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第5話 水着と男の意識と襲撃と

 栗橋は東京から約30分(昔は一時間かかっていたらしい)であり、八高生の買い物は専ら東京に出ることが多い。交通の発達は、都心の発達を大きく助けたが、途中の大宮や浦和といった埼玉主要都市は素通りされる結果となり、衰退の一途をたどっている。逆に、秩父やさきたま古墳群など、都心から近くなったこともありこういう観光地のほうが発展している。


 先の大戦(第三次世界大戦)により、壊滅的な打撃を受けた西日本とは違い、東日本は戦前にも増して世界の中心都市の一つになっている。その中心には、緑溢れる皇居がずっしりと構え、三皇の1人であらせられる天皇陛下がいらっしゃる。

 戦後、世界の秩序を守るのは、合議制の国連ではなく、君主制の方がより迅速にはっきりとした態度を示せるということになった。そこで白羽の矢が立ったのは、世界で唯一皇帝の位にある日本の天皇であった。しかし、単独の存在はやはり警戒心が強かった。そこで、天皇がイギリス連合国王を皇帝に、ローマ法王を教皇(教皇>皇帝ではなく、教皇=皇帝)にそれぞれ承認し、天皇、皇帝、教皇の三者を合わせて、三皇と呼び至高の位につけた。

 三皇は基本的には沈黙を守る存在であったが、一度口を開くと世界のどの元首らも従わなくてはならなかった。幸い戦後三人の連名による詔勅(しょうちょく)どころか単独による詔勅すら未だ出されたことはなかった。


・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・


「う~ん。秋子、そっちのビキニをとってくれない?」


 放課後、東京池袋まで出てきた秋子と彰子はデパートの水着売り場を回っていた。フィッティングルームから伸びる手に秋子が用意してあった水着を渡す。


「しかし、このまま何の抵抗咸もなく女性用水着売り場に来られるようになるとは、私は男に戻った時、大丈夫なんだろうか?」


 今は男にバレてはいけないと色々覚悟して入ったこの水着売場であったが、思ったより抵抗感がなくいる自分に秋子はぼやいていた。


「秋子、なにぼやいているのよ。それより見て!このビキニはどうかな?ちょっと露出が多めなんだけど、(たか)に襲われちゃったりしないわよね?」


 もじもじしながら上目遣いで聞いてくる彰子に、一瞬クラっとくる秋子であったが、心のなかで今は女の子、今は女の子と念仏のように唱えてなんとか自制心を取り戻した。


「むしろ、その言い方だと襲って欲しいのかなって思っちゃうよ。やっぱり私行かないで二人きりのデートにする?」


「ちょっと、なに言い出すのよ、秋子。私たちはもっと時間をかけてっていうか、えっと・・・。」


 真っ赤になる彰子に、秋子は肩をすくめながら言った。


「はいはい、わかっているわよ。それより、おしりのところが少し捲れているわよ。動かないで直すから。・・・。はい、いいわよ。うん、襲う襲わないは別として、これなら隆くんも惚れ直しちゃうでしょ。自身持って、・・・。って私っ。」


 急に頭を抱えてしゃがみこんだ秋子に彰子が不思議そうに首を傾げる。


「どうしたの、秋子?」


「何でもない、何でもないの。」


 水着がずれていたからって、なに女の子のお尻を触っているんだ、私は!これじゃあ、変態じゃないか。それより、自分が男だっていう認識が日に日に希薄になっている気がする。

 自問自答から秋子が復帰するのは、それから10分後であった。


・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・


 目的のものを買い終わった二人は、しばらく池袋をぶらぶらし、お茶を飲んでから帰路についた。


「それじゃあ秋子、また明日ね。」


「ええ、彰子。良い夢を!」


 栗橋の駅に戻ると、彰子は迎えの車に乗り込み、帰っていった。


「やっぱり、忠恵(ちゅうえ)家はお嬢様なんだな。それに比べて・・・。いや、考えるのはやめよう。」


 秋子はそのまま徒歩で帰路につく。駅を高校と逆側に出て、徒歩40分のところに秋子の家がある。秋子は駅からずっと跡をつけている存在に気がついていたが、あえてそれを無視して進んでいった。そして、ちょうど人影が全くなくなった瞬間、四方から覆面の男たちが現れた。


「八高魔法科一年首席、神埜(かみの)秋子だな?」


 リーダー格の男が覆面越しに話してくる。


「ええ、そうだけど、あなた達は?」


 相手が名乗るとは思っていなかったが、予想通り無言の返答であった。再び、沈黙を破りリーダー格の男が喋る。


「なかなかの魔力らしいが、所詮は高校一年。気の毒だが我々の計画の礎になってもらう。」


 その瞬間、四方の男たちが一斉に秋子に向かってくる。各方面から3人ずつ人間離れしたスピードで迫ってくる。数人、その場に動かなかった者たちもいる。彼らは魔法師だろう。前線の騎士、魔法戦士たちが戦闘している間、大きな魔法を編むのであろう。命を狙っているわけではないから、おそらく拘束系の魔法か。


 素早く状況を判断すると、秋子は正面、リーダー格の男がいる方へ、自己加速の魔法をかけ飛ぶ。既述であるが現代の戦闘方法では、補助魔法をかけた(若しくはかけてもらった)魔法戦士、騎士が前線で戦闘する。その間に魔法師が後方で大魔法を編み、殲滅するのが定石である。この覆面男たちはその定石をしっかりと守っていたし、対する秋子は魔法科の生徒。つまりは後方で魔法を編む側の人間であり、そもそも接近戦などに対応できるはずがない。


 そんな隙もあったかもしれない。秋子は肉薄する男どもをすれ違いざまに自己硬化した足で蹴り倒し無力化させ、リーダーの男に接近した。


 接近戦を不手とすると考えていた相手が肉薄し、思わず詠唱中の魔法を止めてしまった。その瞬間、強烈な蹴りが男の頭に命中し、一撃のもと沈ませる。リーダーがやられたことにより生じた隙をつき、秋子は自己加速を更にかけ、その場を逃走した。

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