Ⅷ ビューの過去Ⅱ
少し小奇麗な料亭に入った俺は居心地が非常に悪かった。
地元の住民でも比較的裕福と言われている人でないと食事が出来ないと有名な店だったからだ。
自分は死ぬまでの様な所に足を踏み入れるとは思っていなかったので、余計どのようにすればいいのか分からなかった。
男はよく利用するのか、勝手に料理を頼んでおりすぐにテーブルの上に並べられた。
料理を並べた終えたウエイトレスが居なくなると男は己に向き直った。
「さて、食べようか。
テーブルマナーについては気にしないで味わって食べていただければいい」
笑顔でどうぞと促され、最初は恐縮しつつも目の前に広がる見たこともない食材と香り立つ食事の臭いに負けて恐る恐るフォークを取り口に入れた途端、ここがどこなのか頭の片隅へと消えていった。
口にとろけるような味と触感。
今まで食べたこともなく、そしてこれからも食べることも知ることもないと思っていた物を無我夢中で食べた。
あらかた食べ終えたころだった。
また男が口を拭き、自分に声をかけて来たのは。
夢中に食べていた自分は発せられた言葉に思わず手が止まっただけでなく、口の中の物をこぼすところだった。
「ところで、このあたりで殺人事件があったのは知っているだろうか?」
やはり、目の前にいる男も自分を知って疑っていたのかと一気に冷静さを取り戻した。
自分が何者であるのか、見たこともない豪華な食事に目を奪われ、その極上ともいえる味にすっかり忘れていた。
少しでも気を許してしまえば、即座にその命を落とすことにもなりかねないのになにを悠長に目の前にいる男の甘い誘惑に下鼓を打っていたことを恥じた。
こんなこところで死ぬつもりも、捕まるつもりも毛頭なかったので、素早く手に持っていたフォークを放り投げ、逃げ出そうとしたところを素早く男に止められた。
「待ってくれ!
君を疑っているわけではない」
まさか、自分が疑われている訳ではないといわれるとは思っていなかったし、上部だけの言葉を信じるつもりもなかった。
だが、男の言葉には従おうと思った。
男の言っている言葉が嘘ではないということもなぜかわかったし、誰も信じてくれなかった自分を疑っていない男について知りたいと思ったからだ。
だが、全てを信用したわけではない。
「じゃあ、何の用だ……」
言葉が乱暴なことと仕方なく逃げるのはやめたが戻ろうとしなかったあの時の自分に活を入れてやりたいと、思い返すとどうしても思ってしまうが、あの時は必死だったのだ。
生きることに。
留まってくれたことが嬉しかったのか、にっこりとほほ笑む男。
優雅に口を開いた男の発した内容に不信感がぬぐえなかったのは仕方がなかったとはいえ、あの時の自分の態度は不敬罪で断罪になっていてもおかしくなかったと今では思う。
人を信じられなかったあの時の自分。
食事の後何回か接触があったがその度男に対して乱暴な言葉にも態度をするにも関わらず、めげることなくどちらかというと楽しんでいるようにも感じられた。
それが癪に障り逃げていても隠れていようとも気付けば自分の目の前に姿を現し、協力を要請しつつも己に食事を与えてくれた。
時には全く関係のないことも共にし、本当に自分に用があるのかと思うこともあった。
だが、何回あっても男の態度は変わらず、自分自身を普通の人間として扱ってくれる。
ただそれだけの事がひどく嬉しく、この男の事なら信用してもいいのではないかと思えて来た。
そんな時にあの事件がまた起こった。
大変お久しぶりになってしまい申し訳ありません。
久々過ぎて文章がおかしいところもあるかと思います。
内容も少しあやふやになってしまったので噛み合ってなかったら申し訳ありません。
次話はこんなに空く前に更新したいと思っています。