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竹光  作者: 櫻井月光丸
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4、乱れ咲き

蓬原に朝がやって来た。


 朝が訪れるのは本当に早いな……

  気がついたら、酒のボトルを枕にして眠っていたとは……喪唯はうんと背を伸ばし、久しぶりに良 く 寝たと、褒めてやったのだが。

 肝心の隣の部屋で昨日ドンチャンしていた二人はというと、どうやらくたばっていたようだ。

 二人でドンチャン……ではなく溜まっていた愚痴や本音を漏らし続けたのか、ボトルがあっちこっち に散らばっているのが解った。

 「ガラス割れてるし……何してたんすか、昨日」

 こっちは酒を一口含めた程度だ。あの二人みたいにへろへろにはなっていない。

 グースカ夢の中の二人を目じりに、汚れきった部屋を嫌そうにかたずける男、奥喪唯。

 (まったくだらしない先輩だ……)

  自分が将来なりたい……目指す人物は?

 などと聞かれでもしたら、まずあの男だけは無いだろう。やっぱり……

 喪唯は本部の同僚に近い連中を思い出していた。

 その中で、一際自分にとっての憧れであり……まぶしい、勇ましい男……

 「はぁ……」

 自分は少なくとも目指す理想の形がある。あんな人になりたい。もしそれが叶うのならば、姉だって 喜んでくれるはずだ。

 今の気持ちはそうだが、あの人……いや、あの方は……

 「うぅー……」

 「雪名先輩、そんな所で寝てると風邪ひきますよ……姉貴も」

 「んがーんがー」 

 そしてまた、喪唯の口から溜息が漏れた。

 いくら義姉といえども、酒を飲んで乱れた姿で転がっているのはどこに目を向ければいいのやら、目 のやりどころに困るというものだ。

 とりあえず、酒に酔い潰れただらしない大人二人はこのままにしておくとして……

 そういえば、義姉が桜の整備だかなんとかいう仕事のことを言っていた気がした。

 丁度、テーブルの上に「桜」「バイト」とシンプルに記された紙がくちゃくちゃになって置かれてあ るのに目が行き、そこにはだいたいの場所と、自給が書かれてあった。

 「桜本長……横街通り……外。って、結構遠いじゃないすか」

  ここから歩いていくのならば、こんな調子の義姉に本調子で整備などできるはずもないだろう。と いっても、帰って来るのが夜明けになりそうなので、義姉の耳元でこう囁いた。

 「姉貴。代わりにバイト行ってきます」

 ついでに、雪名にも。

 「先輩、……早く本部に戻ってこないと……隊長に怒られますよ」




 蓬原の街はいろいろと複雑な地形で、それに付け加えて昨晩の嵐による被害はあちらこちらで見受けられた。

 (もう昼……夕方には終わるといいけど)

 姉の代わりにバイト……なんて、隊員たちにしれれば馬鹿にされるに決まっていた。ただ、身寄りのいない者が、騒ぎたいだけなのだろう。

 だからこうして今、道を堂々と歩いていても巡回中の同僚と会っては上手くやり過ごすしかない。

 「お疲れ様ですぅ」

 「……おつかれ」

 途中、無邪気に走り去ってゆく子供達にそう言われ、喪唯は無意識に、反射的に反応していた。街の治安を守ってくれる団体。ここら蓬原では知らぬものはいない蓬原隊。

 この今現在着用している制服を見れば、子供や大人、地域の人々が自然と笑顔であいさつをしてくれるのだ。

 (……っていうか、蓬原隊ってネーミング、ダサいって)

 しかし、冗談抜きにして蓬原隊には強者つわものが集まる……いわば戦力にもなりかねないグループである。しかし、「戦争にはでない」ということをルールとして、ただ街の安全のために全てを確保してきた。

 何時も通るブランド店通りに進むと……向こうからこちらに歩いてくる一人の女性に気がついた。

いや、一瞬たりとも目に留まらない方がおかしいではにだろうか。彼女は喪唯と同じく、しかし、上の位を無言で示すバッジが胸にはあり、スラリとした体は制服によって、より輝きを放って見えた。

 そして、何よりあの女隊長は桜色でツヤのある……異国めいた容貌をもつ女だ。

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