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ミナモは魚のステータスを確認してみると、プレイヤー同様に空腹度がついていることに気が付いた。
一定以下になるとステータスが弱体化するため、食料を定期的に与えなければならない。
(モンスターの餌? いや、食うかわからんし、確か好感度もあるんだったよな、下手な餌もやれないし困ったもんだ)
従魔には好感度というものがあると言われている。
高めることで命令を聞いたり、進化した際に候補が増えると噂があった。
「こっちの言う事ってすぐ聞かないの?」
「確かにそうですわね、大雑把な命令しか」
(まあ、命令とかそれ以前に真面に動けないだろけど)
ミナモは無言で水球を解除すると、重力に逆らうことなく地面に叩きつけられ、その場でビチビチと飛び跳ねる。
「な、なにをしているんですか!?」
「いけ魚、体当たりだ」
驚くメイアへ体当たりを指示するが、魚は変わらず飛び跳ねている。
「駄目だこれ」
「わたくしに向かっていきなり何を!? と、というか、その子ダメージを受けてますよ!?」
他人事のはずが、メイアは絶望してしまいそうだ。
再び水球に戻すも、逃げようと暴れ回るだけだ。
「完全に逃げようとしてますわ……」
「これでどうやって戦えばいいんだ!」
わざとらしく地面に拳を打ち付けるミナモであるが、とても楽しそうだ。
「まだ一時間もしてないのにどっと疲れました……」
ユニコーンの背にもたれ掛かる。獣二体が寄り添い顔を擦り付けて励ますと、メイアは少しだけ気力が回復して顔を上げた。
「あっそうだ」
「なんなんですか?」
「魚なら餌は釣り用の餌でいいじゃん、ミミズとか、魚の種類によっては藻か。
釣りサイトにこの魚の詳細載ってるはず」
「……こんなのわたくしが思い描くテイマーじゃない」
輝かしいはずのテイマー道が歪み穢れていく。
「やっぱり虫かぁ、取ったり売ってるからそれでいいか」
「因みに、なんという魚ですか?」
「イーストラウだってさ」
「名前は、付けますの?」
「う~ん、イトウでいいや」
「い、イトウ?」
「そんな魚が居るし、苗字ぽい」
「苗字? 何処の国ですか?」
「内緒」
従魔の名前を入力する。変更できない旨を尋ねられたが躊躇もなく決定し、魚の名前がイトウとなった。
「さてと、餌でも買ってくるか」
ミナモが動くとその後ろをメイアが付いて歩く。
雑貨屋にたどり着くと、店主がミナモの服装を訝しがるが何も尋ねない。
「お嬢ちゃん、お金あるの?」
「あるよ、安心しな。この魚に餌を与えるための虫が欲しいだけど、釣り用の餌、あるよね?」
「ちょっと待ちな」
店主がレジの後ろにある倉庫へと入っていき、そこからいくつかの袋を持ってくる。
「こっちがワーム、こっちがコオロギ、すべて乾燥させてある。
しかし、これくらい何処でも取れるだろ」
生で売れるわけもなく、虫などは全て乾燥させてある状態だ。
周囲で適当に取れることもあり、好き好んで買う人は殆どいない。
「持ち歩きには丁度いい」
二束三文の資金を払い購入すると、早速乾燥したワームを手に取り水球へと入れる。
イトウは最初警戒していたが、水に浮かぶワームを突っついた後に口の中に入れて飲み込んだ。
そんなことを二度三度繰り返すと腹が膨れた様だ。
「よく虫を持てますね」
「そりゃ慣れてるから」
悪戯心に火が付いたミナモはワームを手に取り、メイアに近づけると、飛びのき慌てて店の外へと逃げて行った。
出入り口で無言で睨みつけるメイアであったが、ミナモはその様子に満足して店を後にする。
「予想よりも楽しかったよ、ありがとね、じゃ」
メイアの目論見と違う形であれ、満足が行く面白さをミナモは得た。
良い時間つぶしができた為、礼を言い去ろうとする。
「待ちなさい」
「ん?」
引き留められた事を不思議に思いながら振り返る。
「どうかしたの?」
「わたくしも行きます」
「え? よく好きじゃない相手と一緒に行こうと思うね」
「あ、いや、そ、それは、ち、違います」
「見ればわかるよ、腑抜けてたりふざけてる人が嫌いなんでしょ」
言い淀んでいたメイア、必死に取り繕うとするが、開いた口から言葉は出ない。
ミナモとて鈍感ではない、最初から気が付いていた。
「そ、その子が虐待されないか不安なのです!」
それは本音だ、変なことをされそうだから、ミナモではなくイトウの方を心配していた。
「どうなんですか!?」
「……否定はできないな」
検証するうえで間違いなく無茶をするだろう。
それを聞くなり不機嫌な顔を露骨に表しする。
「そう睨むな、ならこいつが真面にレベルを上げれる術をご教授願おうか、テイマーの先輩さん」
「え、…………いえ、その」
ただの魚のレベルを上げる方法、そんなものメイアですら知りたいほどだ。
しかしミナモはいくつかその方法を口にした。
「従魔の一部は荷物運びとかでもレベルが上がるそうだ。
なら魚に激流でも泳がせたり、水中の魚を体当たりしたり、追い込んでもらったりと考えていたのだが、先輩テイマーさんはどう思う?」
「い、いいですね」
思いつかなかった案に感心するが、初心者に提案され沽券に関わり、素直に関心はできなかった。
「後はこの水玉を直接ぶつけて強制的に体当たりさせたり」
なにかを喋る度に、小さな信頼も消えていく。
「……やっぱり少し行動を共にさせてもらいます」
(拒否権はないのか、まあいいけど、退屈しなさそうだし、別に嫌いでもないし)
ミナモはメイアの事を嫌ってはいない、それにメイアと居る事で発見があるかもしれないという予感があった。
(馬鹿真面目にやってるプレイヤーの生態っていうのも気になる)
一般的なプレイヤーがどの様な思考や理念で行動しているか理解する良い機会だ。
(まあ、少し過保護というか、行き過ぎたな感じがするけど)
基準にするより、参考程度に収めておくことにした。
村を出て上流を目指して移動する。川でイトウをただ泳がせていた。
メイアが睨みを利かせるが、ミナモはその視線をものともせずにいた。
「疲れない?」
「何がですか?」
「只管眺めてて」
本人もずっと気を張りっぱなしで疲れている。
「そう気負わなくていいよ」
「安心はできません」
「ならモンスターが現れたら退治して欲しいな、私は何もしないから、この子を突撃させそうだなぁ」
ミナモと横並びに歩いていたが、メイアは足早に先を歩き始め周囲を警戒する。
昼下がりの長閑な風景の中を、ミナモだけ緊張感もなく進んでいく。呑気に歩いているせいか一人でいるとき同様に歌を口ずさんでいた。
「……モンスターが寄ってきます」
音を聞きつけて襲い掛かるモンスターも存在してる。
ミナモは楽に倒せるが、普通だと声を潜めたり、専用チャットでの会話となる。
「おっと、つい一人の時の癖が出た、うっかり」
「一人って、ソロで活動していたんですか?」
「そうだね、一人でうろついていると曲流して、歌ってたりするんだよ」
「よく一人でやっていけますね、いえ、失礼でしょうがPTではやっていけないのでしょ?」
物怖じとデリケートなことを聞かれるが、ミナモは鼻で笑った。
「ほんと失礼な事聞くね、まあ、悲しいかな当たらずとも遠からず。
あ、言っておくけど話が合わないとか、協調性がないとかっていう理由じゃないからね」
「では何故?」
「このゲームじゃ窮屈そうだから、一々顔色伺って話を合わせて長時間拘束される、流石にそういうのは無理」
「それが協調性がないといのです」
「できるがしないという感じだよ。
他のゲームじゃ、……昔はしてたんだけどねぇ」
最近誰かと協力して物事に取り掛かるという事がほぼ無かった。
その原因となっているのがアウトセンスだ。
(良くも悪くもアウトセンスに頼りっぱなしで、他のプレイヤーとの差が広がってたし、協力なんてなぁ……)
人寂しいという理由以外で誰かと協力することはない。
加減をして行動すれば問題ないのだが、長時間となると話は別だ。
(そう思うと昔の協調性っていうのも無くなってるのかな)
ミナモは誰かと長時間共に行動することを想像する、しかし思い描いた結末は一つだけで。
「大変だ」
「なんですか?」
「想像の中ですら、誰かと協力できる未来が想い描けない。
途中で飽きて、伝家の宝刀『友人に呼ばれたので失礼しますね』を炸裂する未来しかない」
「なんですそれ?」
「え? 友達に呼ばれたを知らないの? 友人や親しい人に呼ばれた、用事があると言ってPTを抜ける必殺技だぞ、そういう時たいていそういう予定はないぞ」
ミナモの言う必殺技はネットゲーム内部ではよくある途中退場方法だ。実際に用事があったり誰かに呼び出されて抜ける事があるが、大半は用事もないのに抜けるための口実として利用されている。
特に相性の悪いプレイヤーや雰囲気が悪い状況に行う。
「……え?」
「お前……」
メイアはまるで思い当たる節があるのか、目を白黒させていた。
(この子の場合無意識に重箱の隅をつついてそうだし、……話題を変えるか)
地雷原から脱出するために、適当な話題へ逸らす事にした。
「こう長閑だと寝転がりたいほどだ、君は一日中のんびりと過ごしたことはあるかい?」
話題はとても無難で退屈そうなものだ、しかし下手に話を振ると友好関連の話題に繋がることもある。
特に気を張って神経を尖らせているメイアには、落ち着いた話を振るのが適切と判断した。
話に食いつくことは無かったが、適当に耳を傾けて話を聞いていた。
(まあ、気を遣うのが複数だと面倒だからなぁ、場を盛り上げる奴が居ないと私がしないといけないし)
積極的に話を盛り上げる人物がいないと団体行動は難しい。
メイアはそういった事が一切できない質だ、今も盛り上げようという気は一切感じられなかった。
(はぁ、誰か代わりに場を盛り上げてくれる者はいないだろうか)
ミナモの願いは日が傾きだした頃に叶った
メイアの従魔は気配を感じ、前に踊りだして警戒する。従魔が一点を集中して見ると、メイアもそちらへ意識を集中する。
気配の対象は、ばれたと分かると、茂みの中から飛び出した。
「また貴女ですか!」
「ま~た気づかれた!」
赤いツインテールをたなびかせ、少女のエルフが刀を抜刀する。水着と和服を合わせた様な着衣を纏っていた。
「ここで会ったが百年目! このプリスターが再び勝負を申し込む!」
不敵に微笑み刀を構える、その自信に満ちた雰囲気はメイアに無いものであった。
「何度も何度も懲りないですね、いい加減にしてください」
そのやり取りからプリスターとメイアは顔見知りで、同じやり取りを何度もしている事が伺えた。
(丁度いいや、こいつらやり合ってる間に少しやりたい事でもするか)
プリスターがにじり寄ると、メイアが臨戦態勢に入った。
(このまま泳いでいてもレベルなんて上がらん、なら何かをさせなければならんだろ)
長距離を泳いでいても経験値は入らない、切っ掛けとなる手段は別にある。
(戦いができないなら、戦うこと以外で、なら一つだけだ)
ゆらゆらと泳いでいるイトウ、その近くで魔法を使い地面を垂直に盛り上げて壁を作る。さらにその周囲に同じような塀をいくつも作り出し完成させた。
(迷路の完成)
魚専用の迷路。ただし難易度は赤子でも出来る様なものだ。
「坂巻! ――ぬぅわぁ!」
後ろでは戦闘が始まり、ライオンの後ろに回り込んだプリスターが背を攻撃し、反撃を食らっていた。
それをしり目に、ミナモは餌を取り出して迷宮の入口へとイトウを誘導する。そして入り口を塞ぎ、出入り口に餌を配置した。
「さあ、この迷路を抜け出して餌にたどり着くがいい」
これがミナモの考えたイトウのレベルアップ方法だ。
(知育ぽい感じにはなったが、これで経験値になってくれるだろ、……多分)
プレイヤーが物作りなどの行動で経験値を取得できる。その作業量次第で経験値の取得量が変わってくる。
イトウはINTが1、知育だけでも経験値になると踏んでいた。
(お、移動し始めた)
ミナモの考えなど知ってか知らずか、イトウが迷路の中を移動し始める。
流れに逆らうように動けば目的地に辿り着くが、その考えに至るかは未知数。
(行き止まりに入っていった、そうそう上手くは行かないか)
しばらく行き止まりで漂っていたが引き返し、今度は別な方へと向かっていった。
2人の喧噪を聞き流していると、やっとゴールへ辿り着く。
迷路を突破した報酬として、さらに餌を追加で与えた。
(やっぱり経験値が入ってる、これは良い傾向だ)
入手した経験値にほくそ笑み、次の迷路を作り始めた。




