみで神のごとき力をもつ選ばれた存在なのかはわかりませんけれど」
「けっ。だがあいつは今後どうやって生活していく気なんだか。まぁおそらくはギルドに登録して冒険者か?」
「でしょうね。あれだけの魔法使いであればいろんなパーティーから引く手数多でしょうし」
「そうか? たしかにあいつはすげぇ魔法使いだが、あいつの魔法じゃ威力がありすぎて仲間ごと吹き飛ばすだろ」
グランベアーとその周りの惨状を見ればそうとしか思えない。そもそもあいつは魔法の制御ができてんのか? それも含めての修行なのか?
「た、確かに……あれに巻き込まれたらと思うと……」
「まず間違いなく即死だろうな。超ハイレベルの魔法耐性がなければ生きてはいられねぇ」
あいつに対人戦はやらせたくねぇな。それだけで大惨事だ。まぁ威力の低い魔法も使えるんだとは思うが。
「なんにせよこれからだ。一応この村は救われるだろうし、あいつがこの世界で今後どんな生活をしていくかなんてオレらにゃわかんねぇんだから」
「そうですね。また顔を出してくれるとも言っていましたし、ありがたいことです。今度はいつ会えるかわかりませんが、期待してしまいますね」
「オレは明日あいつと一緒に街に行って、その後にお別れか。あいつならあっという間にSランクに到達しそうだな」
「それどころかSSランクになりそうですけどね」
「はっはっは! 人類の最高ランクか! たしかにな、あれだけ出鱈目ならそれも可能か!」
オレたちはあいつの話を肴にし、酒を飲みながら笑い合った。久しぶりに楽しい酒だったぜ。
神様扱いは諦めました。街に行けば知っている人はいないので普通の人間扱いになるだろうか?