Ⅱ レイの見解
さすがにこれには驚いたらしいシュアークとクメールは言葉を失ったようだった。
彼らは第一王子に関しては何一つとして語っていなかったのである。
その存在がいまあるかないかに関しても。
紹介されないのであればもう存在しないと思ってもおかしくはない状況。
隣国と戦乱まじかだというこの時だからこそ何も語らずレイが干渉するのを防いだのだろうが、それは無駄に終わった。
シュアークは自分を落ち着かせようと深く息をついた。
どうも目の前にいる人物に隠し事をしようとすると失敗に終わる傾向にある。
ため息をついたのを肯定と受けとったのか話を掘り下げて来た。
「毒ではないのですか?」
質問している風だが、肯定していると何ら変わらない言い方だった。
なぜここまで知らないことを的確に見通す事が出来るのか疑問に思った。
「原因は不明だ。
それまで健康だった殿下が徐々に体調が悪くなっていった。
多くの知識を持つ王室医師でも原因を突き止めることが出来ていない」
レイは限りなく毒殺を謀られているとみて間違いないと思った。
病死のように見せかけ徐々に衰弱させ殺す。彼女もまた同じ手口手殺されていた過去があるため分かる。
徐々に陥れることで周りの者に怪しまれずに殺害することが出来る。
ただし、毒を混入するところを見られてしまえばそこで計画は破綻となる危険な計画でもある。
しかし、それさえどうにかしてしまえれば、死に陥れたい人物をいつかは病死のようにしてあの世へと旅立っていく。
己の甲斐性がない為にこのような事態になってしまったという後悔の念と、その周りにいる人物たちの助けたくとも何もできない不甲斐なさという負の産物を植え付けることができる。
負の産物という者は時としても多くのモノを失わせる。
今回は第一継承者である王子を失脚させることによるリーベルア国の内部崩壊が目的だろう。
第二王子であるフォルテは帝王学を学んではおらず、また本人も学ぶ気がない。
あくまでもこの国を継ぐべき人物は己の兄である第一王子で、自分はただの補佐役でしかないという認識しかないのだ。
もし仮に兄が死去した場合でも、兄が受継ぐべきはずだった者を背負う事を奪ったと認識する可能性がある。
気丈夫である国王と王妃だが、己たちの息子でこの国の継承者を失うことは多大なる悲しみを生み出すだろう。諸侯たちも同様である。
「その王子に会わせてください」
ピクッとシュアークの眉毛が動いたのを見逃さなかった。
「なんの為に?」
短く質問してきた声は低く冷たい音だった。
恐らく無意識に守るべき人物を守ろうとしているのだろう。
「医学の知識が多少なりともあるから見てみる」
そう言うとシュアークだけでなく、その場にいたすべての人間が驚いていた。
何を隠そう、シュアークの前世である時和から受け継いだ知識。
当の本人がほぼ得ていないことが少しばかり胸に痛みを与える。
しかし、レイは気付かないふりをした。
そんなことをしようとしても無駄だというのを嫌というほど分かっていても。
「異国の医学の知識か……分かった。確認してみよう」
この国きっての医師であるナルザが見てもダメだった事が良くなるとは思っていなかった。
だが、もしかしたらという考えが浮かんだ。
この日はこれで解散となり、レイはバルーゼにあてがわれた客室に案内されていった。
シュアークは国王に面会を取り次いだ。
どうせまたダメだろうという重い失望感の中に少しだけ見えたかすかな一粒の光の許可を乞うために。
客室に案内されたレイは応接間の椅子に優雅に座り込んで考えていた。
敵対している国――エルバイヤの内情を知りたいがどうしようか悩んでいた。
いつもならば、彼女の手下であり部下である者に頼むのだが、ここは異世界そんな人物は存在しなかった。
(どうしようか……)
真剣に悩んでいるレイの足元が一瞬うごめいた。
真剣に考えすぎていたレイはその気配に気づくもほんの一瞬でしかなかったために見間違いだったと気にも留めなかった。
もう少し真剣に探ってみれば気付いたかもしれないその気配はそのままにレイは考えるのを中断して寝ることにした。
気付いてもらえなかったそれは、レイの知らない間に少しずつ形をなしていくこととなる。
更新遅くなり申し訳ありません。
サブタイトルがおかしいと思われる方もいらっしゃるかと思いますがパッと思いついたのをそのままつけているだけなので深く考えないで、分かりやすいしおりだと思ってください^^;