因果律の破れ
因果律という言葉を知っているだろうか。
Aという原因があって、Bという結果があるという、原因と結果の関係のことを言うのだが、それがおかしくなっているという。
初めの兆候は、ニュートリノだった。
ニュートリノとは、素粒子の一つで、この世界の物質とほとんど関係を持たないために、こちらの世界では質量はほぼ0であるとされている。
質量をもつということは、持たない物質よりは遅く移動を行うということになる。
たとえば、1トンのトラックと10トンのトラックを比べてみよう。
同じ速度で走っていた時に、同時にブレーキをかけると、10トントラックのほうが後で速度0となる。
これと同じように、この世で最も速度が速い物質である光子は、質量0とされている。
よって、ほぼ0のニュートリノと質量0の光子とでは、光子のほうが早くなるのは、至極当然である。
なお、光子とは、光を粒子化したものの名称であり、その速度は約30万キロメートルである。
ちなみに光がこの世で最も早い物質と定義したのは、相対性理論によってである。
この相対性理論は、現在の物理学の中心となる理論であり、これが覆されることはないだろうとされていた。
だが、ニュートリノのほうが早いという観測結果が得られた。
これは、光が一番早いという先ほどの話と矛盾している。
また、相対性理論の破たんを引き起こす恐れもある。
一つおかしいと、すべてがおかしいと思うような感じだ。
本筋に戻そう。
ニュートリノと因果律とはどうかかわってきているか。
この世界の時間は常に一定の方向、すなわち過去、現在、未来へと流れ続けている。
これは普遍的な原則であり、覆ることはない。
このことは、光が一定の速さで進むことによる情報の一方性ともいえるだろう。
いうならば、遠くにある天体を、たとえば地球から130億光年離れた天体は、130億年前の情報しか得られないということだ。
これについての有名なパラドクスを紹介しよう。
パラドクスとは矛盾という意味である。
双子のパラドクスと言われているこれは、知っている方もおられるだろうが、知らない方のために述べておく。
地球から10万光年離れた天体へ、双子の片割れが行くことになった。
地球に残るのを甲、出発するのを乙としておこう。
さて、地球から10万光年離れ、光の速度で出発する乙は、相対性理論によって甲の時間が遅れて見える。
このため、乙から見て往復20万光年を経た時間では、甲のほうが乙よりも年上になるはずである。
一方で甲から見ても、相対性理論に従って乙の時間が遅れる結果となる。
その結果、乙が地球へ帰ってきたとき、甲から見て乙のほうが年上となる。
つまり、甲から見た結果と乙から見た結果は食い違うということになるのだ。
ニュートリノという素粒子で発見されたこの現象は、徐々に物理学全体へと波及していった。
光が好きなように動き出すという現象が発見され、世界中を混乱の極地へと変貌させた。
因果律が崩壊することを、因果律の破れと表現したりする。
この破れのため、犯罪があっても因果律が証明できなくなったため、司法制度が真っ先に崩壊した。
法律があっても司法が機能しなければ役に立たない。
行政へと不満がたまり、それが次々と革命を引き起こした。
世界の各地で新興勢力が勃興し、世はまさに戦国時代の様相となった。
誰も彼も、世界は崩壊したと確信した。
そして、それは事実となった。
とある国で発生した革命の際、あやまって核の発射ボタンが押された。
止める者もおらず、あとは自然の摂理によって、地球は滅亡した。
自動化された迎撃システムによって、速度が変わるとはいうものの、破局は確実に訪れた。
そして地球は、死の星と化した。