Ⅳ
その背中をレイは少し悲しげな瞳で見つめているように見えるが表情が動かないため、誰もが断言出来なかった。
そんな中静かに動いた者がいた。
意外なことにビュー・ヴィベルア。
代七騎士団隊長である彼は静かに迅速に第二王子であるフォルテの後を追っていった。
意外な光景を目にしたレイは無言でそれを見ていると笑い声が聞こえて来た。
笑いの主を探せば、第一王子であるフリューテルだった。
「意外だったかな?
でも、ビューは王家に忠誠を使っている。
任せて問題ないと思うよ」
にっこりとほほ笑む彼を見ると、案外良い性格をしていると以前までの儚い印象を一新させる。
よくもまぁ、これが毒なんぞに犯されていたんだという失礼な感想も出てくるわけだが……どちらがというと、フォルテの方が狙われそうな印象があるのだが……そう思ったが思いなおした。
毒に犯される前、フリューテルの剣の腕はそれなりにあったと聞いているのを思い出したからだ。
剣の腕のある王太子を狙うより、幼い第二王子を狙った方が成功率は高い。
よって、確実に殺せる方法でこのような病死に見せかけた毒殺を謀ったのだろう。
それに、こんな相手に負けた場合どのような報復があるかと思うと安易に手出しはしないだろう。
その報復が今回成される場合になってしまったのだが……。
レイは無言で頷いておいた。
* * *
分かってくれていると思っていた人物に否定された。
それが何より自分に衝撃を与えていた。
目の前が白くなった。
レイさんに諭される前に、今の国の状態が分からないほど幼いわけではない。
でも、レイさんと今の七騎士団に属するようになって、さまざまなことを教えてもらえるようになったことで少なからず力をつけてきていると思っていた。
幼いころから何でもできる兄上とは違い、何をしても中途半端な自分が嫌だった。
年が少し離れているのもある。
でも、自分も王子ということを分かっていたから、国の為に力になりたかったのに、また自分は何もできないのかと思うと悔しかった。
今飛び出してきたのもただの子供の我儘なようだと頭の中では分かっているが、納得が出来なくて飛び出してきてしまった。
――――ぼくは逃げて、守られるばっかりだ
そう思いながらいつも来るひっそりとした中庭の様な場所にしゃがみこんだ。
騎士団の近くにありながらあまり使用されていないここはフォルテが落ち込むとくる場所だった。
どこかの貴族が来るということもなければ、騎士団の人たちもめったに使わないそこは、訓練中は特に誰も寄り付かない。簡素でありながら花や木も植わっているので安心するからだった。
いつもここに来る癖から今回も来てしまった。
今日も誰も来るはずがないと思っていたところに声がかけられた。
「フォルテ様!」
ビクッとして声のした方を振り返れば、そこにいるのは意外な人物――ビューだった。
「どう……して……」
驚き目を見開きながら思わず声が漏れていた。
ビューは急いできたのだろう。いつもの鍛錬からか息は切れていないが肩を揺らしていた。
それでも即座にフォルテの近くに来ると騎士として膝をつく。
王族である自分にそうするのは当たり前のようだが、今は騎士団に所属する身である自分にそうされるのは違うように感じた。
「フォルテ様……」
何と言って切り出していいのか分からなかったのか言葉を切る。
しかし、その瞳は自分を慈しむようだった。
なぜ自分にそのような目を向けるのだろうと疑問に思っていれば、決意がついたビューが喉を一度動かし話しだす。
「貴方が戦場に出られないという事で残念なことは重々承知です。
ですが、今回はあきらめていただけませんか?」
「!」
わざわざそんなことを言いに来たのかと思わず怒りが募る。
「戦場というのは、何が起こるのか分かりません。
我々騎士の中でもつわものといわれている者でも命を落とすところです。
そんな中にようやく力をつけ始めたあなたが行っても、私たちは守りきれる自信はありません。
騎士だけに任せておけないという我々を気遣う気持ちをお持ちだからこそ納得がいかないのでしょう」
問いかけてくるビューの視線に耐えきれなくなり、フォルテは目をそらした。
それを見たからか分からないが、ふっと微笑む気配を感じた。
思わず笑われたと顔を上げれば案の定微笑んでいるビューが視界に入る。
抗議しようと思い口を開いた後聞いた言葉にフォルテはまた大きく口を開くこととなる。
「だから私は王家に忠誠を誓いました」
「なぜ……」
フォルテの言葉を聞いたビューはおやっと訝しむ。
「ご存じなかったのですか……?」
大変遅くなって申し訳ありませんでした!!(土下座)
そして、短くなってしまい申し訳ありません。
切りがいいので一度切らせていただいます。
しばらく更新がなかったのに、お気に入り登録・お越しいただきありがとうございます。
こんな駄文でも楽しんでいただけたら幸いです。