大雨の出会い(2)
このまま、ちゃんとギャグに持っていけるだろうか・・・?
事故、というのは2人でラメラの森へ行ったときのことである。
森とは名ばかりで、木のあまり多くない、どちらかというと林に近い場所なのだが、おかげで村の人たちも散歩がてらに気軽に立ち寄れる。奥地で採れる甘い野苺が評判で、ダルとルヴェアはそれをジャムにして小遣い稼ぎをするために森に分け入った次第だ。
15、6の少年たちが、
「苺、たくさんあると助かるけど」
「何だったらついでに野兎でも仕留められればラッキー」
などとのんびり話しながら歩いていくあたり、この村の平和さがうかがえる。
もっともダルは、「ただのジャムを高級ジャムって言ってぼったくりゃいいじゃん」などと詐欺まがいの提案を口にしていたが……。
そして夕方。かごいっぱいに野苺を詰め、いざ帰ろうとしたときに運悪く夕立に見舞われてしまった。
そういえば昼間、入道雲が空にどしんと居座っていたから早めに帰ろうとは思っていたのだが、あと少しあと少しと思っているうちに時が経ってしまうのが世の常というもの。
バケツをひっくり返したような大雨の中、2人は慌てて家路に向かっていた。
やがて、村が見えてきた頃……。
――ガシャーン!!
耳をつんざくどころではない、鼓膜が破れ、頭蓋骨まで割れるかと思うほどの音が轟いた。そして、まるで太陽を真正面から眺めたかのように、視界が光によって閉ざされた。
「うっ…!!」
ルヴェアは本能的に耳を塞ぎ、しゃがみ込んで身を守った。
もう冬も近い季節だというのに、全身から嫌な汗が吹き出す。
だが、それ以上轟音が響くこともなく、閃光が森を駆けることもなかった。
「雷か?」
こんな近くの落雷など、初めての経験だ。
おそるおそる、すくむ足で立ち上がったルヴェアは、隣にダルがいないことに気付いた。
「ダル!」
すぐさま、大声を張り上げる。
「返事してくれ、ダル!」
――駄目だ。雨音があまりにも大きくて、きっと声は届いていないだろう。
「ちくしょう…」
何か手立てはないのか。
いや、そもそもダルは無事なのか。もしもダルに万一のことがあれば、俺は…。
混乱に陥り、再びうずくまってしまうルヴェア。
その頭上から、突然声が降ってきた。
「なぜ俺を捜すんだ?ルヴェア、お前は俺が何者なのかを知っているはずじゃないか」
初めて聞く口調だ。厳かで、有無を言わせぬ強さがある。まるでこの世の辛酸をすべて知っている、教会の年老いた神父のような……だが、言葉の意味が全然理解できない。
「ルヴェア」
名を呼ばれ、彼ははっとした。
どうして今まで分からなかったのだろう。これは、まぎれもなくダルの声ではないか。
驚いて顔を上げると、そこには予想通り、ダルが立っていた。
ただ1つ、さっきまでと違うのは彼の左手だ。
原形も分からないほど、真っ黒に焼け焦げている。
「ちょっ、その腕…!」
ぷすぷすと、小さく上がる煙がルヴェアの鼻の奥を突き、彼は顔をしかめた。
「ああ。雷に打たれた。でもまあ、じきに治ると思うよ」
平然としているダル。そして、言い終わるが早いが、彼の腕は言葉どおり元に戻った。傷ひとつ残っていない。
まさに奇跡としか言いようのない現象を目の当たりにし、ルヴェアは文字通り、それこそ雷に打たれたように立ち尽くす。
そんな彼を一瞥し、ダルは家の方へと向かっていく。
「行くよ」
ルヴェアは、弾かれたように慌てて彼の後を追った――。