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大雨の出会い(5)

今日は少し長めです。



それにしても・・・


どうして太陽は東から昇って西に沈むのだろう・・・。(なんてね)

「――――――なさ――」


「ん……」


「――きなさい」



「……うう…幼女が…」




「寝言は寝てから言いなさい!」


「は……?」



「起きろ!」



 ――べチッ!



「あうっ!」





 ダルは頬に鋭い痛みを感じ、跳ね起きた。


「ここは……?」




 目の前に幼女、ではなくポーチがいるが、まあ、それはよしとして。




 真っ昼間。


 晴れている。


 何だか暖かい。


 春だろうか?




「えっと…」




 どうやら彼は、街なかの石畳の上に横たわっていたようだ。お尻がごつごつして痛い。レンガ造りの建物の、綺麗な街並みがぼんやり見える。近くは市場らしきものがあり、通行人が何事かとこちらを見ては歩き去っていく。




「……」



 少しずつ、頭がはっきりしてきた。



 …そうか、俺はポーチに連れられて……。




「やっと、気付いたみたいね。…ここは、天上界っていうの。空の上に浮かぶ大陸。救世主様たちが今まで生きてきたのが地上界だから……そうね、貴方にしてみれば、異世界って言葉がしっくり来るかしら」



「はあ」





 ここ数時間、いや数分のうちに、どれだけのことが起こったのだろう。あまりの展開の速さに付いていけない。


 自分が救世主だという意味が分からないし、まず第一、この地球に2つの世界が存在しているだなんて初耳だ。にわかには信じがたい。




「説明…ちゃんと、してもらいたいんだが」




 呆気にとられ、現実感がないながらも、ダルはふわふわした口調でポーチに頼む。ポーチは頷き、彼と腕組みをして(ついでに胸をすりよせて)、広場の木陰のベンチまで連れて行った。


 2人、並んで座る。

 頬をなでる春風が気持ちいい。

 さわさわと木の葉が踊る音が耳に届き、ダルはこれが夢でないのだとうっすら思った。



「オーケー。えっと、貴方たち人類に対して、ここ天上界は、魔族が住む世界。あ、魔族ってのは魔法が使える種族ね。昔々、魔族と人類は一緒にここで暮らしてたんだけど、魔法の使えない人類はやがて地上に降りて生活し始めて、それが……って、まあ、こんなことはいっか。貴方が救世主としてここに来た理由が大事ね」




「ああ…」




 いよいよ、ダルは混乱してきた。



 魔法だって?魔族だって?



 聞いたことのない単語が飛び出し、本当にどうかなってしまいそうだ。それに、さっきから何か大切なことを忘れているような気もするし……。




 だが、そんなダルにはお構いなく、彼女は早口で続ける。




「でね、伝説によると、近々悪魔の末裔が大きな力を取り戻すらしいのよ。…あ、そんな顔しないで。悪魔っていっても、最初はただの魔法使いだったのよ?彼は偉大でいろんな魔法が使えて、だけど最後には悪の道に走ってしまっただけ。分かりやすく言えば、ハリー●ッターのヴォルデ●ート卿みたいなものね」



「…小説の設定を揺るがすような不穏な発言はあまり……」



「おっと失礼。それでね、数千年前、彼の能力は正義の騎士たちによって封じ込まれたんだけど、そろそろ封印が解けて、彼の末裔に流れる血が覚醒するんだって。だけど、その末裔が誰でどこにいるか、あと封印が解ける正確な日時とか、そういう情報は全くつかめてないの。ただ1つ、分かっているのは、彼は魔法の使えない人類を滅ぼし、魔族を支配しようとしている事よ。もともと、それが悪魔の狙いだったからね。ここで、救世主様の出番!」




 ここぞとばかり、胸を張る(というより、ダルに押し付けようとする)ポーチ。


 小さくのけぞるダル。

 積極的な女は、どうしてもあまり好みになれない。




「7日前、貴方に落ちたのは雷じゃない。ただの人類に、特別優れた能力を与える聖光よ。これも伝説通り。悪魔に立ち向かうには、それまで全く天上界とかかわってこなかった、いわば新鮮な考えをもった『人類』が一番だからね。貴方は、偶然だけど、選ばれし者に変わりはないわ。以前とは格段に変わった自分を感じているはず」


「なるほど…俺のロリコンも聖光のせいか……」


 納得したように呟いたとたん、ダルは頭をばかっと殴られた。



「いい?私は聖光って言ったの。性光じゃないわ。お分かり?」


「はい……」



 後頭部をさすりさすり、彼は頷く。



「じゃあ、腕を切りたい衝動に駆られるのは…」


「それは分かんないけど、伝説がちょっと失敗しただけじゃない?」


「だが、そんな適当な設定で大丈夫なのか?」



 質問攻めに遭い、ポーチはいい加減イライラしてきたようだ。



「は?『そんな設定で大丈夫か』?問題ない!!アンタねえ、この小説の読者数分かってる?ややこしい設定したら、ただでさえ分かりにくい文章がもっと分かりにくくなるでしょうが。適当でいいの適当で!能無し作者が無駄に頭使って疲れるだけよ!!」



「はい」




 こういうときは、素直に返事しておくのが一番だ。ダルは少しだけ、彼女の操縦方法のコツをつかんだ気がした。



「よろしい。…まあとにかく、いきなりで本当に悪いんだけど、私たちの救世主やってくれる?やってくれるわよね?」



 明るい口調でそう言われるが、その目は「断ったら怖いわよ」と暗に告げている。






 ダルは意を決した。

 ここで覚悟ができるのが、真の男というものだ。





「……えっと…断る」

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