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時過ぎても、想いは変わらず  作者: 美緒
第五章 静寂の始動
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Ⅰ 新たなる情報とフリューテルの回想

時は少し戻り――――


 とある暗闇の中で寛いでいる男がいた。

 その前には頭を垂れ忠誠を表すかのように腰を折り膝待ついていた。

 目の前にいる男が許可を出すのをひたすら待っていた。

 そしてその目の前にいる男は若々しい年齢の割に落ち着いておりその威厳に満ちた空気に男は思わず息を詰める。気を抜けば失態を犯してしまいそうで恐ろしかった。

 自分を追い立てたあの少女の脅威を我が主にお知らせせねばならないという思いを抱いていたのは間違いであっただろうか。

 それとも、先立つ思いとは裏腹になかなか到着の出来なかった自分の能力のなさを非難されているのだろうかと思いつめてしまうほどに。


「それで?」

 ようやく沈黙を破った男が声を発した。

 はっと目の前にいる男が息をつき姿勢を正すのを冷徹な視線が捉えていたが、頭を垂れている男はその視線に気づいていなかった。

「君のその様子では任務は失敗したようだね。それなのに、どうしてここに掠り傷もなくいるのか教えてもらおうか」

 その声は低く冷酷な声音だった。

 改めて自分が使えている人物がどういった人なのか再確認した男はごくりと唾を飲み込んで、震える唇を必死に動かし、事の顛末を話した。

 ただ一身に、主を脅かすだろう人物が現れたことを知らせる為に来たことを伝えた。

 男が話し終えると、部屋内にまたもや静寂が訪れる。

 ほんの少しの静寂が己の過ちを増殖してやまないように感じ、知らず知らずのうちに背に汗が浮かんでくるのを感じた。


「では、お前が任務を失敗してここにいるには、その女の存在を私に知らせる為だということか――」

「はい」

 しぼり出た声は恐ろしいほどに覇気のない物だった。

 突然立ち上がる気配を感じた。足の長い絨毯で足音はかき消されているが、自分に歩み寄ってくる人物がいることをひしひしと感じ取れるくらいのものはある。

 自分の一歩手前で止まった足音と目の前に現れてた豪華な刺繍をこらせた室内履きの靴を視線にいれ、今までにない以上の恐怖が男の身を襲った。

「本当にそのような女がいるとは到底思えないが、今回は君を信じてみるとしよう。

 今回の任務の失敗は、私に新たな脅威の存在が出現したという君の必死で届けた情報で不問にするとしよう」

 その言葉にほっと身体に力が抜けるのを感じた。

 だが、次の瞬間自分の方に力強い重みを感じ息を殺す。

「ただし、もう一つを即急に完結させるように連絡を取れ」

 耳元で紡がれた言葉に驚きと動揺を隠せないでいた。

 その任務を急ぐのは危険と隣り合わせでしかない。

 それはすなわち任務にあたっている物の命の危険も大きくなると同じ意味を持つ。

 思わず頭を上げれば冷酷に光る主の瞳が視線に飛び込んできた。

 その瞳は語る。

 己の失敗を尻拭いさせろ。あの者の命の危険が迫るのは己のせいだと――。

「承知いたしました」

 ぐっと、自分の力のなさを恥じ自分の代わりに危険にさらされることとなった者の安否を願った。



** *



 時と場所は戻り、リーベルア国国王賓客としてあてがわれた自室の応接室に到着していた。

 さすが賓客にあてがわれる部屋だけあって座り心地のいいソファーに腰掛けながら訪れるのを静かに待つ。

 周りが慌ただしい時に限ってこのように冷静沈着にしている彼女は元の世界の部下たちに時に冷たい目で見られる時もある。

 ただし、そう言った時は冷静沈着に見えるだけで焦っている時や動いても仕方がない時が多いのだが知る人は少ない。

 しばらくすれば、予想通り慣れ親しんだ闇の気配が近づいてくるのを感じた。

 じっと目を凝らせばしばらくして足元から徐々に黒い闇が実態となっていく。

 実態となったそれは甘えるように腰掛けの肘置きに持たれている手にすり寄ってくる。

 そっとなでてやると猫のようにゴロゴロとのどを鳴らす。

 黒豹に近いその姿と同様に生態も豹に似ているようだ。

「それで?」

 グルグルと気持ちよさそうに喉を鳴らしながら声のない声で報告を行う。

「なるほどね……他になにか分かった事は?」

 甘えるのを突然と止め、同じ紅い瞳を向けてきた。

 まるで本当に聞くのかと最終確認するかのように――――。

 レイは静かに頷くと、彼はまた声のない声――脳内で直接会話をする方法――――で伝えた。

「へぇ……それについてもっと詳しく調べて来て。血はもっといる?」

 その報告に面白そうに答え、すぐさま次の命を伝えた。

 黒豹はまだいいというかのように主の手を人舐めすると踵を返し歩み始めると、その場に溶け込むようにして姿を消した。

 まるで実態があってないかのような霧を想わせる現象だった。

 それを見届けたレイはすぐさまその部屋を後にした。



* * *



 レネとバルーゼ、ミリアにリデアを牢へ連れて行かせた第一王子ことフリューテル一行は、レイと実の弟であるフォルテの到着を待っていた。

 この忌まわしい病が実は毒が原因であったという事実に驚きつつもそれを暴いただけでなく犯人まで見つけた洞察力に驚いていた。

 またそれだけでなく解毒薬まで知っているというのだから驚きは半端ではない。

 そう側近でもあり友人でもあるシュアークに言えば、彼女はあの容姿でかなりの年月を生きているといっていたから不思議ではないと言われた。

 さっきは自分も驚いていた癖にさも自分は驚いていませんという相貌と内容に若干納得がいかなかった。



 そもそもの原因は、公爵家の長男に生まれながら騎士団に努め、強さをひたすら求める彼に対して世間の風は冷たかったことにある。

 基本実力主義の騎士には平民の者の方が多い。

 その中に貴族はいるが大抵は三男だったり、すでに次期当主になれる見込みのない次男だったりするのが多いのだ。

 そんな彼らは何となく力をつけながら、どこぞの良家の婿になるのを狙っていなくなることが多いことから騎士になろうとする貴族は必死になって騎士になろうとする平民に嫌わるのだ。

 平民である彼らは生活のために厳しい試験を受け騎士になるというのに、貴族はただの出世の駒として考えている連中が多いのだから無理もない。(中には真面目な者もいる)

 そんな中に公爵家でありしかも長男である彼は、最初は入団のうわさが流れた時は何かの嘘だろうと思った。

 しかし、そんなみんなの期待を裏切り入団し着々と力をつけていった彼は、周囲の反感を買うこととなった。

 共に訓練を受ける物は彼の努力を知っていたので問題はなかったのだが、それを知らない(知ろうとしない)人物は実家の権力を使ってのし上がってきたと非難し、王宮に勤務する者は騎士の中に公爵家の手の者が入るという事態を嫌悪した(もとい、怯えた)者たちに覚えのない中傷を頂いたのである。

 そんな彼は生粋の貴族であったこともあり、相手に己の腹を探れぬように急速に感情の起伏をコントロールするすべと、表情を表に出さないというスキルを身につけていった。

 だから彼は飄々と嘘をつく。

 だたし、己の感情についてが主だが。

 実際、最近は自分の感情について自覚症状があるのだろうかという不安と心配がシュアークを良く知るフリューテルには生まれていた。



「昔は可愛かったのに……――――」

 そっと昔を思い出し呟いた言葉に、彼は訝しげに眉間に皺を刻みながら何も言わずに己の表情を眺めていた。しかし、フリューテルはそれに気づかないふりをして答えなかった。

 そんな折に、タイミング良く寝室の扉が開いた。


ちなみに近くにビューもいます。

ただそっと静かに待っています(笑)

そしてフリューテルも忘れているわけではありません。

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