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一話

 私は、ただ一振りの刀であった。

 刀であることを望まれ、その為にただ人を切る刀として生きてきた。

 人を殺すために、力を求めず、速さを求めず、技を求めず、栄誉を求めず。唯そこに有る様にして在る、人を切るための刀であった。

 見栄えを、外醜を、自分の何もを気にしない、肉切り包丁で、私は在ろうとした。

 

 人を殺すのに力は不要いらず。人を殺すのに速さは不使いらず。人を殺すのに技は不用いらず。

 ただ鋭ささえあれば、幼子だろうと豪傑だろうと英雄だろうと、人を、一切の悉くを殺しきることは可能なのだから。

 

 一人殺せば殺人鬼。

 十殺せば異常者。

 百も殺せば独裁者と呼ばれ。

 千を殺せば英雄と褒め称えられる。

 そして、万を殺せばそれは人ではないと言われるのであろう。

 人の域を超えた、化け物とでも呼ばれるのであろうか。悪魔か、それとも神か。

 いずれにせよ、それは最早人とは呼ばれるものではなくなっているのであろうが。

 

 私がこの世に生を受けたのは十六年程前のことだ。

 その頃はまだ、私は人であったのかもしれない。

 いや、人であることを望まれず、唯一振りの刀で在る事を望まれ、それだけの為に産まれた私は、その頃には既に人ではなかったのかもしれない、

 人ではなく、唯の刀であったのかもしれない。

 

 そも私たちの始まりは、馬鹿げた考えを実行しようとしたからだ。

 人が行ってはいけない領域に足を踏み入れようとした馬鹿がいた。ただ、剣の道を究めることだけを考えた大馬鹿が。

 万の人を殺すためだけに、その人生を持って刀として己を鍛えた。子々孫々に至るまで、限りなく多くの人間を、生き物を殺すことだけを求めた化け物が。

 戦乱の世故、ということもあったのかもしれない。ただそれだとしても。その考えは人としての分を逸脱していた。

 人間五十年。そんな短い生で何かを極める事等、おおよそ不可能なことなのだ。故にその男は、人間であること止めた。刀剣のように自分を鍛えることだけに邁進した。

 

 戦乱が終わっても、彼の子孫はまだ己を鍛え続けていた。いや、彼らは既に刀であり、それ以外に在り方を知らなかった。止めようもなく、ずっと。

 戦乱が収束して二百五十ばかりの時が経った所でも、彼らは己を鍛えるのを止めてはいなかった。既に刀としては完成しきっていて、化け物の領域すら超え始めていたが、それでも変わることなく。

 そんな時だ。世に一人の占い師が出てきたのは。その女の言うことは外れることはなく、彼女は現神人として崇められることになった。そしてそんな彼女の口から、この国があと百年程で滅びることが告げられた。

 

「鎖国ってー引きこもってるうちに時代は進みに進んでるのさ。根暗な国には滅びるって運命しか残されちゃいないさね」


 当時の七代目大将軍に彼女が告げたのは、そんな軽い口調で重い話だった。

 既に神のように崇めれらていた彼女の言葉に意を唱えられる人がいるはずもなく、彼女の言葉は民に浸透していき、時が来る前に国が滅びるかもしれない、という一歩手前のところまでいった。

 そこで時の七代目大将軍が彼女に打開策はないのか、この国が生き延びる術はないのか尋ねたところ、またかったるそうに軽い口調で彼女は喋り始めるのだ。

 

「運命ってのは流動的で、私にも全部が全部捉えきれるわけじゃないのさ。だから、その運命が今走っている道を外してしまえば、あとは違う方へ勝手に流れて行く筈さね」


 と。

 故に今ここは日本と呼ばれてはいるが、地球と呼ばれる星にはないのだ。

 そして、そんな史実とはズレにズレた日本に生きる私の話をしようと思う。見苦しく、浅ましく、とても聞くに堪えないかも知れないが、どうかこの自己満足に付き合ってくれると有り難い。

 こんな、人としての生き方を知らなかった私を人としてくれた、私と彼女の話を。

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