第7話 この転校生は厄介だ
お待たせ致しました。
「なあ、彰子。世の中では俺等のとっているこの行為をストーカーと言うのではないか?」
「うるさいわね。なら、隆は帰ってくれて構わないわ。」
「いや、そうもいかないだろ。」
結局この二人が何をしているかというと、バイトに向かう秋子の跡をつけているのであった。表向きは秋子の意見を尊重した二人であったが、やっぱり秋子のことが心配であった。
「で、結局秋子はどこでバイトしているんだろう。」
「しっ、あのビルに入っていくわ。追いかけましょう。」
秋子が入っていたのは、バイト先である初音がやっているメイド喫茶である。しかし、世の中にそのようなものがあると知らない二人、加えて言えば、日頃から実家に本物のメイドがいっぱいいる二人には本当に何のための店かわからず首を傾げるだけであった。
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早い時間から尾行がついていることに気が付いていた秋子はその扱いを悩んでいた。なんといっても、尾行の仕方が余りに素人過ぎた。最初は撒こうかとも思ったが、追跡者があの二人だと撒いたら撒いたで面倒になりそうだったので、そのままにしておいた。メイド喫茶でバイトしていることがバレるのは甚だ、実に甚だ不本意ではあったが、それもいつかはバレるだろうと思っていたのでそこまでのダメージではない。
結局、二人を案内するような形で、秋子はメイド喫茶に着いた。
「あら、秋子ちゃん。今日も可愛いわね。つい、お持ち帰りしたくなっちゃうわ。」
「店長~。何ですかそのおばさん地味た発言は。それにいつも言ってますけど、わたしは可愛いと言われるのは嫌いなんです。お持ち帰りもされたくありません。」
頬をふくらませる秋子に、初音はニヤニヤ顔を止めない。
「いいじゃない。少しくらい。こんなに可愛いんだから。そうだ、新作ケーキが冷蔵庫に入っているから食べていいわよ。」
「店長の守備範囲は女の子だけのくせに!でも、ケーキで騙されてあげます。食べたら着替えてフロアに出ますね。」
「ええ、早めにお願いね。秋子ちゃんがフロアに居ると売上が倍になるんだから。今日もよろしく、秋子君。」
そして、ひとまずバックヤードに入っていく秋子であった。
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結局、全校集会から1週間、八高からの新たな犠牲者はいなかった。しかし、東京にある一高からは三人の被害者を出し、事態は深刻化していると言っても良かった。
他の被害としては、大阪の二高で4人、名古屋の三高で1人となっていた。そんな中、この八高に転校生がきた。
「六高から参りました、二木朱音と申します。どうぞ、よろしくお願い致します。」
黒髪ロングのこれぞまさしく大和撫子といった美女であった。彼女はもともと八高に入学する予定であったが、実家の都合で今日まで福井の六高に通っていた。
「それでは、神埜さん。二木さんの案内よろしくね。」
担任の面倒事に秋子は、内心は別として表情だけは満面の笑みを浮かべた。
「わかりました、先生。初めまして、二木さん。私が神埜秋子です。これから、よろしくね。」
「きゃっ!秋子様!とてもお可愛らしい方ですね。私は二木朱音と申します。これからよろしくお願いいたします。」
秋子が見せているのは普段通りのような笑顔。朱音は、頬を赤く染め、まるで秋子の美貌に見とれているような恥じらい方をしていた。おそらく、この二人に対して、違和感を覚えるものは誰もいないであろう。
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放課後、たまたまバイトのなかった秋子は朱音に校舎の案内をしていた。
「へー。じゃあ、二木さんのお父様ってあの通信機器会社の二木コミュニケーションズ社長の二木秀三郎氏なんだ。」
秋子についてきた彰子が朱音と話していた。校内では彰子のオプションとして秋子有りと噂されている。彰子の居る所に常に秋子がいるからだ。(実際は秋子のいる所にいつも彰子がいるのだが・・・。)
「そ、そんな。それよりも忠恵様のほうがすごいじゃないですか!!あの八家忠恵家のご息女だなんて。いつも父がお世話になっております。」
「いや、忠恵は八家の中でも下っ端だから。あと、私の事は彰子でいいわよ。同級生なんだから様付けも禁止ね。」
「はい、分かりました。よろしくお願いします。彰子ちゃん!」
さすが女の子同士は友だちになるのが早いな~と思いながら秋子はじゃあ、私もと思って発言した。
「じゃ、じゃあ二木さん?私のことも様付けじゃなくて気軽に秋子って呼んでほしいな~、なんて。」
しかし、その発言に対する朱音の態度は強固なものだった。
「駄目です、秋子様!秋子様は秋子様なんです。いいですか、私は本来なら秋子様のことをお姉さまとお呼びしたいくらいに思っているのです。しかし、年齢という壁は私たちの間に高くそびえ立っているのです。さすがの私も同級生の方をお姉さまとはお呼び出来ません。ですので、朱音最大の譲歩をとって秋子様とお呼びすることにしているのです。それに、先程も申し上げましたが、私のことは朱音とお呼び下さい。」
さすがの彰子もこのことには幾分引き気味であった。その後、校舎の案内が済んだ三人は車で迎えに来ている彰子が別れ、秋子と朱音の二人で帰路に着くのであった。彰子は最後までこの二人だけで帰らせるのはまずいのではと悶々としながら考えていた。
今小説の年内の更新はこれで最後です。
連載再開は、一月中旬を見込んでいます。




