三
刺すような視線に思わず息を止める。
目の前にいる少女の瞳はとても不思議な存在だった。
なにも映し出さないような空虚に浸っているかと思えば、ふとした瞬間に鋭い光を帯びる。
いくつかの戦いを超えて来た自分でさえも思わず息を呑んだり、呼吸を忘れてしまうほどだ。
まるで王者のようだ。
そう思った。
他者を有無を言わせぬように従わせる雰囲気を纏っている。
それも、この世界の知る多くの国の王にも見られないような王としての貫録を彼女は身につけているのだ。
見かけはまだ十代だという少女が。
先ほど話していて感じたのは余裕の会話の仕方。
こちらの反応を見て楽しんでいるのをところどころ感る。
それなのにもかかわらず、自分を卑下する言葉を平気で放っているようにも感じとれる。
普通の人間ならば、特に目の前にいる少女のようなものならば涙を流し、自分は無実であることを必死に伝えてくるものではないだろうか?
思わず身近にいる女たちを思い出してみるが、女だけでなく多くの男の捕虜たちまでもがそんな反応に出ることを思い出した。
しかし、そういった反応が目の前の少女には一切ないのだ。
先ほど言った内容に対しても、不審だという感情を露わにして話しかければ信じなくてもいいという反応を返してきた。
とても不思議な少女だと思う。
その半面とこかどこか奥底から何とも言えない感情が自分を包み込んでいるようにも感じる。
この感情がなんなのか今確かにつかむことはできない。
その感情が何なのか気になるが、それよりも最優先させなければならないことは、目の前にいる少女が何者でこの国に対しての禍にならないかどうかを見極めることだ。
自分がどんな存在なのかを思い出し自分自身を納得させる。
自分自身を異形なモノといったこの少女を解き放つわけにはいかない。
この国に対して害をなすものでないと分かるまで開放するわけにはいかない。
だからと言って牢につなぐべきなのか判断に迷うところだった。
城の敷地内に入った覚えがないというこの少女の言葉を信じ、一部屋用意させ信頼できる侍女と騎士を見張りに付け見張るという処置もできる。
いや、自分自らがこの少女を監視した方が賢明だと考えを改める。
他者を否応なしに引き付けるこの少女にどれだけの人間が抗えるか……恐らくわずかな人数しかいないだろう。
「取りあえず、私の配下にいる者の中でも信用のできる者たちに監視させる。それで構わないか?」
「それは、あなたのお屋敷でということですか?」
どこにいるかはさして問題ではなかったが、この男は騎士だ。
めったに屋敷には帰らないだろう。
なるべく関わりたくはないが出来れば近くに居たかった。
矛盾した考えだというのは百も承知。
もし彼が危険が迫った時、陰から手を貸す事が出来るように傍に居たかった。
「いや、移動することによって誰かに見られてしまう可能性は避けなければならないこの部屋のままでいいだろう」
言いながら医師の青年に目線で確認を取る。
視線を感じた医師の青年は静かに頷き肯定を示す。
「ここにはナルザの部屋を通らなければ入れない。
それに、内鍵はないが外鍵はかける。
その鍵は、ナルザとナルザの助手、臨時として私が持ちますが乱用はさせませんので安心して下さい」
目の前にいる少女はゆっくりと頷いた。
分かってくれて良かったと知らずに胸をなでおろしている自分が居た。
しかし、彼女が口をあけ放った言葉に思わず息をのんだ。
「一つ条件があります」
更新遅くなりまして申し訳ありません。
今回は騎士の男の考えが特に多くなりました。
あれ、主人公が全然しゃべらない・・・(汗)
まだまだ続きます。お付き合いいただけたら幸いです。